第7話 もういない
「で、さ。さっき言った
「ああ……」
その従兄は幸織とどれぐらい歳が離れているのかわからない。でも、同じ年頃だとしたら、その人にもう子どもというのがいておかしくない時期なんだ。
それも、二人も。
瑠姫だって、会社の先輩が結婚した、子どもが生まれたという話はきく。結婚式の二次会に呼ばれたこともある。二次会で酔ってはめをはずして大騒ぎして、花嫁よりずっと目立ってたねと上司からも後輩からも何日もしつこく言われたこともある。
でも、そこで結婚したのは、自分より会社にずっと長くいた先輩だ。
友だちの家族で、それがふつうなんだと思うと、どう考えていいかわからなくて、瑠姫はとまどう。
幸織が言う。
「それで、瑠姫に来てもらうんだったらいまだな、って思って」
ちょっと笑って
「お母さんも、お兄ちゃん、あ、従兄のお兄ちゃんね。その一家がいなくなって、なんか忘れものをしたみたいに寂しいって言ってるしね」
と言う。そこで、瑠姫も
「わたしもさ、ちょうどここらへん、予定なかったから。もともとまだ梅雨の予定でいたからさ。晴れちゃってどうしようって思ってたし、それに、うちの部署さ、次、いつ休めるかわからないんだよね」
と返した。
「社会人」っぽい話してるな、と、自分で思う。
「でも、そんなに気を使ってくれなくても、どっか泊まるとこ探すのに」
「泊まるとこなんか、ないよ、このへん」
幸織は、言って、あの目尻が曲線を描いた目を細める。
「え? だって……」
たしかにあの巨大ホテルは瑠姫が中学生だったころに閉鎖された。でも、そのほかに、洋風のペンションもあったし、民宿もあったはずだ。
クラスで女の子たちのリーダーだった
幸織が小さく首を振った。
「いまじゃ
「うん……」
ちょっと黙ってから、きいてみる。
「ユキちゃんのところは?」
ユキちゃんというのはその結生子のことだ。
「もういない」
幸織はぽつっと答えた。すぐに続きを言わない。
少ししてから、瑠姫のほうは見ないで
「結生子だけじゃなくて、あそこの家族みんなね」
と続ける。硬い声だった。
「……そうなんだ」
そうは言ってみたけれど、すぐには納得できない。
何があったのだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます