1-8 魔国を考察します

「この地図で見れば南の王国が勇者を召喚しているんですよね。」

「そうだよ。」

「それじゃ、北側に隣接している国とかはどうしているの?」

「何もしないよ。」

「国交も樹立していない、と?」

「そうです。不干渉ですね。」

「もう一つだけ…、北の国々は魔国を国として認めているの?」

「それは…、聞いてみないと分かりません…。」


 なんだか、適当な設定だ。

国として認められていないって事もあるかもしれない…。

それに自分たちが魔国と呼んでいても、それは勇者を召喚した国の領地にエルフさんとかドワーフさん達を住まわせ、ある意味コロニーのように扱っているかもしれない…。


「こんな事言ってはいけないけど、魔国という設定が分からなくなってきたね。」

「それはどういう意味でしょうか。」

「先ず北にある国々と国交が樹立していないという事は、2つ可能性があると思う。

 一つ目は、この魔国が勇者召喚した国の領地であると考えられる事。

 二つ目は、北の国々から干渉を受けないよう、勇者召喚した国が何らかの働きかけをしている事。」

「その根拠はありますか?」

「そうだね。

 まず、この国というか領地には城以外の建物がない。

 独立国家として認められているのであれば、それなりの施設や街があって然るべきものだと思う。

 となれば、勇者召喚した国の領地に亜人とか魔物とかを住まわせたエリアであると考える方がスッキリするんじゃないかな。」

「整理しますと、私たちが住んでいる地はリルクア王国の領地であり、ヒト以外の種族をこの地に住まわせている可能性がある、という事ですね。」


 へぇ、リルクア王国って言うんだ。


「そうなるね。」

「シメさん、その話がホントだったら、何で魔王という存在が居て、勇者が魔王を倒す歴史が続いているのかなぁ?」

「これは難しい説明になるけど…

 ヒト至上主義がずっと続いている国なんでしょ?

 ヒト至上の王国の民がフラストレーションがたまったらどうなると思う?」

「少なからず王政に影響がありますね。」

「だよね。

 その王政に影響を与えない、国民のフラストレーションを解消できるようにリルクアの政治家が考えることは何だろう。」

「減税や経済振興ですか?」

「ルナリアさん、それも正解だと思う。

でも、もっと簡単な方法で、国の財力も痛まない方法があるんだけど…。」


 皆考え込む…。多分まどかさんしか思いつかないんだろうな…。


「まどかさん、さっき自分に教えてくれたまどかさんの過去の話ってどうだろう?」

「え?過去って、私の?」

「うん。傷口に塩を塗るようなことをして申し訳ないんだけど…。」

「私がいじめられてたって事?」

「その先の話。

向こうの世界でまどかさんが居なくなった後、どうなったんだろうね。」

「そりゃ、私以外の誰かをターゲットにしていじめを繰り返すんだと…、

 あ、そう言う事か!

 この国って、リルクアの不満を解消する場所って事?」

「その可能性があるって事だね。

 どんな不満かは知らないけど、それが溜まると不満を解消するために昇華を行う。

 つまり、欲求のはけ口を魔王にぶつけるって事ね。

 だからこの地には街もない、砦もない、勇者が直接城に来て魔王と闘いやっつける、その話を王国に持ち帰って民の欲求不満を解消する。

 そんな事は考えられないかな~って。」


「シメさん…、凄いね!尊敬する!

 いやー、あたしたちだけだったら、そんな考え思いつかなかったわぁ。」


 まどかさん…、ケラケラ笑っているが、本質を見抜けてないな…。


「まどかさん、問題はそこじゃないんだ。」

「なら、どこ?」

「リルクアが、何故、まどかさんや他の勇者といった異世界人を召喚してるんだ?」

「そりゃ、勇者だからね。」

「召喚されたヒトはリルクアって国の勝手な都合で召喚されたんでしょ?

 向こうの世界に家族も居るのに…。」

「国が勝手にやってることに他人を巻き込んでるって事?」

「だね。

 言い方は悪いけど、だから勇者は“使い捨て”なんだと思う。」


 国民の不満が溜まれば、一つの標的にその不満を集中させ解消させる。

まぁ、向こうの世界の某国では、よく使う手段だと聞いたことがある。


「まどかさん、みなさん…。

 これはあくまでも仮説にしかすぎません。

 でも、まどかさんや皆さんが他人の欲求不満の標的となって倒される事なんてイヤですし、勇者がここに来ることもイヤです。」

「ジュークさん、では勇者がここに来ないようにするにはどうすれば良いのでしょう。」

「リルクアの民の欲求を満たしていれば問題は無いという事になりませんか?」

「それはそうですが…うまくいきますか?」

「上手くいくかは分かりませんが、このまま手をこまねいていても仕方がありませんよ。

 考える前に感じろ!です。」


 俺の大好きなハリウッド俳優、ブルース・リーの名言だ。

「Don‘t think, Feel !」だったと記憶しているけど、そうだったかな?


「シメさん、そうだよね。

 結果もないまま、このまま居ても仕方ないよね。

 じゃ、みんなで動こうか!

 で、何をする?」


・・・まどかさん、天然だ…。


「ルナリアさん、例えばリルクアの街に隠れて入ることができる種族っていますか?」

「あ、それなら既に住んでいる種族も居ますから問題ないですよ。」


 ヒトの社会で住んでいる種族、いるんかーい!


「どんな種族ですか?」

「ハーフエルフ、ホビットですね。彼らは見た目ヒトとそんなに変わりませんからね。」

「んじゃ、例えば諜報業務とかスパイとかに長けている種族はいますか?」

「それだと、亜人族の中の猫族や狐族でしょうか。」

「んじゃ、先ずそのヒトたちに国でどんな動きがあって、ヒトは何に不満をもっているのか探ってもらう事は可能ですか?」

「分かりました。早速手配いたします。」


「シメさん、後は何をすればいい?」


まどかさんが目をキラキラさせて聞いてくる。


「そうですね…。

じゃ、ルナリアさん、先ずどんな種族がこの地に居て、何をしているのかをまとめてもらえますか?

アルルさんは、これまで兵士の経験のある種族を教えてください。

ターニャさんは、この地でどんな病気があり、その治療法について教えてください。」

「シメさん、あたしは?」

「まどかさんは、種族の把握ができたら各種族の族長との面談をお願いします。

 そして、この地をよりよくする為に族長の力が必要だと説得してください。」

「えーーー、ヒトと会うのイヤー。」

「ダメです!魔王様の一言が重いんですからね。」

「ブーブー。」

「ブーブー言わないの!さ、まどかさん、他の方はもう動き始めましたよ。」

「まぁ、仕方ないね。

 うん。それじゃ、皆ご飯にしよう!」

「へ?」

「だって、言うじゃん。

 “腹が減ったら戦も中断”って。」


…そうだった…。ボキャブラリーも教えるんだった。


「まどかさん、それ“腹が減っては戦は出来ぬ”です…。」

「ん?そうそう、そうとも言うよね。」



 昼食をとる…。

しかし、こんなだだっ広い空間にまどかさんと俺の二人だけって、勿体なくない?


「広すぎて落ち着かない…。」

「だよね~、あたしも最初のうちはそう思ってた。」

「あの三人は食事はとらないんですか?」

「あ、あの三人ね、精霊族だから基本大地からパワーというかエネルギーを得てるからね。」

「そうなんですか。」

「そうなんですよ!っと、食事が来たよ~!」


メイドさんが料理を持ってくる。

ん?昼からフルコースを食うのか?

おっさん、胃が持たれるから、軽くでいいんだけど…。


「今日はシメさんと初めて食事ができる記念日なので特別料理でーす!」

「流石にフルコースはキツイですよ。」

「あ、大丈夫、お腹いっぱいになったら、あたしが食べてあげるからね。」


元祖健康印・元気印のまどかさんだ。

元祖かどうかは知らないけど…。

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