3-10 ビッグフットさん達の歓待

 正直言います。

デカいです!おっきすぎます!

どれくらい大きいかと言うと、ここから、ずーーーーーと向こうまであります。


「デカいですね。」

「これが元の大きさですからね。」

「壮観ですね。」

「怖くないのですか?」

「え?老子様は俺達を襲いませんよね。

 襲わないのなら、怖くないですよ。」

「普通は、この姿を見ると恐れおののくのですが…。」

「でも襲わないって事なら怖がる必要も無いと思います。」


レインさんと一緒に籠に乗る。


「それじゃ、行きますよ~。」


一瞬、フワッとしたが、それ以降は安定している。

さすがデカいだけあって、安定感は抜群だ。


窓の外を見ると、結構なスピードで動いている。

老子様は歩いているのか?それとも滑っているのか?

それとも地龍も飛べるんだろうか。


「シメさん、地龍であっても飛べますよ。」


 あ、老子様…読心術ですね。すみませんでした。


「そろそろ着きますよ。シートベルトをお締めください。」


シートベルトかい!

座席にあったベルトで固定する。って、単に結ぶだけじゃないか…。


「はい。到着です。」

「老子様、ありがとうございました。」

「では、私もちっぱいでしたか?それに変化しますね。」

「いや、ちっぱいではなく幼女です。すみません…。」

「それと、城にも同行しますので。

 魔王にもしっかりとお話ししないといけませんからね。」

「あ、はい。分かりました。」


籠を下りると、ビッグフットさん全員が首を垂れている。

流石老子様だ。


「シメ様、お帰りなさいませ。」

「シメ様、早速歓待の宴を準備しておりますので、こちらへ。」

「へ?何で俺?」


 首をかしげる。

何かしたのだろうか?それとも魔王の夫というだけで、ここまで歓待されるのだろうか?


「ふふ、シメさん、慌てているようですね。」

「そりゃ、そうですよ。来た時とは全然違いますから。」

「それは、シメさんが称号を二つ得たという内容が魔国全土に通達されましたので。」

「へ?あの“愚者”と“四龍の主”でしたっけ?

 あれは、二つ名でしょ?」

「しかし、あの称号は魔王以来ですからね。」

「それは喜ばしい事なんですか?」

「魔国にとっては喜ばしいことだと思いますよ。」

「いまいちよく分かりません…。」

「今はそれで良いのです。時が来れば分かりますよ。」


 意味深な言葉だよな…。

ま、二つ名だからどうでも良いんだけどね。


 ビッグフットさんの集落に行き、長から長い口上を述べられるが、全然理解できない。

既に10分以上話しているけど…。

ようやく長の話が終わり、次に俺の挨拶となる。

え?!聞いてないよ!

先に教えておいて欲しかった。でも教えてもらっても対応はできないけど…。

辞そうとするが、儀礼上必要だと言われる。


 にっちもさっちも行かなくなり、老子様に相談すると、今俺が思っている事をそのまま話せば良いと言われた。

それって放置プレイと一緒だよ…。

前居た世界でも工場の朝礼で何か話せとか言われてあたふたしたことを思いだした。


「えー。本日はお日柄も良く…、あ、これは結婚式か…。

 すみません。何を話せば良いのか整理できていないので、今、思っている言葉をそのまま伝えます。

 ビッグフットさん、俺を老子様のところまで運んでいただきありがとうございました。

 おかげで老子様と仲良くなれましたし、それに“愚者”と“四龍の主”という二つ名もいただきました。これもひとえにビッグフットさんたちのおかげです。ありがとうございました。」


頭を下げ、もとに戻すと、ビッグフットさんが泣いてる…。

何故だ?


「えと…、この二つ名については、まだ良く分かりませんが、俺は魔王様の夫として、未来永劫魔国であるこの地を豊かにし、皆さんが笑って暮らしていける生活ができるように努力していきたいと思います。

 それには皆さんのご協力が必要です。

 いつでも気軽にお話しできるようにしていきたいと思いますので、皆さんも協力してくださいね。」


もう一度頭を下げると、ビッグフットさん達から盛大な拍手と歓声が上がった。

なんなんだ?このシチュエーションは?

完全にアウェー感な俺を置いておき、皆が宴を始めた。

って、昼間から皆どんちゃん騒ぎだけど、大丈夫なのか?


「シメさん、挨拶とても感動しましたよ。

 特に権威を前に出さずにお話しされたことが心に残りました。」


 何のことだ?


「すみません。何のことかさっぱり分かりませんが、この宴の趣旨から教えてもらえませんか?」

「時が来たら、と言いましたが、これ以上シメさんを困らせるのもいけませんので、説明しますね。

 シメさんが思われる二つ名は、この世界では権威のあるモノなんですよ。

 それを同時に二つ取られたのは有史以来初めての事なんです。

 その称号者を最初にもてなすことができる種族は、未来永劫幸せになれるという言い伝えがあるのです。」

「ちょ、ちょっと待ってください。

 二つ名の同時取得がどれくらい凄い事なのかは知りませんよ。

 それに、称号を最初にもてなすと言っても、俺たちはここに籠を置いてあるので、その籠に乗って城に戻るって事ですよね。

 なら、必然的にビッグフットさん達がその誉を得ることとなりますが。」

「いえ、私の庵でシメさんが城に帰ると仰って頂ければ、城まで行きますよ。」

「あ…、俺の先入観でビッグフットさんに迷惑をかけたという事ですね。」

「迷惑ではなく、名誉なんですよ。」

「よく分かりませんが、以前魔王様が称号を受け取った時はどうだったんですか?」

「勇者一行ですか?彼らならそのまま飛行魔法で王都まで帰りましたが…。」


 完全に俺の早とちりだな。

ビッグフットさんに迷惑をかけちゃったなぁ…と思いながら、長のところに挨拶に行く。


「長、今回はすみませんでした。」

「シメ様、儂どもを選んでいただき、感謝申し上げます。」

「へ?」

「称号を持たれた方に最初に会える光栄と今後の繁栄をお約束いただいた事、本当に感謝いたします!」

「え?今後の繁栄って?」

「称号者の方は、我々に富とよりよい生活を保証していただけるという事です!」


 ビッグフットの長さん…、フンスカしているけど、俺そんな保証できないよ。


「ついては、シメ様の称号により、何か下賤な私どもに一つでも光明をいただけると嬉しいのですが…。」

「ひゃい?光明ですか?」

「はい。不躾なお願いで申し訳ありません。

 我々は雪山に住む種族で、寒いところでしか生活できません。

 聞く所によれば、他の種族はシメ様のお力により、生活が向上したと聞いております。

 そのような奇跡を私どもも賜ることができれば…。」

「ちょ、ちょっと待ってください。

 もしかして、オークさんのミルクやエルフさんの卵の話ですか?」

「はい。それにマッサージとかいう奇跡の技量をお渡しなさるとか、道を綺麗にする技とか、とても多くの奇跡を残されたと聞いております。」

「へ?奇跡?…いや、奇跡ではなく…。」

「シメさん…、シメさんにとって、それは当たり前のことであっても、ここでは奇跡なんですよ。」


 老子様が耳打ちしてくれるが…、なかなか難しいね。

でも、皆が笑顔で暮らすことが目的だから、何か考えてあげないといけないな…。


 宴に目を移す。

皆、寒いのに酒をジョッキで飲んでる。

それに、皿に盛られた料理を食べている。

ん?寒い国の料理といったら鍋だろ?鍋が無いのは何故なんだ?

それに寒い日の酒は熱燗だろ!日本酒がなければホットワインか?


「老子様、いただいた味噌をこのビッグフットさんに渡しても可能ですか?」

「ええ。構いません。それに大豆なら、火龍さんからもらえますからね。」

「それなら、味噌づくりも可能ですね。」

「おやおや、何か新しいものをお渡ししようと?」

「はい。鍋と熱燗ですよ。」


 長と料理人を呼び、老子様からいただいた味噌を半分渡す。

次に来る際に味噌の作り方を教えるという事で、先ずは鍋。

なに、簡単なことです。キッチンを借り鍋に具材をぶった切り、味噌で味付けしてそれで終わり。

皆びっくりするが、鍋料理を食べた長や料理人は目を丸くして『奇跡だ!』と言ってる。

 さらに、ワインを温め、生姜やシナモンなどをを加えてホットワインの出来上がり。

あぁ、ここに日本酒があれば『玉子酒』でも作るのに…。

これも長たちが飲んで、『奇跡だ!奇跡だ!』と叫んでいる。


 やっぱ、寒いときは温かい食べ物を食べるのが一番だと思うよ。

まぁ、今回は煮るという事を教えただけなんで、次には味噌という特産品を作りましょうと伝えると、皆涙を流して喜んでた。


 そんな、大層な事ではないんだけど…、いいのかな?

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