3-4 紅茶の美味しい、喫茶店♪

 モノもそろってきた。

城で働くヒト達も、皆笑顔で仕事をしている。


 俺とまどかさんは、城の麓の街づくりをしている。

その傍らにゴンさんとボビーさんが居て、街の設計図を描いている。


「ダーリン、やっぱり街にはカフェが必要だよ。」

「まどかさん、俺も欲しいんですが、カフェってコーヒーなんですが…、カカオってあるんですか?」

「うーん…、見た事ないね。」

「でしょうね…。だって、ここ寒いじゃないですか。

 もっと暑い国でしか採れないと思いますよ。」

「うん。それじゃ要らない。じゃ喫茶店で!」


 ま、それは有りだろうね。

ふと、思い立つ。


「まどかさん、ベーキングパウダーはありますか?」

「膨らし粉の事?」


はるか大昔に俺の母ちゃんが言ってた言葉だよ。


「そうそう、その膨らし粉の事です。」

「あるよ。あと、曹長じゃなくって、何て言ったかなぁ~。」

「重曹のことでしょうか?」

「そうそう。それもあるよ。

 あれって、いろんなところに使えて便利なんだよね。」


 そうなんだよ。重曹は洗剤にも使えるし、重曹=ベーキングパウダーとしても使えるんだ。


「って事は、スポンジケーキは出来るんだな…。」

「え?何?ケーキ?」

「うん。卵もある、小麦粉もある、ベーキングパウダーもあれば、ケーキの土台は出来るはずだよね。そうすると、あとはミルクから生クリーム作って、砂糖入れて…。」

「ダーリン…、ちょっと待ってね。

 今、ケーキって言った?よね?」

「あぁ。パンも出来るんだから、ケーキだって出来るでしょ?」

「あーーーー。何であたしはそう言う事に気づかないんだろう…。

 そうだよね…。ケーキ出来ちゃうんだ…。

 数十年ぶりになるけど、食べられるんだよね…。」

「どんなモノができるか分かんないけど、作ってみる?

 それで、上手く言ったら、ジンさんやハーフデーモンさんに店でも出してもらう?」

「うんうん!そうしよ!」

「あ、上に乗せる果物とかはあるのかな?」

「リンゴに似た果物とサクランボのようなモノ、あとはベリー系があるよ。」

「まどかさん…、もしかして俺にいろんなケーキ作れって意味で言った?」

「えへへ。バレた?」

「そりゃバレるよ。

 この間のパーティーで、すっごい種類の果物あったじゃん。

 その中からリンゴとチェリーとベリーを言うって事は…。」

「アップルパイとチェリーパイが食べたい!

 あと、ベリーのタルトも!」


 あの…、俺シェフじゃないからパイとかタルトの作り方なんか知らんぞ。

どうやって作るんだ?


「パイもタルトも作り方知らないけど…。」

「あ、それならあたし覚えてる…と思うから。一緒に作って欲しいな。」

「オーブンは有る?」

「うん!」

「それじゃ、作ってみようか。」



 うん…、まどかさん…ところどころ記憶が飛んでるね。

先ず生地だけど完全に飛んでました。

ま、パイ生地もピザ生地も同じようなもんだ、まどかさんが言うので、それなりのモノを作っていく。

リンゴも煮込み、パイ生地の上に乗せ、その上に細長く切った生地を乗せ、周りを押さえていく。

表面に卵黄を塗り、オーブンに入れて20分くらい待っただろうか…。

甘いいい香りがして来る。


まぁ、失敗したとしてもスタッフで美味しくいただきました、で済むから問題なしとして、出来上がったものをオーブンから出してみた。


「ダーリン…、これって…。」

「うん…。まごうこと無き“なんちゃってアップルパイ”だね…。」


上手くはできていないが、何となく美味しそうに見える。


「では、試食といきましょ~!」

「そうですが、二人でこの領は多すぎない?」

「大丈夫だよ~!あたしが全部いけるから!」


 直径20㎝のパイだぞ…。それを一人で食べるのか?

流石まどかさんだ。鉄の胃袋だよ。


「おいしーーー!ダーリン、最高だよ!」

「もう少し、砂糖を加えた方が良かったですかね?」

「あたし、この酸っぱさが好きだなぁ~。」

「んじゃ、これを料理人さんに教えるという事で。」

「そだね。それじゃ、ジンとハーフデーモンに集まってもらって、調理実習をしよう!」


 色恋と食い物関係の情報は早い。

悪事ではないのだが、“悪事千里を走る”だ。

ものの見事に城内に情報が知れ渡り、ジンさんとハーフデーモン以外の種族も集まって来る。それを整理しているのがレインさんだ。


「魔王様、収集がつきません…。」

「あはは、凄いね。こんなに集まるなんてびっくりだよ。」


 まどかさんはあっけらかんとしている。

ま、まどかさんだからね。


 パイとタルトの作り方を皆でやっていく。

やはり種族がいろいろいると、面白いものも出来てくるし、失敗も発生する。


ある種族は砂糖と塩を間違えてしまい、辛いパイになってしまった。

作った本人はひどく落ち込んでいたが、そのパイに辛くなってしまった果物を取り除き、ひき肉を炒めたものをトッピングしたら、美味しい美味しいと言って食べてたよ。

そう、ミートパイだよ。


 いつの間にかアップルパイづくりが、種族事の特産品づくりに変わっていった。


「ダーリン、凄い種類の食べ物ができたね。」

「そうだね。でも、まだまだかな。」

「ん?ほかに何かあるの?」

「小麦粉と膨らし粉を入れて作るモノって、もっと沢山あるんだけどね。」

「あ!パンケーキだ!」

「そうだね。それ以外にも沢山あるよね。」


まどかさんが考え始めた。

少し、助け船を出してあげようかな。


「まどかさん、前の世界で大阪って言えば?」

「食い倒れ!

 あ、お好み焼きにたこ焼きだ!」

「当たり!それも出来るよ。それにイタリアと言えば?」

「パスタ!あ…」

「思い出した?」

「ピッツァだぁーーーーー!」


 皆がきょとんとしてまどかさんの方を見ているが、まどかさんはお構いなしにまくしたてる。


「ダーリン、ピッツァとお好み焼き作って!」

「ふふ、そう来ると思って、既に仕込んであるんですよ。」

「流石ダーリン!愛してる!」


 前までは種族がいる手前、ヒト前で抱き着くことはしなかったのだが、今では当たり前の風景になっている。魔王の尊厳ってどうだろうと思いつつも、皆が温かい眼で見てくれているので問題はなかろう。


 ピッツァは単純。生地にトマトソースを塗り、具をトッピング。

チーズをかけて香草を乗せるシンプルなモノを焼く。

 お好み焼きはキャベツともやしみたいな何かの芽とワイルドボアの薄切りを混ぜ、フライパンで焼く。

 焼けたら、ソースとマヨネーズをかけて出来上がりっと。


 単純な料理だけど奥が深い。

何せ、ソースが良い味を出してくれない…。

普通のソースではなく、少し甘みを持たせるために蜂蜜を入れてみると…、まぁ!何という事でしょう!近い味になって来たではありませんか!


「ピッツァとお好み焼き出来ましたよ~!」

「いよ!待ってましたぁ~!」


気が付くと、調理している周りに大勢のヒトだかりが出来ていた。


「先ずは、魔王様からね。」

「ありがとね。ダーリン!」


ピッツァとお好み焼きを一切れずつ渡す。

それを美味しそうに頬張る。


「ん~~~~~!最高!生きてて良かったぁ~!」


何てフラグを出すんだ…。


「それじゃ、どんどん焼いていくから、皆さん食べてもらうのも良いですが、レシピ覚えて帰ってくださいね。」

「はい((((はい))))!」


 調理場で争奪戦が始まった。



「ねぇダーリン。あたし思ったんだけど…。」


昼の戦争を終え、お風呂タイムだ。

今はまどかさんの髪と身体を洗い終え、ターニャさんに移っている。

まどかさんは、髪をタオルに包んで湯船に浸かっている。


「ん、どうした?」

「この間、ダーリンがスキルの話してたでしょ?

ダーリンのスキルが無って。」

「そうだったね。」

「前の世界でね。社会科を教えてた先生が言ってた言葉を思い出したんだ。」

「へぇ、何て言ってたの?」

「なんか、難しい話でね。無(む)とは有(ゆう)を生み出すものなんだって。

 あの時は全然分かんなかったけど、今、ダーリンがいろんな事やモノを作ってくれてるでしょ。これって同じ事なんじゃないかなって思って。」

「つまり、有(ゆう)を作り出すためのスキルって事かな?」

「そそ。」

「でも、俺は完全な無からは何も作ってないよ。

 有るモノを加工したり、工夫をしたりすることだけだよ。

 つまり、もともと有るものの形を変えているだけなんだよね。」

「って事は、それが無から有を作り出すことなんじゃない?

 んー、何ていうか、難しいことは分かんないんだけど、“形を変えて再出発させる”みたいな?」

「リスタートって事なのかな?」

「うまく説明できないけど、それがダーリンのスキルなんだと思う。」


確かに無はゼロであるとの考えもある。

無は、そこから始まる出発点であるとの考えもある…。あ、これこの間も話していたか…。


「んー。なんか難しいね。」

「そだね。でも、あたしは今のこの瞬間の生活が大好きだよ。チュ!」


 いろんな世界があればいろんな考え方もあるんだ。

それに順応して生きていけばいい。それだけの事だよ。

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