4-3 風雲急を告げる

「魔王様、ジューク様、一大事です!」


 ハーフエルフの、えと誰だっけ?

ああそうだ。蜜柑さんだ。

そのヒトが血相変えて執務室に飛び込んで来た。


「何事じゃ?」

「はい。リルクア王国に潜入している者から連絡がありました。

 勇者が魔国に向け出立したとの事です。」


 とうとう、この時がやって来たか…。


「まどかさん、アルルさんにお願いして、先ずは中間地点のフーギで軍隊を集合させてください。ただし、攻撃はしないで。

 先ずは相手の出方を見ましょう。

 まどかさんとルナさん、ターニャさんはこの城を守ってください。

 俺とレインと四龍さんはフーギに行きます。」

「ダーリ…、ジュークよ。それで良いのか?」

「えぇ。あくまでも敵の視察ですから。

 それに、相手が何人来ようと、四龍さんには敵いませんよ。」

「シメさん、ここで私たちをお使いになるんですね。」

「いや、まだだよ。

 今は一緒に行ってもらい、勇者の強さを教えてほしいだけ。」

「それなら、シメさんと一緒に居るイリス達で問題ありませんね。」

「へ?イリスちゃん達はまだ子供だよ。」

「子どもって仰りますが、おそらくヒト族で言うなら、1000人かかって来ても問題ないくらい強いですよ。

 でも、途中で止めてあげてくださいね。

 彼女たちは、まだ限度を知りませんので、そこは親が止めてあげるのが良いですね。」


 イリスちゃん達、イ●バ物置よりも強いんだ。100人乗っても大丈夫!

1000人乗っても…、って、遊んでいる場合じゃない!


俺と四龍さん、ドラちゃんズ(精霊含む)は、龍化してもらったナタリーさんの背中に乗ってフーギの街までやって来た。


 スミマセン…。

俺、乗り物酔いです。

フーギに到着し、ナタリーさんの背中から下りた瞬間から、リバースしてキラキラを噴出してます…。

 その姿を見て、四龍さんは情けない顔してるし、ドラちゃんズはケラケラと笑っているように俺の周りを飛び回っている。


「あかん…、気持ち悪…。」

「ホント、カズしゃんは紙だね。ね~、ヴェリア、そう思うよね~。」


ブレイクさん…愛娘をよしよししているんだが、頼むから、子どもに父親がゲーゲー吐いてる姿を見て楽しんでる四龍さんとドラちゃんズって、シュールだよ…。


「で、シメしゃま、我らはここで陣取れば良いのでしょうか?」

「あ、先ずはフーギに住んでいるヒト達に説明しないといけないね。

 えと、この街の住民に話をしようか。で、ここを統括しているヒトって誰だっけ?」

「ここは、エルフ族ですね。」


街の集会所に皆が集まる。

いろんな種族がいる、って事はもう経済も回っているんだろう。


「ジューク様、このような場所にお越しいただき…」

「あ、挨拶はいいから先ずは皆に説明しないとね。」

「は!では、皆の者、ジューク様のお言葉である!」


 皆が静まり返る…、が、俺、人前で話すことって苦手なんだよ…。

でも、意を決して言葉を出す。


「王国からの情報で、勇者が魔国に来るようです。

後ほど、魔王軍もやって来ると思うので、皆は安心してほしい。」

「ジューク様、ここが戦場になるのでしょうか?」

「いや、そんな事はないよ。

 先ずは俺たちが勇者の能力を見極めた後、四龍さんで何とかするから。」

「では、安心ですね。

 私共はいつも通り生活していればよいのでしょうか。」

「うん。いつも通りで良いです。

 あ、それと魔国軍も来るけど、いろいろお世話してあげて欲しいです。」

「そりゃ、もちろんです。

 強者ぞろいと聞いておりますので、彼らの雄姿を見てみたい者ばかりですからね。」


 よかった。パニックにはなっていない。

普通に生活してくれればそれで良い。

後は、ドラちゃんズに任せておくんだが、ホントに強いのだろうか?


住民は安心して普通の暮らしに戻っていった。

取り敢えず、四龍さんと俺たちは、街の南側まで移動し、戦略を立てることとした。


「で、勇者たちは何人で攻めてくるんだ?」


 斥候が答える。

「勇者パーティーは4人です。」

「へ?軍隊とか大勢で来ている訳では?」

「いえ、4人です。それも徒歩です。」

「ん?ビューンと飛んでくるとかではないの?」

「ははは、ヒト族に飛べる魔法なんてありませんよ。」

「でも馬車くらいはあるでしょ。」

「そうですね…。でも、彼らは歩いていますよ。」


 なんてのどかなんだ…。


「4人の勇者パーティーか…。性別とかは?」

「男性1名、女性3名です。」

「という事は、この間召喚された子って事か…。」


 彼らも取り敢えず生きていたんだ。

勇者だ、勇者だとちやほやされていたのか、それとも勇者として鍛錬してきたのか…。

彼らがこの世界でどう生きてきたのか、とても気になる。


「向こうがどう動くのか…か。」


説得できるのなら説得したい。

例え俺やまどかさんを倒したとしても、帰る事も敵わず、その後闇に葬られる…。

今は何も考えられないだろう…。

でも、彼らも何とかしてあげたい。


「んじゃ、ちょっくら行ってくるか…。

 イリスちゃんたち、パパについてきてきてくれるかな?」


ちびドラちゃんと精霊ちゃんが俺にくっついた。


「ブレイクさん、マデリーンさん、ナタリーさん、ニーナさん、ちょっと勇者に会って来るよ。」

「気を付けてね。イリスちゃん、勇者を死なせちゃだめだよ。」


あ、勇者の心配してるわ…。


フーギの南の街道から王国へ続く一本道。

まぁ、どんな成長をしているのか楽しみだけど、彼らが厨二病になっていないことを望む…。


かれこれ1時間くらい歩いただろうか…。

街道はまだまだ続いている。

一本道だから誰も間違えないとは思うが、少し心細くなってきた。


「イリスちゃんたちは…、あ、寝てるか。」


俺の服の中に入ってぐっすり眠っている。

なんだか、こんな散歩も悪くないよな。

そんな事を思いながら、歩いていくと、遠く前方から声が聞こえてきた。

道の脇に隠れ、様子を見てみる事にした。

「って、何であたしたちが魔王と闘わなくちゃいけないのよ!」

「それが王女様のお願いなんだから…。」

「あなたはいいわよ。いつも王女さまと一緒に寝起きしてるからね。」

「そうよね~。あなたは王女様のお気に入りだからね!

 でもね、あたしたちは関係ないから!

 それに、あんな臭いおっさんが近寄ったり、なんだか分からない薬とか飲まされるのなんて、もうまっぴらごめん!

 あたしたちは家に帰りたい、それだけなの!」

「そんな事言っても、魔王を倒さないとここから帰れないんだから…。」

「それで?魔王って倒せるの?」

「そんな事、やってみないと分かんないじゃんかよ。」


ふむふむ。

聞いている限り、勇者と言われる男子が厨二病で王女にメロメロ。

あとの三人は早くこの世界から帰りたい。それだけ。

でも、可哀そうに…、もう帰れないんだよね…。

まぁ、強いかどうかはともかく、集団の女の子3人はチョロいって事か…。


は!いかん。ダークサイドの俺が出ている…。

それに、俺、何の能力も持たない紙だった…。


でも、あの子らに本当の事を伝える事ができれば…。

少しでも何かが変わる可能性もあるって事だよな。

まぁ、前の世界の“よしみ”ということで、少しでも何とかしてあげることができれば…。


考えるな!感じろ!か…。


街道に戻り、彼らに追いつき説得してみるか…。


彼らが通り過ぎた後ろに立ち、声をかける。


「何かお困りですか?」

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