1-5 魔王とのヒソヒソ話

「まどかさん、SM〇Pは解散しましたよ。」

「え、嘘!なんで?」

「理由は知りませんが、確か5,6年前です。こう考えれば、まどかさんがこちらに来た時間よりも、こちらの時間の方が長くて早いって事になりますね。」

「うん。良く分かんない。あたし、あの時中学生だったから。」

「そうなんですね。」


数十年経過しても、身体は30代前というくらいか…。

という事は、こちらの時間は転移前の世界よりも5倍以上早く進んでいるって事か…。

あ、いかん…、こんな事口に出したらセクハラとか言われそうだ…。


「おそらく、それくらいしか経過していないって事になりますね。」

「そうだね…、でも、もう良いよシメさん。別に還りたいとも思わないから…。」


 まどかさんが少し戸惑いながら、説明してくれた。


「あたしね、むこうの世界ではいじめられっ子だったの…。

 それをパパやママに相談しても、先生に相談しても、『お前の性格が悪いせいだ』とか、『もっとその生徒たちと話し合うべきだ』とか、さも私が悪いように言うんだよね…。

 でも、イジメてる方からすれば、私のような根暗でコミュ障なヒトは恰好の“おもちゃ”なんだよ…。それに、いじめってのは、誰かが居無くなれば、次のターゲットを見つけて同じ事するだけなんだよね…。みんなそれが分かっていないんだ…。」


イジメられる方にも理由があるって詭弁だ。

ニュースでそんな事を平気で言ってるコメンテーターを見てるだけで反吐が出そうになったことを思い出した。それに、そんな社会にさせたのは、お前らがそう発言したからだろ!って言いたい。


「まどかさん、いろいろ聞いちゃってごめんな。」

「ううん。問題ないよ。」

「明るいね。でも、泣きたくなったら、おっさんを頼りなよ。

 50超えたおっさんだけど、胸くらいは貸せると思う。

 あ、でも加齢臭だとか言わないでね。おっさん、心折れちゃうから。」

「ははは、シメさんって良い人だね。

 シメさんが来てくれて少し楽になったよ。ありがとね。」

「これから、この国を良くしてくんでしょ。

 だったら、あの三将のヒト達にもちゃんと伝えないといけないね。」

「あ、精霊たちね。

 大丈夫だよ。あの子たちは私のすべてを知ってるんだからね。」

「そうなんだ。なら大丈夫か。

 あとは、この国のことを知って、何からすべきなのかを考えないといけないかな。」

「あ、そうだ、シメさんは召喚された神殿でスキルとかもらったの?」

「ん?何?そのスキルって?」

「神官が神の啓示を受けるって感じかな?で、私は大魔導師だったんだよ。」

「それなら、啓示は受けてないよ。

 召喚されてみんなが気が付いた矢先に、追い出されたから。」

「なんだ。そうだったんだ…。それじゃ啓示聞いてみる?」

「へ?まどかさん、できるの?」

「あたし、こう見えても賢者の称号もらってるし。

 よし!それじゃ、シメさんのスキルを……って、何?これ?」

「ん?何か出たのかい?」

「シメさんのスキルだけど…“無(なし)”だって。」


 おっさん、やっぱりおまけでした…。

そう言えば、そんなような事を言われた覚えもあるが…。



「でさぁ、下着ってすぐにできないかなぁ~。」

「何で?って聞くとセクハラになるね。」

「そうだよ~。気を付けてね。って言っても始まらないから正直に言うけど、この世界の下着ってちゃっちいんだよね…。」

「ちゃっちい?ちゃっちいって?」

「うんと…、説明できないから、実際に見て!」


 まどかさんに手を引っ張られ、寝室のような場所に入る。

うあ…いい匂いがする…。

おっさん、こういうの弱いんだよね…。


 まどかさんが引き出しを開け、ぽいぽいと投げる。


「これがパンツで、これがブラジャーね。あ、大丈夫だよ。新品だから。」

「へ?」

「え~、シメさん…。使用済みの方が良かったのぉ~?」


 まどかさんがジト目で見る。

いや、そりゃ、その方が…ゲフゲフ。


「そうじゃなくて、何?このかぼちゃパンツ?それにこれ、ブラジャーじゃなくてシャツじゃん。」

「そうなんだよね~。パンツなんてスースーするし、それに生理になったらふんどしだよ、ふ・ん・ど・し!

こんなのはいて出歩けないよね…。

 それに、ブラジャーって、こうキュッと持ち上げるもんでしょ?これだとTシャツと変わりないんだよね。動くと乳首が擦れて痛いんだよ。」


 うぉい!まどかさん、こう見えても俺おっさんだぞ…。

エロいワードが出るだけで嬉しくなるじゃないか…。


「こほん…。エロい話は置いておいて、これは酷いね。」

「でしょ!何とかならない?」

「生地はあるの?」

「服の生地であれば。」

「えと、伸縮性のある生地って言えば分かる?」

「あ、そういうのね。あるよ。」

「それじゃ、伸縮性の生地を伸縮の弱いモノと強いモノと2種類見せてくれないかな。

 それと、ゴムはある?」

「やだ~!シメさん、何言ってるの!」


まどかさんが真っ赤になってる。

ん?何か間違ったか…?

・ヤバ…


「あ!あのゴムじゃなくて、細長くてパンツとかを腰で止める本当の意味のゴムね。」

「なんだぁ~、びっくりしたぁ。いきなりシメさんにゴムって言われた時は、『私にも春が来た!』って思ったんだけどね。」

「おっさんにそんな冗談言って面白い?」

「うん。シメさん揶揄うと赤くなるから可愛いもんね。」


まどかさん…、完全に掛け合いを楽しんでいるのか、天然なのか分からない…。


「まぁ、どんな生地があるのかによるけど、一度見て見ないと。

 あ、それとミシンはある?って無いわな…。」

「ミシンは無いけど、すごく裁縫の得意な種族がいるから問題ないと思うよ。

 んじゃ、生地とゴム…ってあるかなぁ、それと種族ね。

 すぐ呼んじゃっていい?」

「良いけど、どこか場所を変えませんか?

 ここって、まどかさんの寝室でしょ?」

「あ、そういう事ね。いいよん。

 んじゃ、工房に行こう。あ、シメさん、私一応他の者の前では“魔王”とか“マドゥーカ”って呼ばれているからね。」


“まどか”が訛って“マドゥーカ”か…。シンプルだね。

 30分後、まどかさん、もといマドゥーカ様とアルルメイヤ様、ルナリア様、ターニャ様4人と一緒に工房に居る。

工房と言っても、ドワーフのような火を使ったような工房ではなく、どちらかと言うと魔女が薬品を作るような研究室のような場所だ。


「魔王様、アラクネが来ました。」

「通せ。」

「魔王様、ご尊顔を拝し、恐悦至極に…」

「アラクネ、そのような挨拶は良い。で、生地とゴムはあったのか?」

「はい魔王様。先ず伸縮の弱い生地と強い生地です。

 それとゴムというモノが理解できませんでしたので、私どもの糸を持ってまいりました。」

「そうか。シメさ…シメ殿、いかがかな?」


まどかさん…毎日こんな喋り方をしていれば疲れるよ。

気遣いというか、何て言うのか分からないけど、ストレスもあるわな…。


「えと、伸縮の生地はこの2種類で大丈夫ですね。

 それとゴムの代わりになるこの糸ですが、これって何ですか?」

「“アラクネの糸”と呼ばれるアイテムじゃな。

 ヒトの世界ではドレスに使われるなど、結構な額で売れるぞ。」

「それじゃ、この糸を数本束ねて撚ればゴムの代わりになりますね。

 えと、あとは大切な部分をカバーできる布地、コットンでもいいのですが、デリケートゾーンになりますので、自然素材の方が良いですかね?」

「のう、シメ殿よ。できればその部分じゃが、清潔になるようにならぬか?」

「うーん…、この世界に何があるのか分かりませんが、例えば水分などを吸収しながらも、皮膚にやさしい素材があれば良いんですがね。」

「カズ様、それなら良い素材がございます。」


ルナリア様が思い出したように、部屋を出て数分後に戻って来る。


「はぁはぁ…、これなんていかがでしょうか?」

「これは何でしょうか?」

「アクアスライムのコアです。これをすり潰して布に織り込むというのは?」

「洗濯するとコアは落ちちゃいますね。

 あ、これ使えますね。

 リナリア様、楮(こうぞ)とか和紙の原料になる植物は生えていますか?」

「紙の原料になる植物ですね。はい。自生しています。」

「では、その紙の原料を“こより”のように細く糸にして布として織る事が出来れば、アクアスライムのコアを織り込めば、生理用品の代用となりますね。あ、でもそれは廃棄しなければいけませんからね。あ、魔王様ならご存じかもしれませんね。」

「ふふふ、シメ殿はエロいの。しかしの、儂はタンポン派じゃ。」


 この中で二人しか分からないが、両方が真っ赤な顔をして話している姿を、三将とアラクネさんがキョトンとして見ている姿が滑稽だった。

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