第20話 わたしは瑠姫を沖まで連れて行く係
瑠姫は、レモンイエローのワンピースの水着を着て、上から大きいバスタオルを羽織っている。そのバスタオルも黄色と緑の柄なので、全体に黄色っぽい。会社のレクリエーションでいっしょになった男の後輩に
「黄色は欲求不満の色ですよ」
と言われたので
「その発言ってセクハラだよ」
と指摘して一発で黙らせた。自分でも、そろそろ派手かな、と思っているのだけれど、年に何回も着るものではないので、そのまま使っている。
幸織は、今度は下は足首まである紺色のジーンズのパンツを穿き、上半身はたっぷり余裕のある黄色の長袖のシャツを着ていた。瑠姫と幸織とで微妙に色目の違う黄色がお揃いだ。幸織はそのうえ襟にも白いタオルを巻き、頭には大きい麦わら帽子をかぶっていた。髪の毛はその帽子のなかにまとめてしまったらしい。手にも手袋をはめている。大きな鞄を提げていた。すらっとしたスレンダーな脚はともかく、上半身だけ見ると力仕事に行くみたいでワイルドだ。
海に着くまでのあいだに
「幸織は泳がないの?」
ときいてみる。幸織は、少しとまどってから
「うん」
とうなずく。それから顔を上げ
「わたしは瑠姫を沖まで連れて行く係だから」
といたずらっぽく言った。
いや、そこまでしてもらわなくても、と言うのもためらわれた。それだったら、沖には行かなくていいから、いっしょに泳ぎたい。でも、あの「海、行かない」という硬いことばが瑠姫の気もちに引っかかる。それで、そのかわり
「暑くない、それ?」
と軽くきく。
「何言ってんの!」
幸織がいたずらっぽさを引きずったまま答えたので、瑠姫はほっとした。
「熱中症予防だよ熱中症予防! 分厚い服着てたほうが体に熱が入らなくていいんだよ」
「ああ……」
いや、それはそうだが、着ているもの自体で暑くなって汗をかいて脱水症状になったらそれもよくないんだが、と思う。
防波堤を抜けて浜に出る。
浜の様子は瑠姫が知っているのとはぜんぜん違っていた。
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