4-2 命名式

 3か月後、俺の周りには5匹の龍と一体の精霊が飛び回っている。


すべての出産?に立ち会い、そして親として理解してもらった俺は、彼、彼女たちの父親として、ご飯をあげたりおむつを換えたりしている。

精霊は大地や俺からエネルギーを分けているだけなので問題はないが、ドラゴン5匹には一応おむつをあてがっている。

そりゃ、そうだよ。

俺の周りをくるくると飛んだり、服の中に入っているんだ。

そこでおしっこでもされたら…。


 あと一か月先にはまどかさんとレインさんが出産予定。


「まどかさん、もうすぐだね。」

「うん。すごく嬉しいよ。

 これであたしも母親になれるんだね。」

「元気な子を産んで、みんなで育てようよ。

 ここにいる5匹と1体、そしてレインさんの子供も併せてね。」

「ダーリン、ほんとに凄いね。

 一人ぼっちだった私が、いつの間にか、私以外の妻が8人と子供が8人でしょ。

 ダーリン、愛してる!」


 こんな俺なんかが父親になれるのだろうか…と思った時期もあったが、なんか温かい。

こんな事なら、前の世界でも…、と思ったけど、愛の無い夫婦生活なんて、もうごめんだ。

この世界に骨を埋める!生まれた子供、これから生まれてくる子供が快適に暮らせるように、この国をもっと豊かにする!

そう決心した。



 レインさんが先に産気づいた。

まどかさんがヒールをかけてくれたおかげで無事出産。

可愛い女の子だ。うん。レインさんの面影があるね。


 2日後にまどかさんだ。

まどかさんはターニャさんからヒールを受け、まどかさんも無事出産。母子ともに健康!

あれよあれよという間に8人。

みんな、ありがとね。

俺、もう悔いはないよ。


「ダーリン、それじゃ、みんな待っててもらったから、この8人に名付けてね。」

「あ…。そうだったね。」


 そうなんだよ…。

最初に生まれたドラゴンに名前を付けようと思ったら、まどかさんから、

『全員の子供が生まれた時に命名式を行うから、それまでは名前を呼んじゃだめだよ!』

って言われたんだ。


 名付けは種族長を城に呼んで行うみたいで、すごい行事なんだそうだ。

まぁ、初七日という言葉もあるようだから、命名式は7日後のようだ。

因みに生まれた子は、順に、

 ナタリーさん(白龍)…女の子

 マデリーンさん(青龍)…女の子

 ニーナさん(黄龍)…男の子、女の子

 ブレイブさん(赤龍)…女の子

 ターニャさん(精霊)…?不明

 レインさん(ダークエルフ)…男の子

 まどかさん(ヒト)…女の子


 すごいよね…。

いきなり、大所帯となるんだ。

俺、踏ん張るよ!



初七日となる日、種族長が魔王城に一同に集まり、皆厳粛な面持ちで主役を待ち構える。

そう、今日の主役は俺達の子供。

その子供の命名なのだ…。


 先ずは三将さん、そして四龍、その後ろにレインさんが控える。

その後、俺とまどかさんが入って来る。


 皆が平伏する。


「皆の者、面を上げい!魔王様のお言葉である。」


アルルさんが一声かける。


「皆、はるばるよう参られた。ご苦労であった。

 先ずは報告である。

 この度、我が夫との間に子が産まれた。

 さらに、慈将、秘書、四龍にも子が産まれた。

 有史以来、このように多くの子宝に恵まれた事はなかった。

 これもひとえに皆の努力により、平穏となった世の証であると感じる。

 皆、礼を申す。」


 まどかさんが頭を下げると、種族長は『おぉ…』と叫んでいる。

中には涙を流す者さえ居るよ。


「では、これより、命名式を執り行う。

皆の者、我の治世において、このように喜ばしいことがあるのは初めてである。

魔国において命名とは由緒ある儀礼であり、後世にも語り継がれることとなるであろう。

皆、刮目し、我らの子がいかなる加護を受けるのか、そしてその加護を受けるに相応しい存在であるのかを皆が後世への語り部となって欲しい。

では、先ずは白龍の子、我が前に。」


 仰々しいが、これが儀式だそうだ。

まどかさんなんて、ついさっきまで『やりたくないよ~!イヤだぁ~!』って駄々こねてたけど、ふたを開けて見れば、しっかりと魔王様やってるじゃん。


 ナタリーさんとドラゴンちゃんがまどかさんの前に行く。

俺もその横に並ぶ。

2人でドラゴンちゃんを掌に乗せ、まどかさんの前で同時に名前を言う。

「この子を“イリス”と命名する!」


 まぁ、何という事でしょう!

イリスちゃんから光があふれてくる。

そして黒色であった皮膚が白色になった…。


 なんじゃこりゃ?

俺は不思議に思いながら、まどかさんを見ると、まどかさんはニヤリと笑いながら告げた。


「皆の者、刮目せよ!

 白龍の子が命名により、称号を得た。彼女の称号は“太陽”。」

「おぉぉ~~~~~!」


皆がひれ伏す。


称号って四龍さんが付けるだけじゃないんだね。

今更ながらそう思うも、まどかさんは笑っている。

ん?出来レースなのか?と思うが、どうもそうではないらしい。

ナタリーさんは涙を流している。


「次なる者、これに。」


マデリーンさんと俺が命名する。

「この子をコニーと命名する!」

同じくコニーちゃんが光り輝き、サファイヤ色に変わる。

「青龍の子が命名により称号を得た。彼女の称号は“月”である。」


同じように、ニーナさんとの双子には、男の子にはアル(正義)、女の子にはシャロン(運命の輪)の称号が付き、ブレイブさんとの間の女の子にはヴェリア(力)、ターニャさんとの間に産まれた精霊にはソフィ(審判)、レインさんの男の子にはティニ(恋人)の称号が付く。


 称号が付くたびに、「おぉ~~」とか言っているが、元はタロットカードだが、そんな事は知らない皆は、称号が付いていくことが素晴らしいと思っている。

まぁ、愚者よりはいいよね…、と思いながら、最後のまどかさんとの子供に命名する。


「魔王とジュークにより、この子を瑞穂(みずほ)と命名する!」


 これまでの光よりもさらに眩い光が彼女を覆う。

一面が金色に覆われ、そして徐々に消えていく。


 名前については、どうしても付けたい名前が“みずほ”であった。

この世界に召喚される前に手を掴んだ子、そして通訳もしてくれた子…。

助けようと思ったけど、俺が弱いせいで守れなかった子…。

これまで“敢えて”思い出さないようにしていた彼女の名前を名付けることにした。

 それは彼女を守れなかったという罪悪感ではなく、召喚された後、彼女の思いを我が子に乗せて一緒に生きたいという願いでもあった。


「魔王の子、即ち“賢者”と“愚者”の称号を持つ者より産まれし子、そちに付いた称号は“世界”である!」


 うひゃ!皆、ひれ伏しているよ。

みずほちゃん!見ててくれてるよね…。

壮大なスケールが君の名前をもらった俺の娘についたよ…。


「皆、称号が付いた我らの子を今後も皆の子として守って欲しい。

 そして、魔国の平和のためによろしく頼む。」


 まどかさんをはじめ、皆が種族長の前で首を垂れた…。


 一瞬の静寂の後、皆が歓声を上げた。

「魔王様、万歳!魔国、万歳!お子様、万歳!」


ははは。

8人も居ると名前を覚えられないんだよな、それに誰を言って良いのか、順番をどうするのなのか分からないもんな。


 それから先は、いつものどんちゃん騒ぎだった。

三将軍さんと四龍さんはそのままどんちゃん騒ぎになだれ込む。

まどかさんとレインさん、そして俺は子供のために別棟に移動し、子どもの世話をする。


「あ、まどかさん、瑞穂がお乳を欲しがっているよ。」

「うん。分かった~。」

「レインさん、おむつ換えた方がいいね。俺が換えようか?」

「おむつは私が取り替えますので、カズ様は6人の子守をお願いしますね。」

「はーい。」


 とは言われても、ドラゴンちゃんと精霊ちゃんは、勝手に遊んでくれるから手がかからないんだよね。今も、精霊ちゃんを追いかけてる3体のドラゴンちゃん以外は、俺の服の中に潜って寝ている。

 なんだか、ほっこりするよ。


 こんな俺でも、父親になれるんだと感慨深く思っていると、まどかさんが遥をげっぷさせようとしている。


「あ、まどかさん、もう少し立てた方がげっぷが出ると思うよ。」

「ん。ダーリン、ありがとね。

 しかし、ダーリンがこんなに子煩悩だとは思わなかったよ。」

「どうして?」

「前の世界だけどさ、あたしのパパは何も構ってくれなかった。

 遊びに行った思い出も無いし…。」

「ならさ、ここでいっぱい楽しい事をすればいいよ。

 俺はまどかさんの夫でもあるし、年齢から見れば父親くらいだと思うから。」

「うん!ありがとね。やっぱ、ダーリンはダーリンだ。

 愛してる!」


 皆が笑って過ごせることが大切だ。

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