1-2 夜のブリーフィング
彼女たちと話をした後、トイレに行ったのだが、この家というか屋敷はどうなっているんだ?
広すぎる!
トイレなんて、廊下の突き当りにしかない。
漏れそうになったよ…。
そして、俺が寝ている部屋から50m以上はあるぞ。
どんな豪邸なんだ?
用を足して、また寝ている部屋に戻ると部屋の前に女性が立っている。
「すみません…。この部屋に入ってもよろしいでしょうか。」
「は? あの…、あなたはこの部屋で寝ているヒトです。そのヒトが入ってもよいか、という許可を私からもらう事はおかしいと思いますが…?」
「すみません…。何せ、良く分からなくて…。」
「それは可哀そうに…。では、この部屋でゆっくりとお休みください。」
「で、あなたは何をされているのですか?」
「私は、あなたのご用命を伺う係となりましたので、ここで待機しております。」
「ずっとですか?」
「ずっとです。」
「廊下で立ったままですか?」
「廊下で立ったままです。」
うん…、なんか話が嚙み合わない…。
命令に忠実なのは良いことだが、俺にとってみれば、女性を一晩中廊下に立たせておくことなんてできる訳がない。
「えと…、自分がその用命とやらをしなかったらどうなるのでしょうか。」
「ご用命が無くとも、私はここに立ち続けます。」
「なんか、無駄だと思いませんか?」
「それが命令ですから。」
完全にロボットだ…。
自分の意思や考えというものが無い。
「それじゃ、自分が用命…何かお願いすれば聞いてくれるという事ですね。」
「時と場合によります。」
「それじゃ、廊下で待つのではなく、部屋の中で座って待機してくれませんか?」
「へ?そ、そんな…、殿方のお部屋に一晩いればお子ができます。」
すみません…、このヒトどんな純粋な心をお持ちなんでしょうか…。
おっさん、なんか恥ずかしくなってきたよ…。
「すみませんが、そのような行為はいたしませんので。
それに病み上がりで50過ぎたおっさんが、あなたのような綺麗な方に相手されるとは思いませんよ。」
「そうなんですか?何も無いんですね?」
「ある訳なんてありませんよ。自分おっさんです!
あなたのような綺麗なヒトには、もっと素晴らしいヒトがいますよ。」
あ…ヤバい…、地雷踏んだか?
このヒト、クネクネし始めたぞ…。
「はぁ…、そういうクネクネではなく、この世界と国の事を教えて欲しいのです。」
「え、世界?国…魔国の事ですか?」
「はい。それと、勇者を召喚した国とか、他の国のことも聞いてみたいです。」
「あの…、他の国の事は良く分かりませんが、この国のことであれば少しならお話しできると思います。」
「ありがとう。では、そのお話を部屋の中で聞かせてもらえませんか?
まだ、少しフラフラするので、自分が寝入るまでお話しを聞かせていただけると嬉しいんです。」
「はい!分かりました!では、喜んでお部屋でお話しをさせていただきますね。」
彼女の顔が輝く。
命令だとか言って入りたがらなかったのだが、立ってるだけの命令…なのかどうかは分からないが、正直面倒くさいんだよね。
ま、女性を廊下で立たせておくのも忍びなかったので、良かったとは思うけど。
それから、彼女…レインさんにいろいろとこの国の事を聞いた。
要約するとこんな感じだろうか。
・魔国は、ヒトから見て異形の生き物が住んでいる国。
・この国を統治するのが魔王様と呼ばれる方。その下に三将が位置し統治されているが、皆が自由気ままに生活している。
・様々な種族が共同で生活しており、主な種族はラノベでおなじみのエルフやダークエルフ、ドワーフやホビット、それに精霊という生き物もいる。中には長い歴史の中で他種族と交わり、ハーフ何とかという名を持つ種族もいる。
「レインさん…、すまないけど勇者との関係はどうなっているんだ?」
「勇者ですか?
勇者というよりも、ヒトはこの魔国を目の敵にしております。
何かあれば勇者を召喚し、この国の魔王を討伐するのです。
私達にとってはいい迷惑なんですよ。
それに、ここに住む種族の中には、根絶やしにされるような扱いを受ける事もあります。」
「その種族ってのが良く分からないんだけど、さっきゴブリンやオークってのも種族の中に入っていたんだけど、例えば、魔国以外に住むゴブリンやオークとは何が違うの?」
「意思疎通ができるか否かです。
意思疎通できるものは種族として扱われますが、意思疎通できないモノは魔物や魔獣と呼ばれることもありますね。あ、それとダンジョンの中に沸くモノは魔物です。
魔物や魔獣は、私達とは意思疎通できません。」
うん…、さっぱり分からない…。
皆同じように見えるのだが、会って『今日はいいお天気ですね。』と言えば、『そうですね。洗濯物が良く乾くので助かりますわ。』なんて会話ができれば種族と見なされるのか?
深く考えるのは止めよう…。
「あ、それとこの国の衣食住はどうなっているの?」
「質問の趣旨が良く分かりませんが、衣とは服の事でしょうか?ご覧のような服ですよ。
食と住は種族事にまちまちです。家を建てているモノもいれば、洞窟で暮らしているモノもいますね。それに昼間に行動する種族もいれば夜に行動する種族もいます。」
「いや、さっき肌着がどうとか言ってたから…。」
レインさんが真っ赤になって俯く…。
「私の口からはどうお話しするのが良いのか分かりません…。」
「あ、ごめん。別に他意は無いんだ。
君が知っているかどうかは知らないけど、自分は前の世界で下着を作っていたんだよ。
ターニャさんとかから、肌着をどうとか仰っていたから、どういうモノがあるのかなって思って…。」
「では、後ほど女性用の肌着をお持ちいたしましょうか。」
「うん。ありがとね。」
ふと、疑問がよぎった。
「あ、そう言えばこの国に男性も居るんだよね。」
「はい。おりますが?」
「そのヒト達は何をやっているの?」
「主に独自の技能を持った職についておりますね。
例えば、ドワーフであれば鍛冶や採掘、ホビットは細工、竜人やリザードマンなどは兵士ですね。」
「適材適所って感じかな?」
「そうですね。」
「であれば、勇者が来て真っ先に倒されるのは男性って事なのか…。」
出生率がどれだけなのかは分からないが、度々勇者が来て魔王を倒すということは、単に間引きしているだけなのか?それとも単に異形のヒトをいじめているだけなのか?
「国と国の事は自分には分からないけど、みんな仲良く暮らすことはできないのかな?」
「それは、私が答えられる範疇を越えておりますので…。」
「そうだよね…。ごめんね。」
「いえ。そんな事はありません。」
それから、レインさんはいろいろな事を教えてくれた。
ここは魔王様が住む城。
魔王様は滅多にヒトの前には出ない。
三将の方々は、魔王様と契約を結んでいる。
城の中には男性がほとんど居なくて、婚期が遅れてしまうと嘆いている等々。
レインさん、話すと何でも話してくれるな。
多分、話好きなんだろうね。
そんな話を聞きながら、少し眠くなってきた。
うつらうつらし始めると、それを察してかレインさんが静かに去ろうとする。
「あ、レインさん、廊下に出なくていいよ。廊下は寒いからね。」
「しかし、それでは命令に背くことになります。」
「うん…。じゃぁ、そこはこう考えれば良いんだよ。
自分が呼び鈴でレインさんを呼んだ。理由は…、うーん…、あ、調子が悪いと言ってるが心配になって、様子を見ていた。って、こんな感じでどうかな?」
「それでは、ターニャ様に嘘をついてしまうことになります。」
「じゃ、モノは試しだ。」
呼び鈴を鳴らし、身体が気だるくフラフラする旨を伝える。
「では、私はシメ様が心配になりましたので、ここで様子を見ております。」
「うん。ありがとね。じゃ、そこにあるソファで休んでていいよ。」
「シメ様はお優しいのですね…。」
「そこは良く分からないけど、一つだけお願いしていいかな?」
「はい、何なりと。」
「シメ様ってのは止めて欲しいな。」
「であれば、何とお呼びすればよろしいですか?」
「そうだな…、カズで良いよ。」
「分かりました。カズ様。」
カズ様か…。
シメ様よりはまだマシだよ。
傍から聞けば、シメ様は“シメサバ”に聞こえるんだよね…。
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