第17話 こんな日に泳ぐのか!

 瑠姫るきはいつもは自分の家で水着に着替えて海に出るのだが、この日はさすがに寒すぎた。結生子ゆきこは、お嬢様らしく、家で水着を着て浜まで行くなんてはしたない、と、浜に出るまで水着に着替えるのは禁止されているらしかった。幸織さちおは水着を最初から持っていた。朝、家を出るときから持って来ていたのだ。それでも、家まで水着を取りに行った瑠姫と結生子を自分の家の前で待たなければいけなかったのだけど。

 三人で砂浜に出る。幸織の家から砂浜まで三分もかからない。たぶん走れば一分ぐらいだ。その短いあいだも、幸織は二人を引き離しては戻って来るのを繰り返した。

 学校の指定する海の家の管理人さんに

「あんたたちこんな日に泳ぐのか!」

とあきれられて、着替えて、シャワーを浴びる。シャワーを浴びただけで、ぞくぞくっと体の芯からふるえがきた。このまま心臓が止まってしまうのではと思った。そのあと、外のベンチで、バスタオルを羽織ったまま、待つ。幸織がなかなか来ない。雨のなか、寄せては返す大きな海を見ながら、がたがた震える。どんどん血色の悪くなってくる唇で、結生子と瑠姫は顔を見合わせて苦笑いした。

 海に入ったとき、海のなかのほうが温かくて、ほっとしたくらいだ。

 結生子はとても優雅にゆっくりと手足を伸ばして平泳ぎで泳いだ。きれいな海の水の下で、白い体がきれいに動くのが、横から見ているだけでも美しくて、うらやましかった。自分の体を完全にコントロールしてる、という感じだった。体力にも余裕があるようで、首をきれいに反らして海の上に顔を出し、左右を見ながら泳いでいた。

 幸織はというと、ばしゃばしゃばしゃばしゃ、わざと水しぶきを派手に上げてバタ足しながら泳いでいた。浮き輪まで持って来ていた。それで、ゴーグルをつけてもぐっては、浮き上がってみたり、仰向けになって上下逆さの平泳ぎをしてみたり、好き勝手な泳ぎをしていた。すぐに息を切らして、浮き輪に手をのせて休み、少し休んだらまたばしゃばしゃの繰り返しだ。

 自分の泳ぎはどうだっただろう? よく覚えていない。でも、結生子の泳ぎを覚えているということは、その後ろや横について、いっしょに泳いでいたのだろう。

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