第3話 やんっ! 見ないで~ぇ
長い三つ編みを垂らした活発な子、というのが、
この子が三つ編みを結んだのはいつ頃だっただろう? 幼稚園の時はまだだった。小学校に通っている途中のどこかで三つ編みにしたのだ。しかも、それからは、前髪以外の髪は髪が長くなっても切らないことにしたらしく、その三つ編みがどんどん伸びていった。
中学校の一年生の夏休み、瑠姫が朝に幸織の家に遊びに行くと、幸織は寝坊したらしく、大急ぎで朝ご飯を食べているところだった。きれいな艶のある黒髪を背中にふさっと垂らし、その一部分が肩から前に回っている。その髪に複雑なウェーブがかかっているのは、いつも三つ編みにしていて癖がついてしまったのだろう。頬までその長い黒髪に覆わせて、それでなりふり構わずたまごをかけたご飯を口に入れて大きく口を動かして噛んでいる。エアコンなんか入れず、縁側の戸は開け放し、玄関のほうからお茶の間に入る扉も開けっ放しになっていた。
その開け放した扉の向こうから瑠姫が見ているのに気づいて、幸織は
「やんっ!」
と悲鳴を上げた。
「見ないで~ぇこんな化け物みたいなところ~ぉ!」
と大声で言う。髪を結っていない自分は化け物みたいだと思っているらしい。それで、お母さんに
「口でものを食べてるときに大声を出さない!」
と叱られる。幸織は前を向いて唇を閉じ、あわててもぐもぐもぐとした。早く呑みこんで続きを言いたかっただろう。でもその前にお母さんに
「さっちゃんが寝坊するからでしょう? もう! 何度起こしてももうちょっともうちょっとって!」
と追撃される。
幸織は、悲惨で恨みがましい目で、じっ、と瑠姫をにらむと、今度はひじきと何かの煮物をばかばかばかっと口に掻きこんだ。
濃いお味噌のにおい、せみの鳴き声、電気はつけていないので、部屋の天井は暗くて、庭から入ってくる明かりは凶暴なほどきつい。庭の木から反射して来る緑色さえまぶしくぎらぎらして見えた。
ときおりぶーんという鈍い音を立てて、首を振りながら扇風機が回る。
遅く起きた女の子を、お母さんが台所から、困った子だ、というように見守っている。
自分も、そんな、幸せでのどかな海辺の村の夏の情景のなかにいたことがあるんだと、瑠姫はあらためて思う。
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