3-11 城への帰還

「シメ様、次にお越しになられる時を楽しみにしております。」


ビッグフットさんたちは首を垂れている。


「あの…、そんなことされると恥ずかしいので…。」

「それでは私共の感謝が…。」

「シメさん、良いじゃないですか。彼らも好きでやっているので。」

「うーん…。良いのか悪いのか…。

歯がゆいんですよね。」


 ビッグフットさんのところから、まどかさんに借りた籠に乗って城に戻る。

今回は老子様も一緒だ。


「魔王城ですか…、久しいですね。」

「ずいぶん前に来られたのですか?」

「100年以上前になりますかね。

 あ、それと、シメさん、このまま幼女で良いですか?」

「へ?あ、そう言えばそうでしたね。

 もう、そのままで良いですよ。まどかさんにはニヤニヤされると思いますが、もうどうでもいいですよ。」


1時間もかからず城に到着する。


「レインさん、2日ぶりの城ですけど、皆元気にしてると思いますよね?」

「魔王様もアルル様、ルナ様、ターニャ様も元気ですよ。」


 籠が城の中庭に下ろされ籠を下りると、城で働いているヒトがずらーと並んでいるよ。

さすが老子様の威光だね。


「では、老子様、ようこそ魔王城へ。」

「シメさんは、やはり勘違いされているようですね。」

「いや、これは老子様の威光ですよ。」

「あの…カズ様、これはビッグフットの時と同じだと思いますが…。」


 何?歓待とか挨拶なんて、もういいぞ。

早くこの場を立ち去らないと…。


あ、まどかさん達だ。


「ダーリン、お帰りなさい!」

「まどかさん、ただいま帰りました。

 アルルさん、ルナさん、ターニャ、ただいま。」

「お帰りなさいませ、旦那様。」


へ?何で旦那様なんだ?


「やっぱり、ダーリンはやってくれるヒトだと思ってたよ。

 老子様の試験をパスするなんて、凄いね。

 で、その横に居る可愛い女の子は誰かな?かな?」

「え、老子様だよ。」

「ひゃ?老子様が城にお越し…。きゃー!みんなぁー、老子様もおいでいただけたよー!」


 知らなかったのかい!

なんか言葉がおかしいが、まぁ、まどかさんだから良いか。


「魔王、お久しぶりですね。」

「老子様、お久しぶりです。」

「募る話はあると思いますが、そろそろ皆さんを解いてあげませんと。」

「あ、忘れてた。みんなぁ~もういいよ~。」


 この数日でまどかさんの皆に対する態度がすごくフランクになったね…。


城に入ろうとすると、竜人族がつつっと前に出る。


「シメ様、この度は“四龍の主”の称号、おめでとうございます。

 我々、竜人族をシメ様の手足としてお使いください。」

「へ?何で?」

「“四龍の主”でございますので。」

「よく分からないんだけど…。もしかして“四龍の主”って龍のトップって事じゃないよね。」

「久しく席が空いておりましたが、この度、シメ様が就任されました。」


 あかんやつだった…。

老子様を見るとニヤニヤと笑っているよ。


「まぁ、そう言う事です。」

「いや、そう言う事って…。はぁ…、もういいですよ。

 えと、ギャオスさんでしたよね。これからもよろしくお願いしますね。」

「ははっ!命に替えても。」

「いや、そんな事いいですからね。普通に行きましょうね。」


この場を早く逃れたい…。ギャオスさんが何やら光っているようにも見えるが、走るように本館に入っていく。

謁見の間から袖を抜け、別館の執務室に行く。


「ダーリン、龍の試験を合格したの?」

「あ、そうなるかな。」

「シメさんは、80点で合格しましたよ。」

「すごいな~。あたしなんか何言われているのか、さっぱり分からなかったよ。」


中学生だもんな…、でも占いに興味があれば分かったのかもしれないが…。


「その試験よりも、まどかさんと一緒にこの世界を良くする方法を見つけたんですよ。」

「え?」

「まどかさんが勇者に倒されない方法…かもしれません。」

「それは…?」

「まどかさんは賢者です。

 賢者は物事の良し悪しを判断するヒトです。

 一方、俺は愚者…。まどかさんと真逆のことをしてしまう愚か者なんです。」


 まどかさんが首をかしげる。

賢者と正反対の愚者が何故一緒に居て勇者に倒されないのか…。

そりゃ、難しいよな。

老子様の方を向く。

老子様は首を縦に動かし、説明しても良いという合図を出してくれた。


「まどかさん、タロットカードって知ってます?」

「ん。詳しくは知らないけど、前の世界でクラスの子がやってたのを見た事はあるけど…。」

「老子様たちが与えてくれる称号は、タロットカードが由来しているんですよ。

 賢者であるまどかさんは今のまま魔国を動かしていく。

 愚者である俺は、そのままの姿ではなく、まどかさんの影となって動かすんです。」

「影?う~ん。良く分かんないんだけど。」

「つまり、こうやって歩いていくんですよ。」


 俺は右手の人差し指を中指をまどかさんの足に見立て一歩ずつ歩くように見せる。

その下に左手で同じように指先をくっつけながら同じように歩くように見せた。


「あ、反射してるみたいだね。」

「そうなんですよ。

 まどかさんが正位置で、俺が逆の位置になって歩くんです。

 愚者は正位置ではまさしく愚か者です。でも、逆の位置になれば…」

「逆になれば…。」

「俺が前から持っていた“無”と同じ意味の“再生”、つまり生み出す事を意味するんですよ。」


 まどかさんの眼が輝いた。


「ダーリンが、あたしの影になってくれれば、いろんなモノが変わっていくって事?」

「そうですよ。だから、下着やシャンプーなどが生まれ、そして皆に広まっていくんです。

 まさに二人が一つになって動けば、魔国は安泰なんですよ。」

「でも、勇者はどうするの?」


あ…、勇者の事忘れてた…。


「えと…、それは…。」

「シメさんの点数は80点ですからね。ここからは私が説明しますね。」


老子様が説明をしてくださることになった。


「そもそも勇者は、ヒト族の王国の民のストレスを発散するために、魔国の長を倒すものですよね。でも、民がストレスを感じなければ勇者は生まれません。

 さらに、標的となる魔国が自身の国、民にとって必要不可欠なものとなれば、勇者なんて必要は無いのです。

 それに、魔国での産物がヒトの国よりも優れている場合は?」

「交易を行う…と。」

「はい。でも、優れているものを独り占めしたいというのは、ヒトの欲望です。

 しかし、魔国が強いと分かる。それにその品を民が満足すれば…。」

「交易のみを行い、それ以外の事はしない。」

「そして、その産品が他国よりも優れていれば、ヒトの国も潤いますよね。」

「そんな美味しい魔国を討伐することなんてしますか?

 それに、“四龍の主”が君臨し、賢者も居る魔国に、戦争を仕掛けるような愚者はいないと思いますよ。」

「愚者は俺なんですが…。」

「シメさんに称号を渡したので、それ以上の愚者となって魔国に何かするような者なんて居ないはずですね。だって、愚者以上の愚者なんて居ませんから。」


 なんかディスられているような気がする…。

でも、俺が勇者パーティーに居たら、魔王を倒すって事だったんだろうか?

怖いモノ知らずだったんだ…。


「今後、ヒトの国には挨拶に行かねばなりませんが、それはもう少し後になります。

それまでにこの国で素晴らしいモノを魔王とシメさんとでどんどん生み出していくんです。」

「老子様、そんな事できるの?」


 まどかさんが心配そうに聞く。


「もうおやりになっているではないですか。

 もう、恐れなくても良いんですよ。魔王とシメさんが一緒になっていれば、必ず良い結果となります。」


「老子様…、ダーリン…、あたし頭が良くないから、まだ理解できてないけど、勇者に倒されなくて済むようになれば嬉しいな…。」

「そうするように、いろんなモノを生み出していこうよ。」

「うん!ダーリン!愛してる!」


まどかさんが抱き着く。

まどかさんを受け止め、俺も抱きしめる。


「良い光景ですね。

 それと、シメさん、ひとつお願いがございます。魔王も聞いてくださいね。」

「はい。何でしょうか。」

「“四龍の主”となられたという事は、シメさんは私どものマスターとなります。

 魔王の承諾はいただいておりませんが、私どもも魔王と同じくシメさんの伴侶となるべき者となりますが…。」

「あ、なんだ。そんな事なら問題ないよ。

 えと、四龍だから4人ダーリンの妻が増えるって事だよね。

 家族が沢山増えて良いよね!」


まどかさんの爆弾発言で、4人の龍が妻になることがいとも簡単に決まった…。

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