4-6 勇者ご一行、魔国を堪能される

「そんな称号もらってませんよ。」

「では、何でそんなにも妻ができるんですか?

 それに、みなさん一夫多妻でいいんですか?」


 俺に言われてもなぁ…。

頬をポリポリとかきながら、どう答えようかと悩んでいるうちにフーギの近くまで来た。


「あ、フーギの街だ。

 あかねさん、すまないがその質問については、今度話させてもらっていいかい?

 自分も何がどうなってこうなったのか整理できてないんだよ。」

「そうですか…。

 でも、シメさんのその姿や並々ならぬオーラというのでしょうか、その風格がヒトを呼ぶのかもしれませんね。」

「へ?風格?オーラ?そんなの有るのかね?」

「はい。私には見えますので。」


 まぁ、そう言う事にしておこうか。


勇者一行を連れた俺は、街の南門に到着する。


「うぉ!なんだ、この城壁?」


シュン坊が唸る。

いえ、門ですよ。


「大きな街なんですね~。」


 あかねさんが感嘆する。

いえ、まだ出来て数か月です。


「カズ殿ぉ~~~!」

「あ、アルルさん!」


 南門から、アルルさんがこちらにやって来る。


「カズ殿、お疲れ様でした。

 勇者を戦闘無しでここにお連れになられるとは、やはりカズ殿は凄い方ですね。」

「いや…、勇者が俺よりも弱かっただけだから…。」


小声で耳打ちすると、アルルさんもびっくりしながらも、笑顔になる。


「そういう事ですか。

 では、詳しい話は食事をしながらという事でいかがですか?」

「そうだね。みんなお腹減ってるでしょ。

 ご飯食べながら話でもしようか?

 って、先ずはお風呂だったよね。」

「はい((はい))!」


あかねさん、ひよりさん、みほさんがにっこりと笑う。

もうソワソワしてるよ。


「んじゃ、宿に荷物を置いて、お風呂入ってからだと、2時間後に食事するって事でいいかな。レイン、場所は案内できるかな?」

「はい。道すがら案内できます。」

「あ、そうか。まだ街道にしかお店がないからね。」


先頭をレインさんと歩きながら、段取りをしていると後ろから妙な声が聞こえる。


「ふがっ!…。」


何事?

全員が振り向くと、シュン坊が壁にぶつかり、また口から血を吐いている。


「どうした!?」

「カズ殿、すみません。こやつが、私めに求婚を迫って来たので、怒りのあまり殴ってしまいました。」

「またか…。」



「シュン…、あんたってヒトは!」


あかねさん、ひよりさん、みほさんの前に正座させられている。

お三方は、お風呂に入りさっぱりしているね。


「で、シュン…、あんたシメさんにどう落とし前つける気?」

「へ?なんで?」

「あんた、既婚者に『結婚してくれ!』って叫んで回る“バカ勇者”って評判になるよ。」


既に魔国中に回っていますよ…。


「だって、綺麗なヒトに声をかけるのは当たり前の事で…。」

「それが、『結婚してくれ!』なの?あんた、よっぽどのバカね。

 シメさん、すみません。こんな奴が勇者って言われてて…。」


「まぁ良いけど。シュン坊、四龍さんにそれすると命無いからね。」

「四龍ってのは?」

「さっき話したけど、ブレイクさんが赤龍のハバムート、マデリーンさんが青龍のリヴァイアサン、ナタリーさんが白龍のヴァリトラで、ニーナさんが黄龍のフレイスヴェルグね。」

「へ?」

「もう面倒くさいから言わない!後はシュン坊で覚悟決めなよ。俺はもうフォローしないからね。」


 こいつ、ヒトの話を聞かないんだな。

まぁ、典型的な厨二病だよ、と言っても厨二病が何たるのかも知らないけど。


「ところで、シメさん。

 お風呂ありがとうございました。

 それで…ひとつお願いがあるのですが…。」

「ん?お風呂の事?」

「いえ…、みなさんが着用している…、その…、」

「あ、下着ね。多分あると思うからルナさんにサイズとかを言ってね。」

「え!本当ですか!

 みんな、やったね!ようやくあの“かぼちゃパンツ”から卒業できるよ!」

「やったぁ!」


皆ニコニコしている。

余程嫌だったんだろうね…。

それにふんどしだもんな…。

元下着メーカーで働く俺としては無理だ。


「それじゃ、飯にしようか。」

「はい((はい))!」


 シュン坊がキョロキョロしている。


「シュン坊、何してるの?」

「え、だって、おっさんの奥さんが他に居ると思うから、そのヒトだけには声をかけないようにと…。」

「食事の時に会えるから…。また殴られるなよ!」

「俺もバカじゃありませんよ。さっきは不意を突かれただけです。」

「シュン坊、すまんが四龍さんはアルルさんやレインさんよりも数倍、いや数百倍強いからな。瞬殺されるぞ、瞬殺だ。」


食事処に着く。

中にはブレイクさん、マデリーンさん、ナタリーさん、ニーナさんが待っている。


「シュン坊、この四人が四龍さんだ。決して…」

「おなしゃーす!」


 あ、こいつバカだ…。

それに、何をお願いするんだ?

完全に見境なしだよ…。


「カズしゃま、こいついかがしますか?」

「うん…、適当に気絶させておこうか…。」

「シメしゃん、こいつ殺していい?」

「いや、こんなに弱くても一応勇者は勇者だから。」


2秒後、壁にしこたま身体を打ち付けられたシュン坊の姿があるが、もういつもの事だと思い、あかねさん、ひよりさん、みほさんとアルルさん、四龍さん、レインさん、そして俺で食事をとることにした。


料理が出されると、お三方は目を丸くする。


「シメさん…。これは…。」

「うん。味噌カツね。一応白ご飯もあるからね。」


 味噌も手に入り、ワイルドボアから肉も供給される。

であれば、作るのは名古屋名物“味噌カツ”でしょ。

それに赤だしも付けて“味噌カツセット”だ。


 お三方は泣いている。


「早く食べないと美味しくないよ。」


皆が手に箸を取ると一気に食べだした。


「は!そうですね。この一年…美味しくも無い料理を食べてたから。」

「ご飯だ…。白いご飯だ…。」

「モグモグ…、しめさん、これもシメさんがお作りになったのですか?」

「そうだね。作ったというより、教えた、というのが正解だね。」

「シメしゃまは何でも再生されますからね。」

「いや、何でもはできないからね。」


和気あいあいと食事が進む。

その間、王国の状況を聞く。

あの国、やはり曲者だ。

下着は数量限定で卸しているが、王族と貴族しか行き渡っていないようだ。

シャンプー類についても、風呂は貴族の特権とばかりに独占している。

ホント、国民のストレスが無ければ自分たちで独占するのかよ。

だから、ストレスが溜まる…、その結果また召喚する…。

変なスパイラル、というよりバカだ。

自分で尻も拭けないのか…。


「シメさん…、その…、よろしいでしょうか。」

「ん?どうした?ひよりさん?」


 あかねさんが彼女たちの代表で話すと思っていたが、この食事で打ち解けたのか話しかけてくれた。


「何故、魔国に対してここまでされるんですか?

 それは命を助けられたから?それとも魔王と結婚したことが理由なんですか?」

「うーん…。理由は良く分からないな。

 でも、助けてもらい、魔王様と直接会い、話し、困っていることを相談され、それを改善した…。皆から喜ばれ笑顔が美しかった、からかな。」

「笑顔ですか?」

「あぁ。例えば下着や生理用品、食事、シャンプーやリンスは、皆に使ってもらえるだろ?

 皆が使ってくれれば、何かしらの問題もあるよね。

 その問題を改善していくことで、また皆の笑顔が見れる。

 そんな訳だから、俺が死ぬまでいろんな改善ができれば良いな…なんて思ているよ。」

「そうですか…。

 余程のバカ勇者よりも崇高な望みなのですね。」

「そうかもね。

 死ぬまでだから、俺はこの地に骨を埋めることになるけど、君たちは帰りたいんだよね。」

「できれば帰りたいですが、それは不可能な事なのかもしれませんね…。」

「まぁ、長生きしてる四龍さんも知らないって事だからね。

 ごめんね。手伝ってあげられなくて。」

「いえ、良いんです。

 さっきも思いましたが、私たちも薄々は分かっていましたから…。」

「そうだったね。

 君たちも、何か良い事が見つかるといいね。」


「つきましては、シメさん!

 私たちの先生となってくださいませんか?」

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