第64話 未来視……?(1)

「むにゃむにゃ、ついに俺はやったぞ、悪のクズドラゴンを倒したんだ、オケーイ……はっ!? 俺は一体何を……?」


 はっと目を覚ますと、俺の目の前には優香の顔があった。

 同時に、頭の後ろに柔らかい感触があることに気付く。


「ふふっ、蒼太くんってばうたた寝していたのよ? 毎日お仕事で遅くまで頑張ってくれているもんね。平気だって言ってたけど、やっぱり疲れが溜まってるんでしょう?」


 どうやら俺はせっかくの休日だというのに、新婚ほやほやの妻である優香と一緒に過ごしながら、あろうことかうたた寝をしてしまったらしい。

 そしてその間、優香は優しく俺を膝枕して見守っていてくれたようだった。


「悪い、せっかく2人きりの休日だったのに」

「謝らなくていいわよ。蒼太くんが毎日お仕事をすごく頑張っているのは、私が誰よりも知ってるんだから」


 優香がふんわりと優しく微笑む。


「サンキュ、優香。でも、なんか変な夢を見てたんだよな」

「ふふっ、どんな夢を見ていたの? 私にも教えて欲しいな」


「たしか――あれ、なんだったかな。ごめん、忘れちゃった」

「ううん、夢ってすぐに忘れちゃうよね」


 膝まくらをされて、優しくおでこや頭を撫でてもらいながら、優香と他愛もない話をしていると、


 ピンポーン。


 玄関のチャイムが軽快な音を響かせた。


「あら、宅配便かしら? ごめんね、蒼太くん。ちょっと頭を下ろすわね」

「いや俺が出るよ。優香はそこにいて」

「でも」

「いいっていいって。少し寝たおかげですっかり元気になったから」


 俺は立ち上がろうとした優香を制してささっと立ち上がると、玄関に向かった。


「はいはい、どちら様ですか? 新聞の勧誘なら結構ですよ――って、美月ちゃん?」

 ガチャリとドアを開けると、そこには優香の妹である美月ちゃんがいた。


 女子大生になった美月ちゃんは、優香に負けず劣らず美人で可愛くて、今日も短いスカートで小悪魔な魅力を惜しげもなく披露している。


「蒼太おにーちゃん。こんにちは♪」

「こんにちは美月ちゃん。急にどうしたんだ? 俺とは約束はしてなかったよな? 優香に用があるなら、中にいるぞ」


「あのね、蒼太おにーちゃん。美月、できちゃいました」

「……え?」


「美月、できちゃいました」

「で、できたって、何が……?」


 そう言いながらも、俺は少し膨らんだ美月ちゃんのお腹から目が離せないでいた。


 美月ちゃんはついこの間会った時も文句なしにスタイルが良かった。

 だっていうのに、なぜその美月ちゃんのお腹が少し膨らんでいるのだろうか。


「もちろん美月と蒼太おにーちゃんの愛の結晶です。男の子でも女の子でも名前は2人の名前から一文字ずつ取って蒼月そうげつにします」


「いやあの。だって俺、美月ちゃんとは――」

 心臓がドクドクと早鐘を打ちはじめたる。


「お姉ちゃんと結婚する前に、一度だけ美月とえっちしましたよね?」


 冷や汗がツーっと背中を流れ落ちた。

 心当たりが――あった。


「それはだって、美月ちゃんが最後に思い出をくれって言うから。そしたら俺と優香のことを心から祝福できるからって。でないと俺への未練を断ち切れなくて、一生恋ができなくなるからって、泣いて懇願してきたから――」


 だからこの一度きりという約束で、俺は美月ちゃんと禁断の関係を持った。

 美月ちゃんにすがりつかれてワンワンと泣かれてしまって、俺はどうしても断ることができなかったのだ。


「その時にできちゃったんです」

「……嘘だろ?」


「嘘じゃありません。お腹の中の子供は蒼太おにーちゃんの子供です」

「…………」


「美月、蒼太おにーちゃんの子供、産みたいです。だめ、ですか……?」

「俺は、だって。俺は優香を愛していて……」


「だめ……、ですか……?」

 美月ちゃんが可愛らしい上目づかいで俺を見上げてくる。


 何度もお願いされてきた美月ちゃんの上目づかいだが、ことこの件に関しては俺は簡単には首を立てには振れなった。


「…………」


 状況を正しく認識した俺は、手が震えているのを自覚する。

 息も苦しい。

 まるで肺が呼吸の仕方を忘れてしまったようだった。


「蒼太くん、誰が来たの?」

 ――と、そこで家の中から優香の声が聞こえてきた。


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