第50話 美月ちゃんの向上心
とある平日の放課後。
学校帰りに優香の家にお邪魔していた俺は、優香と美月ちゃんと3人で、人気ゲーム機で鉄道系パーティゲームに興じていた。
「ここで温存していた刀狩りカード発動です! 対象は蒼太おにーちゃんです!」
「ぎいゃぁぁぁっ!? 次のターンで使う予定だった俺のシンデレラカードが奪われただと!?」
「計画通りです」
「ふふふ、蒼太くんってば美月が持っていたのすっかり忘れてたでしょ」
美月ちゃんと俺のやり取りを見て、優香がクスクスと笑う。
「ひどい、美月ちゃんの人でなしめ!」
「ごめんなさい蒼太おにーちゃん。でも
「くっ、言ったな!? だが今に見てろよ? すぐに
そうだ、このままコテンパンにやられたままで終わってなるものか。
ゲームはもう終盤戦だが、まだまだ起死回生のチャンスはある。
簡単に逃げ切れると思うなよ!
「じゃあ私も蒼太くんに、さっきのターンでゲットした強奪飛び周遊カードを使おうっと♪」
「ちょ、優香!? 今ナチュラルに追い打ちかけるのはやめてくれない!?」
「だって今はトップの美月を狙うより、弱った蒼太くんを狙ったほうが効率良さそうだもーん♪」
「姉妹揃ってひどい!? だが待つんだ優香。冷静に考えて、倒すべき相手は俺じゃなくてトップの美月ちゃんだろ?」
「私のプランとしては、ここで蒼太くんから資産をしっかり頂戴しておいて、最終決戦で美月と勝負する作戦なんだよねー。ってことで、はい没収~♪」
「ぎぃやあぁぁっ! 俺の最高額資産・東京ネズコランドが強奪されてゆく……っ!」
「ごめんね蒼太くん。でも
「くっ、これが
とまぁこんな感じで、3人で
「そう言えば、蒼太おにーちゃんって水泳は得意ですか?」
ゲームが一区切りついた後に、トップでクリアした美月ちゃんがそんなことを尋ねてきた。
「まぁボチボチってところかな? 元々運動神経がいいわけでもないし、クラスで一番ってほどじゃないけど、特に苦手ってわけでもないぞ。小学校の6年間ずっとやってたから基礎に関してはばっちりだと思う」
「じゃあ美月にバタ足を教えてくれませんか? 美月、まだ上手く泳げないんです」
俺を見る美月ちゃんは、ゲームをしていた時とは違ってとても真剣な顔をしている。
俺はすぐにその意図を察した。
多分だけど、あの時溺れたからちゃんと泳げるようになりたいって、思っているんじゃないかな。
いや、この真剣な表情を前に「じゃないかな」なんてのは付けるべきじゃないか。
もう溺れないように、しっかりと泳げるようになりたいって美月ちゃんなりに強く思っているんだ。
まったく。
まだ小さいのに向上心のある子だよなぁ。
偉いぞ、うん。
美月ちゃんの思いには、お兄ちゃんと慕われている俺としても全力で応えてあげたいところだな。
「教えるのはぜんぜん構わないんだけど、いかんせん水泳は練習する場所の確保が問題なんだよな。それにまだ春だから水の中に入るのは寒いしさ。とりあえず夏になったらってことでいいかな?」
美月ちゃんのやる気は買うものの、現実的な問題として春にプールはちょっと難しい。
夏は夏で、空いているプールを見つけるのが難しいってのはあるんだけども。
近場の行きやすいプールはどこも人でいっぱいになるだろうから、練習するスペースがとれるような、遠かったりして人がそう多くないプールを探さないといけないだろう。
そんなことをなんとなく考えていると、
「それなんだけどね」
優香が話に入ってきた。
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