第5話 瑠姫らしいね
「ん?」
幸織は唇を小さく閉じて、きょとんと首を傾げる。こういうところは昔のままだ。
「幸織って、いま何やってるの? 仕事」
この小ぎれいな服装で失業者ということはないだろうと思って、きく。
「うん。会社に勤めてる」
そう言って、つっ、と顔を上げる。
「物流系で、マイエクセレンスってスーパー展開してる会社」
「ああ」
電車に乗っているときいつも見る看板だ。
「うちから会社に行くときに電車で横を通るよ」
ということは、店に入ったことはない、ということなのだが。
幸織は目を細くして笑う。
「なかなか都市部には食い込めなくて」
ということは、瑠姫の会社のあるあたりは都市部ではないのかな。
たしかにそうだ。
「郊外」ではある。駅前には商業施設もオフィスビルもあるから「都市じゃない」と言われると地元の人は怒るだろう。
でも、駅を少し離れれば、田んぼか畑か、雑木林かが広がっている。または、敷地がやたらと広い工場がいくつもある。駅の近くは都会っぽいから都市部なのか、それとも駅から少し離れただけでそんなのだから都市ではないのか、よくわからない。
左手で日傘を持っている幸織は唇に軽く右の人差し指を当てた。
「瑠姫は?」
振り向く。白い日傘を通しても、幸織の顔は明るく白く浮かび上がる。
そのたびに、瑠姫は「この色白の女ってだれだったかな、あ、幸織か」という思いを繰り返す。
きかれたことに答える。
「
「うん」
一般人が知っていたら珍しい会社だ。
「ま、名まえはいかめしいけど、工場の機械の点検とかメンテナンスとか請け負ってる会社」
いや仕事内容もいかめしいか。少なくとも、ファッション雑誌に載っているようなおしゃれな服を着て仕事に行く会社ではない。
「瑠姫らしいね」
くすっと笑う。
自分でもそう思っているけれど、どこが自分らしいか、解説が欲しい。でも幸織は
「ていうか、どこに住んでるんだっけ?」
と続けてきいた。目を細めて笑って、じっと瑠姫を見ている。
「いや、年賀状、送ってるでしょ? 今度だって……」
幸織と瑠姫は、瑠姫の入っているどのSNSでも「友だち」にはなっていない。年賀状は、毎年、両方から送っている。それだけの関係だった。
「……年賀状で、連絡先調べたってメールに書いてたじゃない?」
「ううん、メールアドレス見ただけだよ。それに、住所って見てもわからないじゃない?」
そう言われればそうか。
瑠姫が「
「
「湘南っていうと、海岸のほう?」
「ああ、いや」
そうか。ふつう「湘南」と言ったら海岸か。
「海岸から、なん駅か陸地のほうに入ったところ」
「ふうん」
幸織は、やっぱり瑠姫も海岸に住んでいてほしかったのだろうか?
「実家?」
「親といっしょに住んでるか、ってこと?」
「うん」
「いや、大学までは親許から通ってたけど、いまはさすがに遠くてさ。会社の近くにアパート借りて住んでる」
「ううん……」
幸織はうなる。こんどは瑠姫がきく番だ。
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