3-6 老子様とご対面~

「うぅ…、寒っ!」


 標高も高いせいか、晴れてても寒い…。

寒いというよりも痛いんだ。

前の世界で、北の方に住んでいた事もある。

その時、呼吸するたびに鼻毛が凍ったり溶けたりして、こそばゆい思いをしたが、それよりも酷い。何せ、肌に当たる部分が痛いんだ。


 籠はビッグフットさんの種族の空き地に到着し、そこから徒歩で老子と呼ばれる龍の住処まで向かう。

 一応、歩いてはいるんだが、齢には勝てず、1時間ほど歩いてギブアップ…。

そこからはビッグフットさんに担がれて山を登っている。


「なんか、すみません…。皆さんの迷惑かけちゃって。」

「なぁに、これも魔王様の旦那様のたってのお願いですからね。」


 ビッグフットさんは気さくなヒトだった。

身なりは某“愛・地〇博”のキャラクターのモ〇ゾーを白くしたようなスタイルだった。

レインさんはと言うと、ダークエルフは寒さに弱いのか、俺よりも早くにギブアップし、今は俺の体温を感じている。


「カズ様は温かいですね。」


なんて言われた日にゃ、俺一人で!とは思うんだが、寒さには勝てません…。

彼女をしっかりと抱き寄せながら、ビッグフットさんに担がれているという情けない状態だった。



「旦那、着きましたぜ。」


かれこれ3時間ほど担がれた後、一つの洞穴に着く。

どうやらここが老子さんの住処らしい。


「ビッグフットさん、ありがとうございました。」

「帰りはどうします?老子様にお願いでもしますか?」

「そうですね…。一度聞いてはみますが、できれば皆さんと帰りたいですね。」

「それじゃ、わしらはこの辺で休んでおりますので、いつでも声をかけてくださいまし。」


 俺とレインさんの二人で洞窟の中に入っていく。


 洞窟の中は外よりも温かく、これなら俺なら動けると思うが、レインさんがガチガチ震えているので、しっかりと抱き着いてもらいながら歩く。

 

 前の世界で大学生だった数十年前、女の子と二人でお化け屋敷に入ったことがあったが、その時、抱き着かれて歩きにくかったことを思い出す。

まさに今がそんな状態だった。


 でも、しっかりとレインさんを抱き寄せながら、二人で奥へと進む。



「なぁ…レインさん…、ここが老子の住んでいる所…かな?」

「多分、そうだと思いますが…。」


俺たちは木製のドアの前に立っている。

表札もあり『ろうし』と平仮名で書いてあるし、ご丁寧に表札の下には呼び鈴まである。


「まぁ、押してみるしかないよな…。」


呼び鈴を押すと、中から声がする。


「はいはーい。ちょっと待っててね~。」


どこぞのおばちゃんか?と思いながらも、待つこと数十秒、ドアが開き中からちっちゃな女の子が出てきた。


「あの…、ここは老子さんのお住まいという事でよろしいでしょうか?」

「はい、そうですよ。

 あ、でも新聞の勧誘とかは要りませんし、N〇Kの受信料なんてのもダメですよ。

 第一、ここ、電波来てませんからね。」


 なんだ?一体?

 呆気に取られて茫然とするが、その女の子は喋りまくる。


「で、あなた達が連絡のあった魔王の旦那さんと奥さんですか?」

「へ?あ、はい。そのような連絡が来てるんですね。」

「魔王から直々に手紙が届きましたので。」


 うぉい!手紙という手段があるなら、直接会いに来なくてもいいじゃないか!

まどかさんは何を考えているんだ?


「そうですか。実はいろいろと教えていただきたい事がありまして。」

「立ち話も何ですから、どうぞ中にお入りください。

 あ、玄関では靴を脱いでくださいね。」


 なんだか世界観がクロスオーバーしてるんじゃないかと思うが、郷に入りては何とかなので、ドアの中に入ることとした。


「うわ!なんだこれ?」


ドアを開けると玄関…。それも日本家屋風の…。

一体、どんな世界なんだ?ここは?


防寒具を脱いで、玄関の左の座敷に通される。

座敷の真ん中には囲炉裏があり、そこには炭がくべられている。


「暖かい…。」

 

囲炉裏の炭がパチパチと音を立てている。

なんだか、心が落ち着く。


「カズ様、ここは一体?」

「俺にも良く分からないが、俺が前に住んでいた世界の部屋とそっくりだ。」


 女の子がお茶を持ってきてくれた。


「粗茶ですが…。」

「ありがとうございます。」


女の子が反対側にチョコンと座る。

ニコニコを笑っている。

ん?なにか変だ。

老子なる方がおられないのか? はたまたこの女の子が老子なのか?


「えと…。」

「シメさんでしたね。いろいろと魔王さんを助けてくださったようで、ありがとうございました。」

「えと、老子様でよろしいんですか?」

「はい。一応、老子と言われています。

 ま、この姿は仮の姿で、シメさんの脳内をあれこれ見させていただき、この姿が一番落ち着かれるのではないかと思い様態を変えております。」


そう言う事か…。

いや、ちょっと待ってくれ。俺ロリではないぞ。


「あの…、俺、そういった趣味はないんですが…。」

「え!でも、『アル〇スの少女ハ〇ジ』の話を滔滔とされておられたので、てっきりお好きなんだと思いまして。」

「いえ、あれは『クララで立った』とまどか…、魔王様が仰ったものですし、それにメイド長さんの名前もロッテン〇イヤーさんに少しだけ似ていると思っただけで…。」

「あ、別に良いですよ。

 そうなんですか、では容姿を変えた方が良いですか?」

「いえ…。そのままでお願いします。

 既に老子様=可愛い女の子というイメージが刷り込まれましたので…。」


「ま、そんな事より久しぶりのお客様ですから、少しお話ししませんか。」

「そうですね。

 あ、自己紹介がまだでしたね。俺はシメ カズミと言います。

 こちらは、俺の第五夫人のレインです。」

「はじめまして。シメさん、レインさん。

 私は老子と呼ばれていますが、本来の名は“地龍 ヴァリトラ”と言います。よろしくお願いします。」

「ご丁寧にありがとうございます…。」

「いえいえ、こちらこそ…。」


 うん、話が進まない。


「すみません。早速教えていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「シメさん、せっかちですよ。

 もっと、お互いを知ってからの方が良くありませんか?」

「それはそうですが、洞窟の前にビッグフットさんを待たせていますので、早めにお話しした方が、彼らにも迷惑がかからないのかかな、と思いまして。」

「であれば、彼らを郷に帰しますね。

 大丈夫ですよ。私が郷までお送りしますので。」

「はい…、ではお願いします。」

「それじゃ、ちょっと伝えてきますので、少し待っててくださいね。」


老子様は居間を出ていった。


「なぁ、レインさん、あれで良かったのか?」

「カズ様、私に聞かれても分かりません。」

「ビッグフットさんを帰したということは、俺たちがここから郷まで戻る手段が無くなったって事だよな…。」

「もしかして、取って食われるとか?ですか…?」

「いや、分からない…。」


不安要素もあるが、老子様が戻るのを待つ。


「お待たせしました。」

「いえ。ビッグフットさんたちは?」

「郷でお待ちしているとの事です。」

「そうですか…。」

「大丈夫ですよ。取って食べるような事はいたしませんから。」

「ありゃ、聞こえていたんですか?」

「いえいえ、凡その事は分かりますので。

 それに、ヒト一人食べたところでお腹が一杯になりませんからね。」


 うぉい!やっぱ食うんかい?


「それに、私脱いだらすっごいんですから。」


 え?一体何を脱ぐんだ?


「へ?」

「冗談ですよ。冗談。

 でも、私の元のサイズですが、全長30mはありますからね。」


 そうだよね…。

何てったって地龍さんですから。

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