第63話 アイドルみたいなのだ
しばらく間を置いて
「その大学の先生が、その、
「ああ、
なぜ知ってる?
「いや、名まえまではきいてないけど、女の先生で」
「うん。大藤
結生子も「のぼせるくらい」に美人だと言っていた。
どんな人なんだろう?
「なんでも若いころは化粧品の会社に勤めてて、それで大学の先生に転職したって人。その遺跡のこととかあって、このあたりにずっと関心を持ってくれてる先生でね。この村にも何度も来たんだけど、うん、そうだ」
幸織はまた短く笑う。
「皮肉なことだよねぇ。その結生子のおじいさんが怒って追い出しちゃったんだ。どうせまた自分たちの悪口を書くんだろう、そんなことはよその村でやってくれって。それで、うちのおばあちゃんとかがさ、
口もとに笑いを浮かべる。
「そうかあ。そういう運命だったんだね。だから、結生子って期待されてるんだよ、その大藤先生って先生に。うん。そうかあ……」
幸織は何度も感心している。そう見せているのか、本心で感心しているのかはわからない。
「結生子って、まじめだからなぁ」
「うん」
そういう話になって、瑠姫は、さっき結生子にきいた話を幸織に黙っていないほうがいいと思った。
いやがるならそこでよせばいい。怒ったら謝ろう。でも、友だちならば、何も言わないというのはやめておいたほうがいい。
そこで、声のトーンを落として、下を向いて、言う。
「きいたよ。ユキちゃんから。幸織とユキちゃんが
それで、顔を伏せたまま、目を上げて、幸織を見る。
「あ、あっ。ちょっと待って」
それが幸織の反応だ。やっぱり、幸織には「心の準備」がいる話なのか。
「そのまま止まっててね。あ、いや、だから、動かないで。とくに、顔、動かさないで」
何だろう? 止まっていなければいけないなんて。
ここには猛毒クラゲとかがいるわけでもないのに?
それに、とくに、顔?
なんで……?
言われたとおり、顔を動かさずにいると、幸織はポケットからスマートフォンを出して自分の顔の前にかざした。
何をするんだ? まだわからない。
ぱしゃん。
「あっ……!」
「ふふふっ」
幸織は瑠姫に身を寄せ、暗い夜の空をバックに、そのスマートフォンの画面を見せてくれた。
「なんかこの瑠姫の姿勢、色っぽいのだ! こっちをそっとうかがってるみたいな感じとかさ。うん。アイドルみたいなのだ」
中学生のときに幸織が得意にしていたしゃべり方に戻ってしまう。瑠姫の体の力が抜ける。
「この歳でもうアイドルとかでもないでしょうが……」
「ふふっ」
幸織はやっぱり話をごまかしたかったのだろうか?
いや、たしかに、自分で思っている自分の顔とは思えないほど、その写真からは「異質」の感じがしたのだけれど。
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