3-7 老子曰く、『先ずはご飯!』

「シメさんが聞きたいことはたくさんあると思いますので、ゆっくりをお話ししましょう。」


 老子様=地龍ヴァリトラ様が屈託のない笑顔で話し始める。


「そうですね~。先ずはシメさんが幼女体型が好きかどうかという事でしょうか?」

「いえ、ロリは射程圏外です。」

「なんだ。じゃ、どちらかと言えば若いピチピチのギャルでしょうか?」

「そうでもありません。

 むしろ…って、何言ってるんですか。」

「あはは、シメさんって揶揄うと面白いですね。」

「魔王様にもそう言われました…。」


 ここでも揶揄われる…。

やはり、おっさんはターゲットになりやすいんだろうか…。


「すみませんが、老子様はお一人で住んでおられるのですか?」

「そうですよ。あ、齢聞こうとしたでしょ?

 女性に齢を聞くのは野暮ですよ。それに、何て言いましたか? セクヘラでしたか?」

「違います。 セクハラです。一歩間違えばヤバい言葉になりますよ。」

「あはは、ごめんなさいね。

 でも、言っちゃいますね。1000年は生きてますよ。」


 ギャップが激しすぎる…。

千年以上生きている龍さんが、ちっちゃな女の子の恰好で、話し方は落ち着いた女性…。

これが、ギャップ萌えという奴なのだろうか。


「それに、一人とは言っても、たまに友人が遊びに来てくれますから。」

「ほう、ご友人が?」

「火龍 ハバムートでしょ、水龍 リヴァイアサンでしょ、光龍 フレイスヴェルグ。」

「なんか、皆さん強そうな名前なんですが…。」

「えぇ。一応、私を合わせて“四大龍”と呼ばれていますね。」


 この世に四大龍有。

 名を火龍ハバムート、水龍リヴァイアサン、光龍フレイスヴェルグ、そして地龍ヴァリトラと言う…って所ですか。


「で、その四大龍さんが、世界の秩序を守っていると?」

「いいえ。そんな事はしませんよ。」

「では?四大龍とは?」

「単に長生きしている龍が四匹居るって事です。

 長生きしてるから、皆から慕われているというところですよ。」


 少しがっかりした…。

『我の力をそなたに宿す!』とかテンプレ的な事はないのか…。


「ですから、そのような力はありませんよ。

 単に長生きしているから、知識があるだけです。」

「でも、心は読めるんですね。」

「そりゃ、千年以上生きてれば読心術だってできますよ。」

「それでも凄いと思いますよ。」

「ふふふ、もっと褒めていただいても良いんですよ。」


 何か会話がフワフワしていると感じる。

風になびく柳のように、いなされているような感じだ。


「えと…。」

「そうだ!お腹減ってますよね。夕食にしませんか?」

「いきなり、突拍子もない話になっているんですが?」

「えぇ。でも、食事をしながら会話をするってのもおつですよ。」

「確かにそうかもしれませんね。

 それじゃ、夕食にしましょうかって、俺たちが晩御飯じゃないですよね?」

「はい。そのようにはいたしません。

 でも、ひとつお願いがあるのですが…。」


 このパターンは料理している姿を決して見ないでくれとかのパターンだぞ。


「魔国で作ったピッツァとお好み焼きが食べたいのです。」

「へ?」

「あの食べ物がおいしそうで。」

「って、何で知っているんですか?このパターンは、『私が料理を作るまで、決してドアを開けないでくださいね。』ってパターンじゃないですか?」

「別に恩返しをすることもありませんから。」

「やはり、この話を知っていると…?」

「遥か昔、勇者から聞いたことがあります。」

「そうですか…。しかし、なんでこの世界は勇者という者を召喚するんでしょうね。」

「血が濃くならないように、そして一種のストレス発散です。」

「やっぱりそうなんですか…。

 しかし、他の世界から勝手に召喚するなんて、矛盾していると思いますがね。」

「一種の娯楽なんでしょう…。」

「そんな奴らのために、魔王様を討たせるんですか?」

「それが世です。」

「なんだか、頭にきます。俺の最愛のまどかさんを討つなんて。

 絶対に許しません。」

「では、ヒトの国を滅ぼしますか?」

「それをやると、本当の魔王になってしまうので…。

 それに、ヒト至上主義というのも気に入りませんね。」

「であれば、滅ぼすと?」

「ですから、滅ぼしませんって。」


 老子様は終始ニコニコしていて、何を考えているのか分からない。

しかし、世界には干渉はしないと言っているが…。

混乱し始めたので、夕食を作ることにした。


「材料はそちらの扉に入っていますからね。」

「はい。

 レイン、手伝ってくれないか?」


 あ、レインさんを呼び捨てにしてしまった…。

慌てて呼び直そうとしたが、クネクネしている。

ヤバい…、地雷踏んでしまった。


「カズ様が私の事をようやくレインと…、むふ…、うふふふ。」


やってしまった…。

しばらくお花畑から帰ってこないだろう…。

諦めて一人で作り始めた。



「むふ~。これがピッツァですか。モチモチしてて美味しいですね。

 それにこのお好み焼き、最高です!とくにソースが良い!」


老子さん…1ホール平らげてますよ。

それにお好み焼き食べたら、お腹パンパンになるんじゃないですかね?


「でですね、シメさんの知りたい事なんですが…」


うぉ!いきなり本題に入るのかい!


「私も“無”というスキルについては知りませんね。」

「・・・。」


 やっぱそうなんだ…。

前の世界の哲学であっても“無”が何たるものかなんて、仮設は解いたとしても誰もが“これだ!”なんて答えが出されていないんだよな…。


「でも、おもしろいこと文献がありましたね。」

「文献ですか?」

「ええ、はるか昔、無が0(ゼロ)と言われた時期がありました。

 でも、ゼロを嫌うヒトが無というモノを無くそうとしたらしいです。」

「ゼロを嫌うヒト、ですか?」

「そうです。ゼロとは即ち何も生み出さない無用のモノだとして必要の無いものだと認識されていた時代もあったという事です。」

「しかし、今ではゼロという概念は生まれている、という訳ですね。」

「はい。お金やモノが無い=ゼロという概念ですね。」

「しかし、ゼロはあくまでも無い状態なので、何かがあればゼロではないという事になりますよね。」

「そうですね。

 ただ、シメさんが仰る考えに移行していくヒト、追随していくヒトが居なかったというのもあります。

 もう一つ面白い文献があります。

 賢者というスキルですが、魔法で攻撃するとか治癒するといったものではないというものです。」

「え!?まどかさんって魔法撃てないんですか?」

「いえ、彼女は魔法使いから賢者になったので、魔法は撃てますよ。

 でも、賢者というものは、どちらかと言えば物事を良し悪しを判断できるヒトという意味で使われています。」

「いや、それは問題だ。

 まどかさんが、物事の良し悪しを理解しているとは…。」

「それは、シメさんの概念の中だけで決めていることです。

 魔王は魔王の概念があります。」


 そう言う事か…。

ヒトにはそれぞれ物差しを持っていて、その物差しで物事を測ろうとするという事だな。

そう考えると俺は俺の尺度で測っていただけの事なんだ。


「そうですね…。俺は俺の中だけで比較とかしようとしていたのかもしれません。」

「ですね。なので、この場合、物事の良し悪しと言っても、彼女が思う良し悪しで判断していることを指しますね。」

「それでも賢者なんですよね。」

「はい。彼女が魔王になってから数十年、勇者も現れなかったという事が物語っています。」

「しかし、何故今になって勇者が召喚されてきたのでしょうか?」

「それは先ほども言いましたが、ヒトの世界のストレスの発散です。」

「何とか王国という政治に対するストレスでしょうか?」

「そうです。あの国には今王派と女王派に分かれていますからね。」

「は?そんな身内の喧嘩を仲裁するために勇者が召喚されたって事ですか?」

「そういう場合もあるという事です。」


 なんだよ…。ヒトってエゴの塊じゃねえか。

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