第13話 さびれた感じ、するでしょ?
「さびれた感じ、するでしょ?」
「うん」
十年前の親友相手にごまかさないほうがいいと思ったし、もしかすると、そう見えて実はね、というびっくりするような話の続きがあるのかとちょっと思った。
でも、そういう展開もなかった。
「ほんと、
「やっぱり、さっきのホテルがつぶれたのが大きいの?」
瑠姫がきく。
「まあねぇ」
ため息をつくように幸織が言う。
「ここの人たちは、さ、それまでのホテルの常連客だった人たちが、これからは村に泊まりに来てくれる、とか思ったみたいだけど、バスも来なくなって駐車場もなくなったら、だれも来ないよね」
幸織は、瑠姫にまだきくつもりがあるかどうか確かめるように、瑠姫のほうに顔を向けた。
きくつもりはあったので、瑠姫も幸織を見返す。幸織は続けた。
「そのホテルが撤退したことの補償か何かっていうのが出てさ、漁港のところに漁業博物館っていうのを造ったんだよね。開館したときには、毎日花火を打ち上げたりして、あのホテルが戻って来たみたいな感じだったよ」
「でも、博物館なんでしょ?」
博物館で打ち上げ花火なんだろうか。また、あの夏の日々のように、毎日、ここの空に打ち上げ花火の光が開いて散ったのだろうか。幸織がくすっと笑う。
「ホテルが、車で直接乗り入れられるところにあってつぶれたんだよ? この坂を下らないといけなくて、大きい車は入れないようなところにそんなの造ってもねえ。まあけっこう貴重なものは買いそろえたらしいんだよ、補助金も出たから。でも、もちろんお客が入らなくて、あと大学に売ったみたいだけど、週に二日とか三日とか開いているかどうか、っていうのになっちゃって、けっきょくいまは閉鎖。その大学の人が授業で使うときに開ける、って程度。こんなんじゃ、どこからも人は来ないよね」
言って、幸織は肩をそびやかして見せた。
急な坂は終わり、道の両側には家が建ち並ぶ。昔のとおりだ。建て替えられて新しくなっている家もあったけれど、更地になっているところもあった。
なかでもおどろいたのがあの「いわし御殿」がなくなっていたことだ。高い塀と、その上の鉄の飾りは残っていた。でもそれだけだった。あのいかめしい鉄の扉はなく、その扉のあったところから中が見える。
瑠姫が一度も通らなかったあの鉄の門が、いまはだれでも通れるようになっている。
なっているが、通ったところで、何もない。
あの「御殿」の建物もない。古めかしいあの土蔵もない。
庭木だったらしい大きな木が何本か点々と残っていた。あの、小さかった瑠姫には、どこまでつづいているかわからなかった大きな庭の庭木だ。蔓草が絡まりついていた。もちろん手入れもされていない。庭だったところには雑草が生い茂っていた。
隣の民宿だったところも更地になっていた。こちらは手入れしてあって、草は苅ってある。そのまた隣、瑠姫が引っ越して行くときに造っていた新築の建物は残っていた。入り口に「立入禁止」と書いたテープが何重にも貼ってあった。看板に薄い字で書いてある「メゾン・ブリリアント」という文字が読める。薄い文字に微かに光沢が残っている。もともとは金色に光っていたのかも知れない。
瑠姫は黙って通り過ぎた。さっき、結生子の話をしたときの幸織の硬い声が気になったからだ。
幸織も何も言わない。
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