3-5 火薬くらいじゃ、魔王さまは守れません

 トロールさんが各種族で飼っている家畜の糞問題を解消してくれている。

乾燥させれば肥料にもなる。肥料で使わない分を集めトロールさんの種族の近くにある建物であるモノを作っている。


 と言うと秘密兵器を作っているようで、恰好良いという話になり、それを大々的にまどかさんが話している…。

話している段階で秘密兵器ではなくなるのだが…と思うが、それはまどかさんのキャラだから仕方が無い。

何せ、隠し事ができない真っすぐなヒトだ。

とても可愛いね。ゲフゲフ。


「で、ダーリン。今日はここで何をするの?」


糞を集積した建物の前にいる。


「あるモノを取り出そうと思いまして。」

「あるモノって何?」

「自然が作り出した最終兵器ですよ。」


 建物の中に入る。

多少匂いがあるが、問題はない。

さて、お目当てのモノができているか…。


「出来てる…。」


目の前の白い結晶を見る。

自然界のバクテリアによって産出されるもの…。硝石だ。


「ダーリン。この白いモノは何?」

「硝石だよ。」

「ふうん。」


まどかさん、興味がない。

ま、これだけだとそうだろうね。

しかし、魔国の山奥に一か所だけ火山があり、そこで獲れる硫黄と炭を足すと何が出来るのかをまだ理解していないんだよね。


「まどかさん、これから作るものは、魔法が使えない者が大変重宝するものなんですよ。」

「そなの?で、ダーリンは何を作ってるの?」

「火薬です。」

「へ?火薬って、あのボーンって爆発するあれの事?」

「そうですよ。」


 誰もが耳を疑う事なんだが、戦国時代などでは人里隠れた場所で硝石は作られていた事実があるんだよ。

 ただし、現代のような火薬ではなく、威力の低いものだったらしいが、それでも、爆発を知らないヒトから見れば脅威だよな…。


 朧気ながら記憶していた3つの素材を測りながら混ぜていくと、黒い粉が出来上がった。


「多分、これで出来たと思うんだけどな…。」

「それじゃ、外で燃やしてみようよ。」


 屋外に出て、その粉を地面に線状に敷いていく。


「じゃ、こっちから火を付けるから、見ててね。」

「はーい!」


 火打石で火を付けると、黒い線状に敷いた火薬に引火し一気に線を伝っていった。


「お、まぁ完成かな?」

「ダーリン…、ダーリンはこれで何を作ろうという気なのかな?」


まどかさんが少し驚いた顔をして俺に尋ねる。


「別に何って訳ではないんだけど、火薬を持っていると楽になる仕事もあるからね。」

「例えば?」

「ドワさんとか。トンネルとか掘る時に必要かな?って。ま、後は戦争になった時だけどね。」

「そか。そういう事もできるね。」

「でも、ヒトを殺す道具にはしたくないね。」

「魔法もそうだもんね。ねね、それじゃぁ、トロールにこの技術を教えて花火作ってもらおうよ。」

「花火?あ!そう言う事ですね。

 トロールさんは鉱物にも明るいから、いろんな鉱物を混ぜると違う色の光が出ると。

 それを花火にしてもらうんだね。

 まどかさんの今日イチが出たね。」

「えっへん!いい考えでしょ。」


トロールさんに、火薬の作り方を教え、その火薬に鉱石を混ぜると色が変わることも教える。

彼らは眼をキラキラさせながら聞いている。

特に鉱石を混ぜると色が変わるという所には食いついてきた。


「ジューク様、色が変わることは理解できました。

 それをどう使うという事でしょうか。」

「うん。少し技術が難しくなるけど、打ち上げ花火というものがあってね。・・・・」


筒に入れて上空に飛ばし、上空で火薬を入れた玉を爆発させると四方八方に飛び散ることを教える。ただ、言葉では難しいので、打ち上げ花火の玉の作り方などは絵に描いてみせている。


「くれぐれも取り扱いには注意してくださいね。

 火薬に引火でもしたら目も当てられませんから。」

「ジューク様、痛みいります。早速研究してまいります。」


後はトロールさんに任せよう。


 帰り道、まどかさんに尋ねてみる。


「まどかさん、花火という事でお願いはしたけど、戦争とかには使わないという事で良いんですか?」

「うん。そこは問題ないよ。

 だって、勇者が来て倒すのはあたしだから。

 それにそれ以外の魔物が攻撃したら、その種族は根絶やしにされちゃうでしょ。

 標的はあたしだけでいいんだよ。」


まどかさんが寂しい眼をする。

それで良いのか?勇者が来て、まどかさんを倒す。

そんな敷かれたレールで良いのだろうか。


「まどかさん…。」

「何?ダーリン。」

「俺はまどかさんの夫です。

まどかさんを勇者になんか倒させないですよ。そのためには何でもしますよ。」

「でも、他の種族が殺されるような事はしないでね。」


ハッとした。

そうだよな…。俺は“無”だもんな…。

生み出すことは出来たとしても、守る力なんて無い…。


「ごめん。俺の力があれば…。」

「そんな事ないよ。ダーリンはこれまでも、そしてこれからもいろんなモノを生み出してほしいんだ。それでみんなの生活を豊かにして欲しいし…。」

「その中にまどかさんは居ますか…。」

「え?」

「俺は、まどかさんが居るから、いろんな事をしてきました。

 まどかさんが居ない世界なんてイヤです。まどかさんが勇者に倒される運命だというのなら、俺も一緒に倒されますよ。

 でも、その前に勇者がまどかさんの所に来る事を阻止しますよ。」

「じゃぁ、その勇者はどうなるの?」

「説得します!」

「もし、その勇者に家族が居たら?

 同じ事になるよね…。」


 堂々巡りだった。

こちらを立てればあちらが立たずだ…。

もどかしい…。俺にもっと力があれば…、この現状を無しにできさえすれば…。

すべて無に帰し、ゼロからスタートできないのだろうか…。


「ダーリン、なんか難しい事考え始めちゃったけど、一度、老子に会ってみる?

 老子なら、ヒントを教えてくれるかもしれないね。」


 ん?老子?

中国の思想家?仙人みたいな人がいるのか?

それとも、ドラゴン〇龍の師匠なのだろうか…。


「まどかさん、その老子って?」

「ここから西に行くと雪山があるでしょ。そこに住んでいる龍の事だよ。

 その龍はずっと長い事生きていて、いろんな事を知ってるから。」

「まどかさんも会ったことあるの?」

「勇者時代に一度ね。」

「で、何か教えてもらえたと…。」

「うん…。でも、あたしは余計にこんがらがっちゃったって感じかな。

 だって、老子の話は難しすぎて、ついていけなかったから。」


 当時、中学生のまどかさんだ。

そりゃ、本当の老子の話であっても難しかったと思う。

哲学とか思想なんて、大学の時に習ったけど、ちんぷんかんぷんだったよな…。


でも、“無”について知りたい。

まどかさんを守るために“無”はどういう役目になるのか…。


「まどかさん…、俺、老子に会いに行きます。

 老子に無とは何かを教えてもらいます。」

「うん。分かった。

 それじゃ、城に戻って準備しよ。」



「ダーリン、あたしは行けないから気を付けてね。」

「まどかさんは、この国をまとめなければいけないヒトだから当然だよ。

 それと、少しの間留守するけど、アルルさん、ルナさん、ターニャさん、まどかさんを頼んだよ。絶対無入りさせちゃいけないからね。」

「カズ殿、承知した。」


 皆に挨拶をして、まどかさんを抱きしめる。


「ダーリン…、愛してる…。」

「まどかさ…、まどか。俺もだよ。それと待っててね。必ず、まどかさんを守るからね。」

「うん。レイン…。ダーリンをお願いね。」


皆にキスをして籠に乗り込んだ。


「じゃぁ、行ってきますね。」

「あ、ダーリン。

 雪山に入ったら、ビッグフットさんに道案内をお願いしてあるからね~。」


ビッグフットさん、やっぱり居たんだ…。

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