3-8 老子の教え
「そんな他人の喧嘩を仲裁するために召喚されたとしても、また同じ過ちが繰り返される事もありますよね。」
「えぇ。」
「王様か女王かは知りませんが、そいつらのエゴの為だけに魔王を討伐するんですかね?」
「特権階級とはそんなものなのかもしれないですね。」
「なんか、理不尽ですね。」
「そう考えるヒトも居ます。」
会話の歯車が合わない…。
老子様の話は、何か超越しているような、悟りを開いているような話だ…。
「老子様、教えてください。」
「いいですよ。」
「賢者はあくまでも自身が思う“良し悪しを判断”出来る者という事ですが、賢者は何か生み出すことはできるのですか?」
「あくまでも良し悪しを判断出来るだけという事でしょうか。」
「であれば、賢者はモノを生み出すのではなく、有るモノの良し悪しを判断するという存在なのでしょうか。」
「そういう見方もできると思います。」
そうか。だからまどかさんは何も作らなかったんだ。
自分の中で存在しているモノの良し悪しを判断している。
中学生の時に召喚され、自身で何かをすれば、何かを壊す可能性もある。
敢えて何もしないという方法を採ったのかもしれない。
「最後に一つだけ教えてください。」
「はい。」
「まどかさんが勇者時代にここに来たと言ってましたが、その時、彼女は老子様に何か言ってますよね。」
「ええ。『勇者はこの世界を無に帰すのでしょうか』と。」
ピースが埋まった。
まどかさんは“無”は何もしないという判断をしていた。
しかし、俺がここに来て、無がゼロでは無い事に気づいた。
無は有を生み出すきっかけであると判断した。
彼女を数十年苦しめていた賢者というスキルがようやく理解できた。
「老子様、ありがとうございました。
ようやく分かったような気がします。」
「それは良かったですね。
魔王も心の中に引っ掛かってたモノが取れると良いですね。」
「はい。必ず取ってみせますよ。
それに、魔王が勇者にやられるなんてことはしませんし、勇者が魔王にやられるなんてこともありません。これまでどおり魔国は平安な日々を送ります。」
「ふふふ。シメさんは面白いヒトですね。」
「魔王の夫ですからね。」
「分かりました。では今日は遅いですから、明朝ビッグフットの郷まで送ります。
それまではゆっくりとなさってください。
それと、シメさんなら、このスキルを使えると思います。」
ん?スキル?
「スキルって、“無”と同じようなものですか?」
「はい。こう見えても龍ですからね、シメさんが思う『我が与えるスキルを使いこなせ!』のようなものですね。」
あ、読まれてたんだ…。
「あ、すみません…。」
「良いんですよ。では、あなたにこのスキルを授けます。」
身体の中に何かが入って来る感じがする。
「やはり、すんなり入りましたね。このスキルって、なかなかヒトには入らないんですが、シメさんは特別なのかもしれませんね。」
「ありがとうございます。
で、どんなスキルなんでしょうか?」
「“愚者”です。」
愚者?
賢者の反対が愚者だ?
たしかタロットカードにもあったような…。
あ、賢者と言われているのは隠者か…、今のまどかさんにピッタリな言葉だ。
愚者は愚者か…。
もう一つのピースが埋まった。
頭の中にいろいろな考えや推測が錯綜していくが、彼女を守ると決めた愚者がすべき行動は一つだけ…。
まどかさんの影になること。
つまり、彼女が出来なかったことを俺が行い、彼女に良し悪しを判断してもらう事だ。
「老子様、ありがとうございます。
魔王…まどかさんの引っ掛かりが取れそうです。」
「そうですか。やはりシメさんは面白い方ですね。
愚者と言うと、皆が嫌がりますが、シメさんは嫌がってません。何故でしょうか?」
「だって、俺はまどかさんの影であり、まどかさんが正なら俺は負ですから。」
「何故そう思われたのでしょうか?」
「俺の考えが違っていれば指摘をお願いします。
おそらく老子様方はタロットカードのようなものを参考にスキルを与えておられるのではないでしょうか?」
老子様の眼光が光ったように見えた。
「ふふ。そうでしょうかね。」
「分かりません。あくまでも推測の域ですから。
でも、このたたずまいと言い、家屋と言い、過去の勇者から話を聞き、それを取り入れたものです。つまり、良いモノを取り入れ、悪いモノを捨てる。
その中で勇者から話があったタロットカードという存在に興味を持たれた。
そして、召喚者たちに知識を貰いながら、その代わりにスキルを与える。
でも、そのスキルはもらった本人が自分で考えなければ何も出来ない。
そういったスキルを召喚者たちに渡し、世界がどう変わるのかを見ていた…。」
「それが正解であるという理由はありますか?」
「いいえ、全然ありません。
でも、愚者の俺は無から有を生み出します。
それは、これまでの経験から作っているものです。
つまり、愚者は無ではなく、無でありながらも有を生み出しているのです。
ま、愚者は後付けのスキルではありますが、無は違います。
通常の愚者ではこんな事はできないのですが…。」
老子様がにっこりと笑いかける。
「シメさん、合格ですね。
流石、魔王が見込まれた方です。
そうです。私たち四龍は勇者から知識を貰ってタロットに記載のある言葉をヒトに与えることができるようになりました。
ある者はそれをスキルと呼び、ある者は加護と呼び、ある者はそれを啓示と呼ぶ…。
様々な言葉で表現されてきました。
でも、言葉を与えただけで魔法が撃てるようになるなど特別な事はできません。
与えたヒトが自身で考え、切り拓くスキルだと考えます。」
賢者や愚者は、スキルと言うよりも“二つ名”みたいなものなんだ。
これですっきりしたよ。
「老子様、ありがとうございました。」
「しかし、ここまで正解に限りなく近づいてくる召喚者はシメさんが初めてです。」
「まぁ、伊達に齢を取ってませんからね。」
「いいえ、齢は取るものではなく、重ねるものですよ。
では、先ほどシメさんが考えておられた言葉も渡しましょう。」
「ん?考えてたって、二つ名の事ですか?」
「そうですよ。称号とも言いますね。」
もう一度、暖かいものが身体の中に入って来た。
「はい。これで完了です。」
「で、何をくださったのですか?」
「“四龍の主”です。」
「へ? 何で四龍のマスターなんですか?
俺、何もしてませんが?」
「いいえ、シメさんは私たちが与えた試験をクリアしました。
よって、四龍を代表してお渡しします。」
「あの…、試験って何ですか?」
「スキル…シメさんの言葉でいけば“二つ名”ですよ。その意味を8割方解きました。」
「そうですか…。なんかピンときませんね。」
「それで良いんですよ。
あ、残りの2割って分かりますか?」
「タロットの意味ですか?」
「それもありますし、もう一つ数字の意味です。」
「タロットの意味は正直分かりません。でも数字であれば、何らかの法則があるのでしょうか。」
「ふふ。シメさんは最高の生徒さんですね。
そうです。“賢者”つまり“隠者”の数は9です。愚者は0なんです。」
「あ、“賢者”の次には“愚者”が来るという事ですか。」
「9の次は5であっても2であってもいけません。必ず0という文字が続くんです。
それと、タロットの“愚者”の意味はまさしく“愚か者”を意味しますが、頭が上部に来ている正位置での意味です。でも、逆位置の場合は正反対の意味となります。
“愚者”の逆位置の意味は…。」
ごくりと唾を飲む。
「終わりからの再生を意味します。つまり無から有を生み出すという事です。」
あ、まどかさんが俺を望んだ事、俺がまどかさんを望んだ事…。これは偶然ではなく必然であったんだ…。
ストンと落ちた。
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