4-5 勇者、瞬殺される…

「そうなんです。いじめと一緒なんです。

 王国の民は、誰かをターゲットとしてチヤホヤする。

 そのヒトが成功したら一時はチヤホヤするけど、飽きるんです。

 じゃぁ、飽きたらどうするんでしょうかね?」

「飽きたら…捨てる…?」

「そうです。捨てられるんです。

 じゃぁ、捨てられたヒトはどうなるんでしょうね?」

「……」


女性三人は理解したようだ。


「そんなの嘘だ…

 あのヒトが嘘なんか言うはずない…。

 嘘だ、嘘だ、嘘だ!

 お前が俺たちをたぶらかしているんだ!

 俺は絶対に魔王を倒して王女さんにプロポーズするんだ!」


 あ、そこか…。完全にたぶらかされているだね。


「なら、魔王がどれくらい強いか理解してもらう必要がありますね。

 私は魔王の夫です。

 私よりも弱ければ、魔王を倒すことはできないけど、ここで殺るかい?」

「おう!あんたを秒で倒して魔王を倒してやるよ!」


 俺、紙なんですけど、よくそんな事言えたと自分でも思う…。

では、愛娘さんたち、パパを助けてくれるかい?


シュンが剣を抜く。

しかし、武具が貧相なんだよな…。こいつら本当に強いのかね?


「ほら、武器抜けよ。って、おっさん武器持ってないじゃないかよ。

 そんなんで良く殺るとか言ったな!」

「あ、自分、剣ではないので。

 じゃぁ、出しますね。イリスちゃんたち出ておいで。」


 俺の服の中から眠たそうに5体のミニドラゴンと精霊が一体出てきた。


「わ!何?かわいい~~~!」


三人の女の子は眼をハートにしている。


「な、なんだ?ドラゴンか?

そ、そんなの怖くないぞ!

 おっさんさえ倒せば問題ない!そしたら、あのドラゴンを俺たちがもらうぞ!

 あかね、ひより、みほ、手伝え!

 お前らにもドラゴンをやるよ。」


 あ、もう一個の地雷踏みやがった。

それも一番聞きたくなかった言葉だ。


「おい!シュンだっけ、いい加減にしとけや。

 何が倒すだ?俺を倒したらこの子たちをもらうだと?

 言うに事欠いて、そのお三方にもドラゴンをやるだって?

 お前何様なんだ、言って良い事と悪い事があるぞ。

 このイリスちゃんたちはな、俺の子供なんだよ!」


「へ?」


シュンたちが呆ける。


「イリスちゃん、あいつ焼いていいよ。

 でも、殺さない程度でね。」


キュイー!


イリスちゃんが鳴いた瞬間、一筋のブレスを吐き、勇者が一瞬のうちにまる焦げになった。


「あ…。ソフィちゃん、治癒できる?」



「さーせんでしたぁー。」


 シュン坊が土下座している。

その姿を見て、女の子三人が呆れている。


「勇者って、こんなに弱いんだ…。」

「だって、あたし達、ダンジョンとかも行ってないから。」

「へぇ、ダンジョンがあるんだ。」

「冒険者がダンジョンに行って、素材とか集めて来るんです。

 その素材で一流の剣とか鎧とかを買うんですが…。」

「あんたたちは弱すぎて、ダンジョンにも行けなかった、と。」

「おっさん…、弱い弱い言うなよ。

 そりゃ、俺たちだって練習ではそれなりに強くなっていると思ったんだよ。」

「相手が手加減でもしてくれたんだろうね。

 まぁ、そんな事はどうでも良いけど…。

 で、どうする?

 まだ、魔王をやっつけるって言う?」

「だって、それが王女さんとの約束だから…。」

「あのな…、ヒトの恋路を邪魔するつもりは無いけど、シュン坊だっけ?

 あんた、完全に騙されてるんだけど…。」

「ですよね。シメさんもそう思うんですよね。

 ほらね。シュン、あんた単細胞だから手玉に取られるんだよ。」

「そうそう、それに厨二病だもんね~。」

「う、うるさい…。」


勇者、お付きの三人にディスられまくりだ。

でも、いいお灸だよ。

俺強えーーーーーー!って言いながら、けちょんけちょんにやられるんだから…。


「で、4人さん、もうすぐ日が暮れるけど、これからどうする?」

「野宿しかないだろ…、ここから街にも戻れないし、かといって城まではまだまだあるんだろ?」

「地図持ってないのか?」

「そんなの、もらってねえよ!」


 頭が痛くなってきた…。

こいつら、完全に王国のお荷物だったのか?

装備も弱いし、実力も無い。

さらに情報を入手するという術や知識も教えてもらってない…。

よくここまで生き残ってきたなぁ、と逆に彼らを少し見直したくらいだ。


「君たちにいろいろと言いたいことはあるけど、先ずは街に行って、食事と宿だな。」

「え、シメさん、魔国って街があるんですか?」

「あぁ、あるよ。

 つい最近できたからね。それに、君たちが大好きな…って、自分が好きなだけなんだけど、お風呂もあるよ。」

「え!お風呂ですか!」

「あぁ。公共浴場があるからね。」


「ねぇ、ひより、聞いてみてもいいんじゃない?」

「でも、男のヒトに聞くのって、恥ずかしいよね…。」


 声全部聞こえてますが…。


「あかねさん、何か問題でもあるんですか?」

「あの…、そのお風呂にシャンプーとかリンスとかはありますか?」

「んと、レイン居るかい?」

「はい、ここに。」


 いきなり背後から声が聞こえた。


「うわ!びっくりした。いつから居たの?」

「ずっと居ましたけど…。」

「へ?」

「ですから、カズ様があの方と話されている時も、勇者を倒した時も、ずっと後ろに控えておりましたが…。」

「ごめん…。気が付かなかった。」

「ふふ。私の隠遁も大分サマになってきたって事ですね。」

「いやいや…。秘書さんが隠れてても仕方がないんだけどね…。

 って、そんな話じゃなくて、フーギの街のお風呂ってシャンプーとリンスの配給って終わってるんだっけ?」

「はい。因みにボディーシャンプーも終わっていますよ。」

「だそうです。」


 改めてあかねさん、ひよりさん、みほさんを見る。


「嘘…。やった!ようやくお風呂に入れるんだ。

 なんか、この世界って、お風呂じゃなくて“クリーン”だっけ?

 あんな魔法で済ませちゃうけど、やっぱ日本人はお風呂でしょ!お・ふ・ろ!」


 あかねさんが妙にテンションが高い。

ま、お風呂好きに変なヒトは居ないから。


「レイン、済まないけど、フーギまで行って、宿4部屋を確保してもらえるかな?

 あ、それと、四龍さんとアルルさんに言って、戦闘は無しだから、皆もお風呂入ってゆっくりしてねって伝えてくれるかな?」

「分かりました。では。」


「ちょ、ちょと待った!」


 いきなり、シュン坊が叫ぶ。

皆シュン坊を見るな否や、レインさんの所に詰め寄る。

一瞬、たじろぐレインさん。


「すみません。俺と結婚してくれませんか!おねしゃーす!」



 シュン坊はやはり厨二病だった…。

俺の妻であることを告げる前に、レインさんから強烈なケリを食らっていた。

今後はレインさんを怒らせちゃいけないね…。


口から血を吐いて倒れ込んでいる勇者を睨みつけ、

「そう言う事は言えるのは、百万光年早いです。

 それに、私はカズ様の妻です。もう一度同じ事を言うのであれば、二つに切りますよ。」


 だって。

うわ!カッコいい! レインさん、惚れ直したよ!

でも、百万光年は距離だよ。時間じゃないから…。


ソフィちゃんから治癒を受け、トボトボと歩きだす一行。


「シュン坊、済まないが、この世界は強い男に女性が付いてくるらしいからな。

 また、逆も真なり。強い女性に男性は憧れるんだ。

 まぁ、いろんな種族がいるから、一度話してみると良いよ。」


「シメさん…。すみません。

 シメさんには魔王という妻が居ますけど、さきほどの女性も妻なんですか?」

「うん。

 他に、精霊のアルルさん、ルナさん、ターニャさん。

 四龍のブレイクさん、マデリーンさん、ナタリーさん、ニーナさんが居るけど。」

「うわ!ハーレムだ。」

「うーん…。前の世界ではそういう風に言われるかもしれないけど、そんな雰囲気じゃないんだよ。この世界だと、みんなで助け合って生きているって感じかな。」

「で、子供も居るんですよね。」

「うん。さっき見てた5体の龍はナタリーさん、マデリーンさん、ニーナさんとの子供でしょ。それに精霊はターニャさんとの子供だし、レインさんと魔王さんとの間にも子供がいるよ。」


 三人の女の子、呆れてる。


「シメさんって、性豪なんですか?」

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