第44話 それがすべての始まり
「
「うん」
成績や家の財産から言えば、たぶん、
「それで、幸織とわたしと、おんなじ人を好きになってしまった。それがすべての始まり」
「うん」
でも「すべて」とは何だろう?
幸織と結生子が仲違いしたらしいことは、さっきから気づいてはいたけれど。
その仲違いの「すべて」なのだろうか?
結生子はまたふうっと深い息をついた。今度は顔を上げる。
瑠姫のほうは見ないで、自分の上に覆いかぶさる木を仰いだ。
「おんなじ人を好きになった、っていうのはほんとうじゃなくてさ。つまり、幸織が一方的にその男の子に熱を上げてただけなんだよね。幸織ってああいう性格だったし、瑠姫がいなくなっていっそう歯止めがきかなくなった感じだったかな、高校に入ってからは」
そうか、自分は「歯止め」だったんだな。
いや、自分は幸織に振り回されているだけだと思っていたけれど、「歯止め」になっていたんだな、と思う。
そして、自分は幸織をほうり出して、この村からいなくなってしまった……。
「幸織とおんなじボート部の男子部員だったんだよね」
「幸織、ボート部だったの?」
中学生のときの幸織は、一年生の最初だけどこかの部に属していて、それもすぐにやめてしまった。
あの性格だから、運動系の部には向かないと思うのだけど。
「うん。なんでボート部に入ったかはわからないんだけど、もしかすると、その男の子目当てだったのかな?」
さっきのオール
だから、たとえ男子が目当てだったとしても、ボートを漕ぐ練習はまじめにやったのだ、幸織は。
いまは、そのことはどうでもいい。
「で、持て余したその男の子がさ、前から幸織を知ってるからって、わたしに相談を持ちかけるようになってさ、それで、一年経ち、二年経ちして、被害者同盟みたいになったのかな。幸織の、っていうより、幸織の情熱っていうの? そういうのの」
「うん……」
「それで、高校三年生のとき、その子とわたし、関係、持っちゃったんだ」
「えっ?」
「だからさ、男女の関係を持っちゃった。つまりエッチしちゃったってこと」
いや、それはわかっていたのだが。
「えっ」というのは、それがわからないという意味ではなかったのだが。
「それで?」
先を促す。
「それを親に言ったのが、崩壊の始まり、ってわけ」
またうつむく。肘を膝の上に載せている。
ちょっとはすっぱな感じだ。
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