第105話 「ふぅ、満腹満腹。ご馳走様でした」

「ふぅ、満腹満腹。ご馳走様でした」


 全ての料理を食べ終えた俺は、満足感いっぱいでお腹をさすった。

 適当に冷凍食品をレンチンして済ませるはずが、まさかこんな豪勢なディナーを食べさせてもらえるだなんてな。

 思ってもみなかったよ。


 だけどちょっと張り切り過ぎて、食べ過ぎてしまったかもしれない。


 優香が小食であまり食べなかったので、ギョーザなんかはほとんど俺が一人で食べたってのもあるんだけど。

 それだけでなく、俺が食べるところをそれはもう嬉しそうに見ている優香の視線を、つい意識してしまって、ご飯を多めにお替りしたりと張り切り過ぎてしまったのだ。


『蒼太くん、いっぱい食べてね♪ ロールキャベツはまだまだお鍋にあるから』

『蒼太くん、ご飯のお代わりはいる?』

『やっぱり男の子っていっぱい食べるよね 見ているこっちまで楽しくなっちゃうよ♪』


 って素敵な笑顔で言われたら、『お腹いっぱいだからもういいかな』なんて言えないだろ?

 言えるわけがない。

 むしろ優香の喜ぶ顔がもっと見たくて、ご飯を1杯余分にお代わりしてしまった。


 やっぱり料理好きな優香としては、自分が作ったご飯を誰かに食べてもらうことがすごく嬉しいんだろうな。

 俺が食べるのを嬉しそうに眺めている様子から、その想いがこれでもかと伝わって来たよ。


 それはさておき。


「お粗末様でした」

 お腹いっぱいの俺を見て、優香が満足そうに微笑む。

 察するに、シェフとして一仕事終えた気持ちかな?


「食後にお茶でも出すよ。プリンがあるから食べながら一服しよう」

「じゃあ蒼太くんがお茶を入れている間に、私は洗いものをしちゃうね」


「洗いものは俺がやっておくから、優香はゆっくりしててよ」


 美味しい晩ご飯を作ってもらったんだから、洗いものくらいはやらないと罰が当たってしまうってなもんだ。


「蒼太くんはお茶を入れて、私は洗いものをする。ほら、綺麗に仕事を分担できちゃった」

 言うが早いか優香は立ってキッチンに行くと、チャキチャキと手際よく食器を洗い始めた。


 もう洗い始めちゃったし、ここは優香の言うとおり2人で別々に動いた方が効率的かな?


 俺は流しで洗いものをしたり、少し残ったロールキャベツをお鍋からスープ皿に移して、ラップして冷蔵庫インする優香の隣で、やかんでお湯を沸かすと、食後の日本茶を2人分入れた。


 そして冷蔵庫から焼きプリンを2つ取り出すと、手際よく洗いものも終えた優香と食後の一服をした。



「ん~~♪ 甘くておいしい♪ 普通のプリンもいいけど、焼きプリンはキャラメリゼしてるのが味わい深いよね~♪」


 スーパーで売っている平凡な焼きプリンなのに、まるでデパ地下の有名洋菓子店の謹製プリンを食べるみたいに美味しそうに食べてくれる優香に、


「優香、今日はありがとな。晩ご飯、本当に美味しかった」


 俺は今日何度目か分からないお礼の言葉を告げた。


「蒼太くんに喜んでもらえて良かった」

「また機会があったら食べさせてもらえると嬉しいな」


「また機会があったらね。いつでも呼んでくれていいよ?」

「あはは、いつでもは呼ばないよ。さすがに迷惑だろうから」


「迷惑だなんてそんなことない……よ?」

「そうか? なら遠慮なく頼むな」

「うん♪ 待ってるね♪」


 ま、このあたりの言葉は、日本人ならではの社交辞令だろう。

 これを真に受けて、事あるごとに優香を呼び出してご飯を作ってもらったりしたら、優香の中で俺の評価がダダ下がりする事は間違いない。


 遠慮と感謝の気持ちをもって、お互いに気持ちよくお付き合いしないとな。


 とまぁこんな感じで、俺と優香はまったりとした雰囲気で食後の時間を過ごしたのだった。

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