第39話 人間だったらお葬式をあげるでしょう?
たしか
いや。あの年頃のことだから、喪服なんか持っていなかったはずで、何を着たのか、よく覚えていない。
幸織が声を
「保健所なんかに電話したら、あれ、……あの子、ものみたいに扱われて……」
しばらく顔を伏せていた
「猫だって何だって、死んだらものだよ」
幸織は両方の目を見開いて結生子を見た。結生子は目を合わせないで、続ける。
「それは、人間でも同じ」
そしていっそう眉をひそめ、目を細くする。
幸織は、たしかにその結生子の横顔を見ていた。
「だって」
そして、さっきより低い、小さい、そのかわり落ちついた声で言った。
「それでも、人間だったらお葬式をあげるでしょう?」
結生子は答えない。
「だったら、あの子にだって」
言って、訴えるように上目づかいに結生子を見る。
結生子が、そんなの無理だ、と言うと、幸織と結生子はけんかになる。
だったら瑠姫が言ったほうがいいのだろうか。
でもことばは出て来なかった。この状況で何を言えばいいのだろう?
「わかったよ」
瑠姫が言う前に、結生子はそう答えた。
そして、顔を上げた結生子は、いままでの目を細めて眉をひそめていた結生子とはもう表情が違っていた。
「あの子のことをほかのだれにも言わないで。もちろん家族にも。集まるところはわたしが伝える。準備ができたら呼ぶから、今日はそのお葬式に出てこられるようにしておいて。でも、その前にだれかがあの子に気づいて保健所とかに連絡してしまったら、もう何もできなくなるからね。それはわかっておいて」
「う……ん」
幸織は、その結生子の変わりようについて行けただろうか。
「じゃ、急ぐよ。いちど家に帰って必要なものを持って来るから」
結生子はそう言うと、自分で先に立って帰り道を急ぎ始めた。
どんな気もちでその結生子について行ったか、瑠姫は思い出せない。
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