4-7 自ら考える

「へ?先生って言っても、俺、何も教えられることはできないよ。」

「いえ、シメさんは私たちに持っていないものをいっぱい持っておられます。

 もし可能であれば、私たちもこの魔国で何かお手伝いをしたいと思うのですが…。」

「そりゃ、全然構わないけど、それはあくまでも帰る術が見つかるまでという事で良いよね?」

「そうなるとは思いますが、多分無理ですので、私たちもこの地で生活をしていきたいんです。それに…。」

「それに?」

「だって、エルフさんとか、ハーフデーモンさんとか、イケメンですから!」


 ひよりさん…。いきなり話し出したと思ったら、イケメン…。まぁ良いよ。


「わたしはガチムキです!竜人族さんって良くありませんか?」


 みほさん…、あなたまで…。


「わたしは、モフモフ…。」


あかねさん、獣人族さんですね…。


「まぁ、人それぞれだし、皆が好きなようにすれば良いけど、あかねさん達は王国とは決別することになるけど良いの?」

「あんな汚らしいヒトたちなんて、こっちから願い下げですよ。

 だって、王宮で立って…その…、トイレとか絶対イヤです!

 でも、ここはトイレも水洗だし、ウォ●ュレットは無いけど…。」

「それだ!」

「へ?」


 一人叫んでた。

 中世では貴族でもパーティーなどでは男女共に立って用を足していたという事を聞いたことがある。トイレがあるなら、そりゃ日本の技術を取り入れないと。


「そうだよ…ウォ●ュレットだよ。

 なんか足りないんだよなぁ~って思ってたんだよ。

 そうか、ウォ●ュレットか…。

 アルルさん、魔王城に戻ったら、ドワさんズとホビさんズにお願いして早速取り掛かってもらおうか。」

「あの…、カズ殿…、そのウォ●ュレットというものを我々は知りませんので…。」

「あ、そうだったね。

 それじゃ、あかねさん、一緒に作ってみようか。」

「へ?あたしが作るんですか?」

「作るのはこの国の生産部隊のドワさんとホビさんね。

 俺たちは考えとアドバイスをするくらいだよ。」

「シメさんは、そうやって下着とかシャンプーとかを作って来られたのですか?」

「うん。その通り。

 だって、俺の称号って“無”と“愚者”だからね。」

「え?“無”と“愚者”?」

「そうだよ。“無”は最初から付いてたスキルって言うのかな?

 それと後から“愚者”をもらったんだ。」

「カズ殿、それと“四龍の主”もですよ。」

「へ?“四龍の主”って…、あの四龍を束ねていらっしゃるという事ですか?」

「束ねているかは分からないけど、皆と仲良く暮らしてるし、ほら、結婚もして、この子たちも産まれているしね。」


 俺の皿から味噌カツをおいしそうに頬張るちびドラちゃんズ。


「だからシメさんはそんなに強いのですね。

 それと、“愚者”って言うのは、タロットカードでしょうか?」


 お!みほさん、素晴らしいところをついて来たね。


「うん。そうみたいだね。大昔の勇者が四龍さんに教えたんだって。

 だから、龍の試練をクリアした者には称号を与えるんだってさ。」

「うぅ…、龍の試練ですか…。私たちには無理な話ですね。」

「いや、あながちそうとは言えないよ。

 ところで、皆がもらったスキルって何だったの?って、これは個人情報になるのかな?」

「シメさん、ここは前の世界ではありませんし、鑑定を持っているヒトであれば、すぐに分かることですから大丈夫ですよ。

 えと、ひよりが“ケアラー”でしょ、みほが“マジシャン”、それで私が“アーチャー”です。」


ふむふむ。勇者の他のメンバーが治癒に魔導師に弓か。

盾と盗賊のスキルを持った者が、あの亡くなった4人の中に居たんだろう…。


「それで、“愚者”のシメさんが逆位置として魔王を助けているという事ですね。」

「みほさん正解です。

 俺は魔王様が歩く下で反対向いて歩いているって感じだね。まぁ、影みたいなもんだね。

 まぁ、普通にしているだけだけど。」

「では、私たちのスキルでも何かできるんでしょうか?」

「それを一人一人考えていくと良いと思うよ。

 ここで、俺たちが『これをやった方が良いよ』とかアドバイスしてしまうと、自ら考えるという事ができなくなるからね。

 あ、この魔国では、みんながそれぞれ考えていろんな事をしているよ。

 その姿を見てみると良いよ。」

「そうですか…。私たち高校生でも自分で考えていくんですね。」

「うん…。この世界では高校生とか中学生とかは関係ないからね。

 自ら動き出すことをしなければ、いままでの魔王様と一緒だから。

 あ、魔王様の称号は“賢者、つまり隠者”で、自ら何かを作り出すことに臆病だったって事。」

「そうなんですか…。

 私たちも何かできるようになるんですか…。」

「それは、みんなの踏ん張り次第だよ。

 それと…、とても言いにくい話なんだけど、この世界の時間と前の世界の時間は大分違うようだから…。」

「それは、どういう事でしょうか?」

「がっかりしないで聞いてね。

 魔王様に会った時、彼女はS●APを知っていたけど、解散は知らなかった。

 という事は6,7年前に召喚されたという事になる。

 でも、この世界では、彼女は前回の勇者パーティーの一人で、既に彼女が魔王になって数十年が過ぎているとの事。

 この要素から導き出せる仮定って…。」

「この世界の時間の過ぎ方が何倍も速い…ですか?」

「そうみたいだ。」


「望みでもあり、それがもとで落胆もする可能性があるって事ですね…。」


 彼女たちは、皆深く考え始めた。

そりゃ、家族のもとに帰りたいのが本音だろう。

しかし、あの王国に帰る魔法があるとは思えない。


 一度、魔王城の書庫?図書館に行って調べてみるとするか。

って、今まで図書館がある場所なんて聞いてないが…。


「アルルさん、城の図書館ってどこにあるの?」

「カズ殿、図書館は魔王様が管理しているので、魔王様にお聞きください。」

「分かった。城に戻ったら聞いてみるとするよ。」


壁際で伸びているシュン坊を部屋に運んだ後、今日は解散となった。

俺も休もうとするが、四龍さんに呼び止められる。

なんだろう?


「シメさん、そろそろ頃合いかと思いますよ。」

「あ、王国へ喧嘩売りに行く話?」

「穏便にこちらの話を通すだけですので、喧嘩を売りに行くのとは違いますね。」

「でも、あいつら、どうせ勇者なんて不要な存在だったんだろ?

 それを今更…、あ、金輪際勇者召喚出来ないようにすれば良いって事か。」

「そうです。その約束を四龍の名の下で行います。

 その契約は生涯有効となりますので、王国が勇者召喚したと分かれば、あの王国自体を無くすこともできますね。

 もっと良い方法は、王国の城ごと消滅させるという事もできますね。」

「そんな恐ろしいことを言っちゃダメだよ。

 あのヒトたちも、一応生きてるんだから。

 それに、何で勇者を召喚するのか、今後勇者を召喚しないって事も奴らの口から言ってもらって言質取らないとね。」

「シメしゃんは優しすぎますね。

 そんなの王国ごと、吹っ飛ばしてあげればいいのですよ。

 ヒトが多数死んでも、またワラワラと集まってきますよ。」


 怖い発言だな…。

まぁ、無くすことは簡単にできるけど、それを生み出す際には恨みも残るんだよな…。

俺に何か力があれば良いんだけど、無と愚者だもんな…。

例えば、このコップをこの場所に無いという存在自体を無くすことなんてできないのかね。

スッとコップの手前を手で覆ってみる…。


「ん?」

「どうしましたか?シメさん。」


ナタリーさんが尋ねる。


「今、ここにコップがあったよな…?」

「え?そんなのありましたか?」

「え?だって、ここに居る人数は俺達入れて5人だ。

 でも、コップは4個しか無いぞ?」

「店員さんが忘れたんですよ。」


何かが違う。

確かにコップはあった。

でも、今は無い。それにコップがあった事すら四龍さんは記憶にない。

それじゃ、ここにコップがあるという前提なら…。

手をコップのあった位置にかざしてみる。

え?!あるじゃん。


「あれ?このコップ、今無かったよな…。」

「いいえ、ずっとありましたよ。

 いち、に…ご、五人ですから、コップも5個です。

 シメしゃま、酔っておられるのですか?」


 一体何がどうなったんだ?

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