第66話 結生子がああいう子だからだよ
「でも、
「へっ?」
まだどうにも答えようがないのだけれど。
「その、鎌倉かどっかにいたあいだ、何の仕事してたかって」
「ああ」
結生子の話を思い出す。
「バイトに明け暮れて、って言ってたけど?」
いや、つけ加えて、何か言ってたな。
「どんなバイトかは、言ってなかった?」
「うん」
幸織は、困ったような顔をして見せた。
「どうもね、風俗関係らしいんだ。詳しいことは知らないんだけど。さすがに自分の住んでる街ではやらなかったけど、どこかの町で一番の美人とかなんとかって言われてたらしい」
「ああ……」
その話をしているときに、ときどき、言い
そうだ。わりと荒んだ生活をしていた、とも言っていた。
それがそういうことだったのか。
そこに思い当たって、理解はしたけれど、ずんと重い気もちが体のなかへ沈んでいく。
あの、まじめな結生子が……。
さっき、海のほうからしか光の入ってこないあの場所で横顔を見たとき、瑠姫はどきっとした。たしかに男のひとだったらこの子を自分のものにしようと思うかも知れないと、ふと思った。
でも、それを自分で売り物にしようとするなんて……。
それは、自分をきず物扱いした人たちへの意趣返し?
それとも、それがいちばん報酬が高かったから?
「いや。だからさ。ときどき村に現れるって話で、心配はしてたんだよ」
幸織がとまどい気味に言う。
「それでけっきょく生活が破滅して、行くところがなくなって、村に戻ろうとしてるんじゃないか、ってさ」
「ああ」
「わたしが、っていうよりさ、
「はあ」
でも……。
「還郷家と帰郷家っていうの? 対立関係じゃなかった? いや、幸織のところは関係よかったかも知れないけど、結生子の家っていちばん対立してたんでしょ?」
結生子は自分の家を「ごりごりの帰郷家」と言っていた。
「それはやっぱり結生子がああいう子だからだよ。面倒見がよくて、頼りにされて、さ、正しいと思ったことは相手がだれでも貫き通すっていうさ。そういうのって、家がどうこうっていうのより勝っちゃうからさ、わたしたちのあいだでは」
そうなのか。
ほっとする。
「でも
その美人の先生という人に、瑠姫は会ったことがない。
でも、たぶんそうなのだろう。
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