1-4 これが魔王との謁見…ナノカ?

 魔王様の座っていた椅子の横には通路という舞台袖というものがあり、廊下を経て奥の部屋に行く。

そこは魔王様の執務室のような場所で、デスクと応接セットが置いてあった。


「シメ殿、こちらに。」

「ありがとうございます。」


 ソファに座ると、魔王様も反対側に座る。

・・・無言の時間がしばらくあった。


「ふぅ…。ちょっと疲れちゃったから、普通に話すけどいい?」


へ? いきなりフランクになったぞ…。

それに何で魔王様がこんなにフランクになるんだ?


「ごめんね。おじさん。

 おじさんも転移させられちゃった“くち”なの?」


なんだ?一体?このヒトは誰なんだ?

見た目は10代?否、20代?よく分からんが、少なくとも30には行っていないと思う。

それに転移?勇者は召喚って言ってたが、何で転移という言葉を知っているんだ?


「すみませんが、頭がついていってないようなのですが。

 もう少し、ご説明いただいてもよろしいでしょうか。」


「あ、ごめんね。

 あたし、『君路(きみじ)まどか』って言うんだ、って昔の事だから“言ってた”が正解か。

 あたしも転移者なんだ。」

「へ?転移者?召喚者じゃなくて?」

「あ、おじさんが考えるところであれば召喚者だったって事。」

「って事は勇者様?」

「昔のね。」

「で、何で魔王様に?」

「ま、それには深~~~い理由があってね…。話すと長くなっちゃうけどいい?」

「ええ。別に構いませんが、あの3人の将軍様はずっと待機ですか?」

「あ、いけない。そうだったね。

 私、そういうところが気が回らなくてね。

 みんな私の命令に忠実に従っちゃうんだから、そのままになっちゃうのよね…。

 こっちは忘れちゃってることも多くて、『あれ?何でここに居るの?』って聞くと、昨日、私が命令したって言うんだよね…。なんか申し訳なくなっちゃって、なかなか依頼する事も出来なくなっちゃったって訳。」


 何?このフランクな感じ。

それに前に召喚された勇者が、今の魔王って?

魔王様が三人の所に行き、呼ぶまで待機ではなく各々の仕事に戻るよう指示し、戻って来る。


「ふぅ。疲れた。」

「お疲れ様です。」

「イヤだぁ、おじさんにそんな事言われちゃったら、あたし、どうしていいか分からないじゃん。」

「いや…、普通で良いと思いますが…。」

「おじさんも、そんなにかしこまらなくていいよ。

 で、おじさん…、あ、ごめんね。シメさんだったよね。

 シメさんは、召喚に巻き込まれたって言ってたけど、何で?」


 これまでの事を話した。

そして、少しの時間だったけど親切にしてくれた“みずほちゃん”がアッシュした事も伝えた。

まどかさんは、悲しい表情をしている…。


「そか…、勇者になるまでに死んじゃったんだね…。可哀そうに…。」

「はい。」

「でも、ある意味幸せな事だったかもしれないね。」

「それは、どういった理由でですか?」

「勇者ってね、最初は魔王を倒すんだ、とか言ってチヤホヤされるんだよ。

 でもね、いざ魔王を倒すとその場は大騒ぎするんだけど、その後、国王とかから危険人物として扱われちゃうんだよね…。」


 まどかさんが遠い目をしている。


「そして、勇者の結末は秘匿とされている…。それがこの世界のルールみたいなもんだよ。」

「って事は、仮に勇者が魔王を倒したとしても、その勇者が元の世界に戻れるかどうかは分からないということですか?」

「帰れないんじゃない?」

「そうですか…。」

「それに、私の時の勇者も最後にはどうなったのか聞いていないし…。」

「え?でも、まどかさんは勇者だったわけですよね。」

「ええ。でもね、ここの城に住んでた魔王ってヒトを倒したとき、何か違うなぁって感じたんだよね…。」

「それはどういった観点から?」

「それまでは魔王は悪い奴だとか、魔王を倒せば平和が訪れるとかチヤホヤされて、この魔国に来て魔物というかそういった者と闘ってはいたんだけど…」

「単なる種族間の争いに付き合わされているだけと感じた…?」

「そうそう、それ!それなんだよね。

 だって、ヒト以外の生き物は全部魔物なんだから。

 エルフさんだって、ドワーフさんだって魔物扱いだからね。」

「ヒト至上主義ってやつですね。」

「うんうん。そういう考え。でもさ、みんな話せば分かってくれるし、それに王国のヒト達よりも立派だし…。

 だから、前の魔王を倒した後もここに残ったの。」

「そして、次の魔王となった…。」

「そこはピンと来ないんだけど、みんなが魔王って呼んでいるから、そうなんだろうなぁ…って。」


 魔王と呼ばれるヒトは転移者で勇者召喚されたヒトであったという事か。


「しかし、勇者を召喚したって事は、少なからずまどかさんに危険が及ぶわけですよね。」

「まぁ、仕方ないかなって思うけど。」

「いや、それじゃマズいですよ。だって、まどかさんは現に生きてるじゃないですか!

 自分の命を犠牲にして、次の魔王と勇者を生み出していくってルール…、なんか単に向こうの世界の人間を連れてきてるだけじゃないですか。」

「そうだね…、単に人減らしなだけかもしれないね。」

「人数は少ないですけど…。

 でも、まどかさんだって、向こうに家族も居たんでしょ?」

「そうなんだよね…。でも、ここに来て数十年経ってるから、皆忘れ去られたんだと思う。」


 まどかさんが寂しい顔をする。


「すみません…、女性に年齢の事を聞くのはいけないんですが、まどかさんが失踪して数十年が経過しているという事なんですね。」

「でも、こっちの世界とどんな時間軸になっているのかなんて私には分からないし、もしかすると、向こうでは翌日だったって事もあるかもしれないしね。

 でも、私がここに居るって事は間違いないんだよね…。」


「普通はそう考えるんですかね…。」

「シメさん、私ここに来てから、向こうの世界に帰る方法をいろいろと研究したんだよ。

 これでも、賢者って呼ばれててね。魔法とかいろいろ使えるから。

 あ、一回、この国の図書館行ってみる?面白い書物もたくさんあるよ。」


なんか、すごくポジティブだし、現代っ子のような感覚だ。

でも、多分ポジティブの裏側には寂しさも隠されているんだろう…。


「で、シメさんとこうやって知り合えたのも何かの縁。

 シメさんさえ良ければ、この国の事をいろいろと考えてあげてほしいんだよね。

 あたし、魔法は得意でも内政とか外交とか全然分かんないし…。」

「まぁ、自分の場合、向こうで心配するヒトはいないんで…。

 でも、まどかさんはそれで良いんですか?」

「うん、良いよ。だって、この世界も住んでみれば、それなりに快適だからね。」


 まどかさん…、明るいよ…。まぶしいよ。


「分かりました。それじゃ、まどかさんの為にも少し踏ん張ってみますね。」

「踏ん張る?頑張るじゃなくて?」

「えぇ。頑張るって言葉はどうも好きじゃなくて…。

 それに、“頑張る”ってイメージは、自分の健康や睡眠時間まで削って仕事をするって考えちゃうんですよね。」

「あははは!シメさんって面白い考えをするヒトなんだね。

 踏ん張るか…、うん!これからその言葉を国のモットーとしましょう!」


明るい+安直=まどかさんという公式が成り立ってしまった。


「で、シメさんは下着メーカーで働いていたんだって?」

「えぇ。ひと昔もふた昔も前に“〇〇のブラ”って売り出したんですがね。ご存じです?」

「知らない。」

「ん?って事は、まどかさんがこの世界にやって来た時間軸と向こうの世界の時間軸がズレてますね。」

「どういうこと?」

「だって、まどかさんがこっちに来て数十年が経過したって言われたじゃないですか。

 でも、二十年前にこの言葉が流行ったんですよ。それを考えれば、2つの可能性が生まれる訳です。

 一つ目は、まどかさんがそれ以降に生まれてこちらに来たか。それとも…。」

「あー何かすごく難しいこと言ってるような気がするから、もっと簡単に説明して!」


少し考える…、その時代を表す言葉、出来事…、あ、イベントか。


「それじゃ、簡単に説明しますね。

 まどかさんが好きだったタレントは?」

「SM〇P!」

「じゃ、好きなテレビ番組は?」

「歌番組!」

「んじゃ、A〇Bとか乃〇坂とか知ってます?」

「うん!何なら歌おうか!アイ ウォンチュ~!」

「もう大丈夫です。」


 まどかさん、もしかして話し相手が欲しかっただけなんだろうか…。

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