第18話 うみうみうみうみーっ!
けっきょく、海に入りはしたものの、
「うわあ、瑠姫ってきれいに編むね!」
と、お嬢様の結生子はほめてくれた。幸織は右と左で長さもふわふわさも違う三つ編みになって、最初はむくれていたけれど、結生子の
「あんたがさっさと編まないのがわるいんでしょ!」
のひと言で沈黙した。
最初は
「海水浴のあとはかき氷っ!」
と主張していた幸織も、制服に戻って海辺を離れたとたんに寒くなったらしい。
「ねえ、いっしょに
などと言い出した。この「豚汁食べて」というのは、あのルーローファンの店で、ルーローファンだけでなく豚汁もつけて、という意味だ。つまり、この海辺からまたあの坂道を上ってバスのロータリーのところまで戻らないといけない。三人ともまっすぐ帰ればすぐに家に着くのに、だ。それでもこのまま別れてしまうのが惜しかったのだろう。三人でがたがたぶるぶる震えながらその道を戻った。途中で、同じ中学校から戻ってくる先輩や同じ学年の子たちに、この子たち、なんでこんなに寒そうにして、しかも下校するのとは逆向きに歩いてるの、と
そして、幸織は次の日は風邪で高熱を出して学校を休んだ。瑠姫と結生子は無事だったので、二人でいっしょにお見舞いに行った。
そして、そんな目に
「うみうみうみうみうみうみうみうみうみうみーっ! うみーっ! うみうみうみうみーっ!」
その声は、この二階の海に面した部屋に届く、海の波の音と同じように、いまでもどこかから聞こえている。
だから、あの日から十数年後、幸織が
「海、行かない」
と答えたのが瑠姫には信じられなかった。
それは、幻のように、海の波の音に紛れていまも聞こえる「うみうみうみーっ!」の連呼よりもずっと遠くで響いた声のようだった。
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