第14話 まあまあ、お久しぶり
その「メゾン・ブリリアント」のところからコンクリートの階段を下り、またもう一回コンクリートの段を下る。この道筋は変わっていない。海辺に向かって低くなっていくこの村でもいちばん低いところだ。そこから細い道をしばらく行ったところが
門を抜け、小さい庭を通り抜ける。玄関を入ると、幸織のお母さんが
「まあまあ、お久しぶり」
と出迎えてくれた。ほっとする。
「お世話になります」
とあいさつすると、
「いえ。いいのよいいのよ。それよりさっちゃんの世話、よろしくね」
と言う。幸織はきいて、二人分の日傘を手に持って横で笑っていた。
あのころの幸織ならば、お母さんにそんなことを言われたらさっそくむくれていただろうに。
それに、ここのおばさん、こんなにしわが多くて、背の低いおばあさんだったかな?
それはそうか。もう十年以上会っていないのだ。あのころはまだ子どもの延長だった
「あいかわらずお元気で」のようなあいさつをしたほうがいいのだろうか。でもそれもあまりにお世辞みたいかな、と思っていると、おばさんのほうから
「さあ、今日の夜は、腕によりを掛けておもてなししますからね」
と言う。自分で夕食を作ってくれるということだろう。
「ああ、楽しみです」
と瑠姫は答えた。十年以上幸織といっしょにいて、幸織のお母さんの作ったものは、お昼にお弁当のおかずを交換した以外には食べたことがない。
幸織は苦笑いして
「さ、上がって。暑かったでしょ」
と言った。幸織のお母さんはドアを開け閉めして台所に戻る。ドアを閉めたあとにかちっという軽い音が残った。
入って、左に台所とお茶の間があり、右側は、ちょっとした宴会のできそうな広さの座敷だった。座敷の奥には、幸織のおばあさんが使っていた畳の部屋があって、そのいちばん奥が仏間だった。座敷から庭のほうに出ると離れがあった。幸織のご両親はこの離れの部屋を使っていたと思う。
奥の畳の部屋と座敷のあいだに階段があって、二階は、洋間が三つと、「二階の座敷」と呼んでいた二間続きの畳の部屋があった。その洋間のうち、一つはパソコンとかプリンターとかが置いてある部屋で、その隣が幸織の弟の部屋、東に向いていちばん見晴らしのいい洋間が幸織の部屋だった。
広い。あのころは、この幸織の家よりずっと大きい結生子の家というものがあったのでぜんぜん意識しなかったが、これはいったい何DKだ? いや、ダイニングとキッチンは分かれているので、何Kだ?
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