第65話 恐ろしい女の執念だ!

 「はいっ?」

 何だろう、それは……?

 幸織さちおは、もういちど、ふふん、とおもしろそうに笑う。

 「おれ、日焼けした女の子って嫌いなんだ、ってさ。いきなり言われて。自分もボート部でがんがんに日焼けしてるんだよ! どうもさ、それが、結生子ゆきこが裏で知恵つけたらしいってわかって、わたし怒ったよ! いまも怒ってる」

 また笑う。

 「でも、それだけだよ。結生子がそんなのになったから、あのあと一回も会ってないんだけどさ、会ったら、それだけ言う」

 で、軽く肩をすくめた。

 「で、また昔みたいにつき合うよ。結生子さえよければ、さ」

 瑠姫るきを安心させるためにうそをついているようには思えなかった。

 いや、もしかして……?

 「そうっ」

 幸織はいたずらっぽく笑う。

 「せっかくさ、結生子に会ったら見せるために、あれ以来、絶対に日焼けしないようにがんばってるっていうのにさ」

 「はあっ?」

 いま、もしや、とは思ったのだけど、そのとおりだと言われると、やっぱりあっけにとられる。

 「それで幸織ってこんなに色白になっちゃったの……?」

 「うん」

 当然のようにうなずく。

 「日焼けしそうなこと全部から意識して離れよう、ってさ」

 「いや、それって」

 いちおう、きいてみる。

 「彼にもういちどアピールするためじゃなくて?」

 「そんなのぜんぜん関係ない。彼とはそのひと言以来口きいてないし」

 べつに怒りもしない。

 「そんなのじゃなくて、結生子に、日焼けしてない鳥浜とりはま幸織を見せて、驚かせるため。それだけなのだ」

 「あー」

 率直に言ってもいいだろう。幸織になら。

 「それは恐ろしい女の執念だ!」

 きいて、幸織は、きゃははははっと笑った。その声が開け放した窓から広がって行く。

 夜の村はしずまりかえっている。家は何軒も見えるけれど、そのなかで明かりの灯っている家はもうほんの少ししかない。

 夜ももう遅いのだ。

 ここでも、あの海の波の寄せる音は聞こえている。

 幸織はずっとそれを聞いて育ったのだ。

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