夜風
清瀬 六朗
第1話 ここ、こんなのだったっけ?
バスはほこりっぽい道の横によろめくように寄り、停まった。
バスを降りたのは瑠姫一人だった。
もともとバスに乗っていたのは瑠姫のほかに三人だけだった。バスは排気ガスと土ぼこりを上げて去って行く。バスの後ろの行き先表示が白い土ぼこりに紛れてもう見えない。
容赦なく襲ってきた暑さにふうっとため息をつく。
道の向かい側の切り通しの崖を見上げる。
「ここ、こんなのだったっけ?」
最近、補修したらしく、真新しい白いコンクリートの枠のあいだにぎっしりと石が詰めこまれ、上から金網で押さえてある。ここはたしか竹藪が広がっているだけの山の斜面だった。
道のこちら側はいまも竹藪だ。竹藪の手前にプレハブの物置に窓をつけただけのようなバス待合所がある。
バスが停まる前に窓から見たときには、バス停の手前に、白い日傘をさした、長い髪の女の人がいただけだ。
それはそれで幸織らしいと思って、瑠姫は軽く笑って軽く息をつく。
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