4-4 勇者って…?

「だ、誰だ!?」


男子が振り向きざま叫ぶ。


「いやぁ、お久しぶりですね。皆さん。」

「へ?って、あ!あんた、あの時のおっさんじゃないか!」


良く見ると、召喚された時、みずほちゃんがどうのって言ってた子だ。


「えぇと、あなたには一度声をかけられましたね。」

「で、あんたは何でこんな所に居るんだ?」

「何で、と言いましても、ここに住んでいる者ですから。」

「じゃ、話は早い。

 おっさん、悪いけど魔王の所に案内してもらえないか?

 俺たち、魔王をやっつけて前の世界に帰りたいんだけど。」


 なんというか、これが若者なんだろう。

自ら考えず、誰かの言っている事だけを信じて、大義名分を得たと思って生きている。

昔の俺、そっくりだ。


「確か召喚された時、勇者さんと呼ばれてた方でしたか?」

「お、おう!シュンって言う。」

「そうですか。私はシメと言います。

 そう言えば、あの時は他に4人いらっしゃったはずですが、他の4人は?」


カマをかけてみる。


「後の4人は、違う所で修行しているぞ。」

「ふぅん。彼らにはあれからお会いになったんですか?」

「そういや、会ってないな。でも、忙しいんだろ。レベルが低かったからな。」

「で、レベルの高かったあなた達4人が勇者パーティーとして街で修行していた、と。」

「なぁ、おっさん、そんな事問題あんのかよ。

 早く魔王の所に案内しろよ!俺ら早く魔王をやっつけて帰りたいんだよ。」


ダメだ。完全に洗脳されている…。

大きくため息をひとつつく。


「みなさん、今、すべて信じてもらおうとは思いませんが、少し歩きながらお話ししまようか。」

「あ″ー。そんなの必要ねえんだよ。おっさんは魔王のところまで案内すれば良いんだよ。

この能無しが!」


 ピギー!


あ、イリスちゃんが怒ってくれた。

でも、まだ手を出しちゃダメだよ。シュンって奴が手を出してきたらね!


「そうですね。確かに召喚された時はスキルは無かったですね。

 でも、あれからいろんなスキルというか、称号を得ましたね。」

「はぁ!?スキルとか称号なんて後から取れねえんだよ!」

「それは、王女さんが言ったんですか?あ、王女って女王の事ですかね?」

「何言ってんだ!王女は王様の奥さんだぞ。」

「へぇ。そうなんですね。しかし、王様を差し置いて、なんで王女?お妃さんが?」

「そりゃ、勇者だからだよ。」

「そうなんですか。で、他の3人もお妃さんや王子様とかと仲が良いと。」

「そんなのシュンだけだよ。

 あたしたちは、城と違うところで寝泊まりさせられて、毎晩変なおっさんとかがイヤらしい目つきで誘ってくるんだよ。

 もう、こんな所イヤ!

 はやく家に帰りたい!」


 一人の女の子が泣き崩れた。


「だって、仕方ないじゃん。

 魔王を倒さないと帰してくれないって言ってるんだから。」


 やっぱ、頼みの綱はそこなんだろうな…。

元の世界に帰すって言っておけば、我慢するという事か…。


「シュン君とあとの3人、ごめんなさいね。名前が分からないので。

 えと、先ず残りの4人のお話からしましょう。

 あの後、馬車2台で移動されましたよね。

 もう一台の馬車は、襲われましたよ。」

「え?襲われたって?」

「はい。申し訳ありませんが、私が見た事を伝えます。

 既に3人の男子生徒は殺されていました。もう一人…みずほさんですが、レイプされかけていました。」

「え…、みずほが…」


 3人の女の子…口を両手で覆っている…。やっぱショックだよな。


「はい。私もみずほさんを助けようとして、みずほさんに乗っかかっている奴の腹を刺したのですが、何せスキルが無かったので私も殺されました。」


 まだ腹に残っている傷跡を見せる。


「は!おっさん、今生きてるじゃないか!で、みずほはどうなったんだよ!」

「私はレベルが低く、運よく蘇生魔法で生き返りましたが、他の方はレベルが高かったのでしょうね。蘇生ができずアッシュされました。

 よって、残りの4人は既にこの世にはおりません。

 みずほさんには、私も良くしてもらったんですが…、申し訳ありません。」


3人の女の子は声も出せず、ただ涙をポロポロと流している。


「あ″?!おっさん!嘘ついてるんじゃねぇよ!」

「これが嘘だと思われるんですか?」

「おう!そんな事王国では何も言ってくれなかったし、あいつらは生きてるって言って…。」

「では、修練しているという姿を見られましたか?

 おそらく、みなさんの中でどなたか感知や索敵が使える方がお見えですよね。

 そのスキルにみずほさん達を感じることができましたか?」


 4人を見ると、一人の女の子がハッとする。


「みんなには言えなかったけど、私、感知のスキルがあって…。

 他の子の存在を気にしてたんだけど、全く感じることができなかったんだ…。」

「あかね!何で今まで言わなかったんだよ!」

「だって、言っても信じてもらえないと思ったから…。」

「少しでも希望を持ちたかったんですよね。

 しかし、惨いですが、それが現実です…。

 前の世界では、“死”という存在は自分の周りには無いと感じてましたが、この世界では常に死と隣り合わせですから…。」

「あ″!おっさんに何が分かるんだよ!」

「私も一度死にましたからね…。」


皆が思い出したようにハッとする。


「この世界は無情ですよ…。

 弱ければ淘汰されますからね。

 で、あなた方はこの魔国に来て、魔王を倒してどうするんでしたっけ?

 あ、元の世界に戻るって言ってましたね。

 でも、それって本当なんですか?」

「だってよ…、王女さんがそう言ってくれたんだ。

 それに約束してくれたんだぞ。」

「それが本当であれば良いですね…。

 では、そこのお三方、そのような話を王都にいたヒトから聞いたことありますか?」


 3人が顔を合わせてひそひそと話す。


「聞いたことがありません…。

 それに、夜な夜な来る野郎が『どうせ帰れないんなら、俺の女になれ』と言ってました。」

「あかねさんでしたか。

 それが正解なんです。

 私も蘇生され、魔王と出会いました。

 魔王はこの世界に召喚された前の勇者の仲間です。

 彼女曰く、『勇者は前の魔王を倒して王国に戻った後、行方不明になった。』と言ってましたが、前の世界に帰ったという報告は一切ありませんでした。

 それに、魔王は賢者ですが、数十年研究しても元の世界に帰る術は見つからないと言っておられましたよ。」


「そ、そんな話聞いてないぞ!」

「“聞いてない”というより、“言ってない”んでしょうね。」

「でも、俺たちは魔王をやっつけるために召喚されたんだぞ。

 それは、王国を守るために必要な事として呼ばれたんだ。

 それをしなければ何も進まない!」

「本当でしょうかね?

 帰る術が無い、魔王を倒す、仮に倒して王国に戻ったら何が待ってるんでしょうね。」

「そりゃ、王国挙げてお祝いされるんだ。」

「その後は?」

「元の世界に帰るんだよ。」


この少年、シュンって言ったか?こいつダメだわ。

こういう厨二的な奴をたぶらかせて国民のストレスを発散させているんだな…。


「シュン、もうやめようよ。

 私達、元の世界に帰りたいって言ってるけど、そんなの無理だと薄々感じてるんだよ。

 だから、別棟で夜な夜な男が言うんだから…。

 それにね…、無理ならもう魔王なんて倒さなくても良いんじゃないかって思うんだ。」

「あ″ー!煩い!お前らは俺を助けて魔王を倒せば良いんだよ!」

「シュン、いい加減にして!

 なんでアンタの為に動かなきゃいけないのよ!

 魔王をやっつける?なら、アンタ一人でやりなよ。

 もう、あたしたちを巻き込まないでよ!」


まぁ、そうなるわな…。


「だったら、俺一人で倒してやるよ!

 それで俺だけ元の世界に帰っても、文句言うなよ。」


 あ、最後の地雷踏んじゃったわ。

この言葉言うと、もう仲間割れしちゃうんだよ…。


「どうぞ、ご勝手に!

 じゃぁ、あたしたちはここでサヨナラするね。」


三人の女の子が王都に戻ろうとする。


「あかねさん方、少し待ってもらえますか?」

「何?おじさん、私達もうこいつとは関係ないから放っておいて欲しいんだけど。」

「では、王都に戻ったら何が待っているか考えてみてください。

 魔王を討伐できなかった勇者パーティーの顛末はどうなりますか?

 皆から笑いものになり、良くて王国から退去。悪くて…。」

「悪くて?」

「公開処刑でしょうね。

 そうしないと、王国の民は満足しませんから…。」

「え?だって、勝手に呼んだのはあいつらじゃん。

 あたし達は関係ないんだよ。」

「関係ないなんて、誰も思いませんよ。

 要は“いじめ”と一緒ですよ。誰かを標的にストレスを発散しているんです。」


「いじめ…。」


三人が茫然とした。

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