1-3 魔王との謁見

翌朝、まだ身体がだるいが、ボーとしてても何も変わらないので、少しばかり散歩をしたいとお願いしたら、レインさんがターニャさんに掛け合ってくれて、城内を散策できることとなった。


「カズ様、少しでもお辛くなったらお声がけをしてください。」

「あぁ、ありがとね。

 しかし、広い城だね…。」


長い廊下だと思えば、直角に曲がったり、細くなったりと統一性が無い…。

そう言えば、中世ヨーロッパの城も何十年、何百年かけて建設したってのもあるし、石造りの部分もあれば木と漆喰で出来ている部分もある。


「レインさん、この城は出来てどれくらい経過しているの?」

「さぁ、詳しいことは分かりません。」

「ルナリア様に聞けば分かるかな?」

「そうですね。」


廊下の窓から外を見ると霧が出ている。


「ここの辺りは霧が出ることが多いの?」

「そうですね。小高い山の頂上に建っていますし、何よりも周りは森ですから。」

「えと…、街のようなものは無いの?」

「ヒトが集まって家を建てると、そのようなモノができると聞いてはいますが、魔国は基本街のようなものは形成されていません。」

「って言うと、んじゃ経済はどうなっているの?」

「経済とは?」

「例えば、服を買いたい場合、どこに行けば買えるのか。

 ご飯を作る際の食材はどこに行けば買えるのか…、要はお金を回すことでみんなが潤うということを誰がどのように考えているのかって事ですが…。」

「あ、そういう意味であれば、週に一度、市が開かれます。

 そこで、欲しいモノを交換したり、買ったり売ったりできますよ。」


うん…完全に俺達の世界の社会システムとは違う…。

なら、肌着なんて作っても売れないし、買ってもくれないのに、何故必要なんだ?


何だか、完全に迷走している…。


1時間かけて城を一周した。

少し疲れたが、まだ何とかなりそうなので、城を外から見たいと言ったら承諾された。


 裏口に行き、レインさんがここで待ってるよう依頼する。

程なくして、翼のある馬を連れてきた。


「ペガサスです。」

「こんにちは。」

「あ、ペガサスは一応魔獣の部類にはいりますので。」


何じゃそりゃ…。

この流れだと、ペガサスがしゃべり、観光案内をしてくれると思っていたんだが…。

それよりも、俺、ペガサスなんて生き物を初めて見たよ。すっげーな。


ペガサスの背に乗り上空へ上がる。

魔王城は山城のようで、周りには集落もない。

どことなく、ホーエンツォレルン城に似ているか…。


空中散歩も5,6分で終了し、馬から下りるとそこには、アルルメイヤ様、ルナリア様、ターシャ様が待っておられた。


「シメ様、お加減の方はよろしいでしょうか。」


何やらレインさんが急ぎ三人に近づき耳打ちをする。


「失礼いたしました。カズ様、お加減の方はよろしいでしょうか。」


 あ、ごめんなさい…。レインさん、そこは言わなくて良かったんだよ…。


「すみません…。苗字に様付けて呼ばれる事がなかなか慣れていなくて…。」


ぽりぽりと頬をかく。


「いいえ。では私たちもカズ様とお呼びすれば良いでしょうか?」

「あの…、様付けはどうもぎこちないので、カズでも何でも構いませんよ。」

「いえ、カズ様は魔王様から客人として丁重に扱えとの命がございますので。」

「客人と言われましても、どうも馴染めなくて…。

 あ、そうだ。“シメさん”でもいいですよ。」

「流石に“さん”は…。」


何かにつけ、会話がぎくしゃくしているな…。

完全なコミュニケーションが取れるのはいつのことになるだろうか…。


「そうそう、これから魔王様がカズ様に会いたいとの事ですが、大丈夫でしょうか。」

「え、あまりお会いにならないのでは?」

「そう言う者もおりますが…。」


ターニャ様がレインさんの方を睨んでる…。

ごめん…。レインさん…。


「じゃ、早速行きましょう。それとレインさんを余り責めないでくださいね。

 彼女の情報は私にとって有益なものでしたからね。」

「はい。分かりました。では参りましょうか。」


 城の中に入り、広い通路を歩いていく。

あれ?さっきはこんな所無かったと思うが、何も言わずついていく事とした。


「魔王様、カズ様をお連れいたしました。」

「・・・はいれ・・・。」


豪奢なドアを開けると、そこは大広間のようなでかい空間に緋毛氈が敷かれている。

遥か遠方の少し高い位置に女性が一人座っている。


 中世の王族との謁見のような場所だな…。

そんな事を思いながら、魔王様と呼ばれる女性の数m手前まで行き傅いた。


「そちがシメ カズミと申す者か。」

「はい。この度は命を落とした私を助けていただき感謝申し上げます。」

「よい。面をあげよ。」


面って顔だよな?と思いながら、魔王様を見る。

あれ、どこかで見たような顔だな…。

少し疑問に思いながら、この魔国の話や勇者の話をしてくれたのだが、顔が印象に残ってしまい、あまり理解できずにいた。


その表情を読み取ってか、魔王様が少し心配してくださった。


「のう、シメ殿よ。少し混乱しているようだが、まだ体調は戻っておらぬのか?」

「あ、いえ。体長は問題ございませんが、少し疑問に思ったことがあったものですから。」

「それは、我の顔についてか?」

「へ?何でそれを?」

「シメ殿は、先ほどから我の顔をずっと見ておるのじゃ。ここの三将でも分かることじゃ。」

「そうですか…。すみません。」

「で、疑問とは何じゃ?」

「恐れ多いことなのですが、魔王様のお顔は私がこれまでの世界で、私が住んでいた日本という国の人種に顔が似ておりましたので…。」

「ふむ。そうか。」


 魔王様が少し思案し三将に告げた。


「少しの間、この者と二人で話がしたい。三将はこの場で待機してくれぬか。」

「は。仰せのままに。」

「では、シメ殿、こちらに。」


 いきなりサシで話しをするって、ビビッてしまんだけど…。

あ、トイレ行ってないわ…。

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