第15話 海、行かない

 いまも間取りは同じようだった。ただ何か感じが違っている。階段を上がりながら

「家、建て直した?」

ときくと、幸織さちお

「おばあちゃんが足腰弱って、つまずいたらいけないっていうんでバリアフリーにして、あと脱水とかなったらたいへんだっていって、空調完備にしたんだけどね、一階はね」

 くすっと笑う。

 「おばあさん、お元気?」

 瑠姫るきがきく。いま、そのおばあさんのいるはずの部屋の横を、あいさつせずに通り過ぎたのだが。

 「うちでいちばん元気だよ。いまも海岸掃除のボランティアっていうのに行ってる」

 海辺の村だからな。ボランティアだってそういうのになるのか。

 「でも、二階は前のまま変わってないよ。パソコンが入れ替わったぐらい」

 その二階は外の光が入って明るかった。海の波の音が聞こえる。たしかにリフォームしたらしい下の階より天井も柱も暗い色だったが、そこに外から光がいっぱい射していた。

 「二階の座敷」の障子も窓も開け放たれ、そこから海側の明かりが入ってきている。

 あの日と同じだ。それは凶暴なほどにまぶしい。

 幸織はその「二階の座敷」に瑠姫を案内した。

 「瑠姫は、ここ、使って」

と言う。そして、またくすんと笑った。

 「瑠姫さえよければ、わたしもいっしょに寝ようかな。久しぶりに、畳におふとんしいてさ」

 瑠姫も笑った。

 「うん。わたしはかまわないよ」

 あの瑠姫の家での花火見物のお泊まり会の夜、幸織と結生子ゆきこはもともと一階の部屋で寝るように準備をしてあったのだけれど、瑠姫の部屋に小さいテーブルを出して、ゲームをしたりおしゃべりしたりしているといつのまにか真夜中になり、寝る前にミルクを温めて飲もうと言って下に下り、そこで「おやすみ」にするはずだったのが名残り惜しくてみんなで瑠姫の部屋に戻って来て、けっきょくは三人とも瑠姫の部屋で床に雑魚寝してしまった。そのころは雑魚寝ということばも知らなかったけれど。寝たのはもう三時過ぎだっただろう。そのあと、そんな時間まで起きていたのは、大学時代までない。

 また、この部屋で幸織といっしょに布団を並べて寝るのだろうか。

 想像するとくすぐったい。

 瑠姫は、荷物を置くと、幸織に、軽く

「ひと息入れたら海行こうか」

と言った。

 幸織の表情が急に曇った。

 眉を寄せて、ちょっとうつむく。そして瑠姫の顔は見ないまま

「海、行かない」

とぽつんと答えた。

 「えっ?」

と聞き直そうと思って、やめる。幸織の顔を見れば、それが聞き間違いではないことがわかったから。

 でも、すぐには信じられなかった。

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