Prologue2
「んん…、痛ってぇ…、って、ここは何処だ?」
頭がガンガンする。
湿気臭いし、少しひんやりとしている…。
焦点が定まり周りを見渡すと、ところどころに明かり、というか松明が置いてある。
一段せり立った場所には、この薄暗い場所には似つかない豪奢な衣装を着た女性が立っており、傍にいた老人と何やら話している。
頭を押さえながら上半身を起こすと、老人が何かしゃべっている。
「dfoidifuupjerue9r-0icuq3x9uru94tit?」
何語だ?さっぱり分からん…。
それに、高校生たちは無事か?
周りを見ると、まだ高校生たちは気を失っている…。
「おい、君たち、大丈夫か?」
一人のガタイの良い男子生徒の頬を叩くと、男子生徒は目を覚ます。
「あっ、てーーー。って、何だ?ここ?」
あ、それ日本語違うぞ。正確には“何処だ”が正解だ。
「大丈夫か?」
「おっさん、誰?あ、そういや、あの光があった時に、みずほの手を握ったおっさんじゃねえか!おめ、なんて事するんだ!」
「今はそんな事より、ここが何処で、あいつらが誰かを知る方が先だぞ。」
「あ…、もしかして、これってアニメとかであった召喚ってやつ?
うっひょー、もしかして俺たち、あの人たちに呼ばれちゃったくち?」
最近の若い者は、順応が早くて羨ましいよ。
それにおっさん、ラノベは読んではいるものの、召喚と転生・転移が今イチ良く分からない…。
って、ここは異世界なのか?
「その召喚って、異世界って事か?」
「そうじゃない?だって、あそこにいるおばはん、すっげー高そうなドレス着てるって事は、どっかの王様?」
「女性だと女王だな…。」
「まぁ、どうでもいいや。で、あとの奴はまだ寝てるの?」
「あぁ、起こした方がいいな。」
残り7人を順番に起こしていく。
俺は男担当…、別に悲しくもないぞ!それに、女の子触ると犯罪だと言われるかもしれないからな。
全員が目を覚まし、周囲を見ながら、興奮したり、泣き始めるなど様々だが、老人が咳払いをして何か話し始めた。
しかし、俺には何をしゃべっているのかとんと分からないので、みずほさんに話しかける。
「みずほさんと言いましたか?彼らが何を話しているか分かりますか?」
「え?は、はい。何故か日本語で話しかけていますよ。」
「へ?俺にはまったく理解できませんが…。」
「え、ちょ、日本語じゃないんですか?って、あ、ちょと待ってください。あの人、何か話していますね。ふむ…、うん…、はい…。
えと、要約しますと、この国の勇者として召喚したのは8名だけど、おじさんは何でいるのか?と言ってます。」
「ごめん。おっさん、言語理解できてないから、助けようと思ったら巻き込まれたって伝えてもらっていいかな。」
「はい。
Jfsdiofijewceuweu9ujgr・・・。」
なんじゃ?
みずほさんって言ったっけ?向こうのヒトと話す時は日本語じゃないんかい!
何故に伝わらない?
「おじさん、あの人に伝えたら、巻き添えを食ったヒトには申し訳ないが、スキルも無のおじさんは退出してもらうと言ってます。」
「まぁ…、そういう事なら仕方ないけど、君たちは大丈夫か?」
「はい。どうやら私たちはこれから王都に行き、そこで勇者の修行をした後、魔王を討伐するというテンプレな事をするようです。」
「てんぷれ?天ぷらじゃなく?」
「テンプレっていうのは、うーんと、お約束って意味…かな?」
「あ、テンプレートね。分かったよ。
んじゃ、おっさん行くけど、君たちは無理しないでね。」
俺はその場から立ち上がり、五芒星のような陣から出る。
フードを被った者から金貨のようなものを1枚もらい、広間のような場所から追い出された。
なんか良く分からないが、ふと手に持ったコンビニの袋からお茶を取り出し、一口飲む。
「まぁ、あっちに居ても、明日ハローワークに行くくらいだから、少しこの辺りを散策しながら行こうか。」
何せ楽天家である。
Tomorrow is another day.を素で行く俺だ。
言語も理解できないが、ボディ・ランゲージがある!
若い頃、俺はそれでアメリカ大陸を横断をしたんだ!
と言いたいところだが、ほとんど日本語が通じてしまったんだが…。
神殿のような建物の外に出ると…、そこは森だった…。
『トンネルを抜けると、そこは雪国だった…』の世界だな。
ダメじゃんか…、街だったら何とかヒトに助けてもらうこともできたんだが…。
お先真っ暗になるも、買ってきた弁当を思い出し、神殿の脇で弁当を食う。
のり弁330円…。さっきもらった金貨何枚分なんだろうか…。
弁当を食い終わりお茶を飲んでいると、先ほどの高校生たちが出てきた。
何故か物陰に隠れ、その様子を見る。
彼らは何か話しながら豪奢な馬車2台に分乗し、護衛数名と一緒にこの神殿を離れていく。
馬車の後を追えば王都にも行けるので、暫くしたら俺も行こうかと思いながら空を見る。
あぁ…、最近空何か見る余裕がなかったな…。
なんだか、地面ばかり見ていた気がする…。
それが悪い事ではないのだが、下を向くとどうも気が滅入ってしまう…。
これはいけないことだ。歌でもあったじゃないか!『Sukiyaki Song』だよ!
「よっこらしょっと。」
腰を上げ、ゆっくりと馬車が向かった方向へ歩き始めた。
・・・
30分ほど歩いただろうか…。
まだ森を抜けてはいない。
少し飽き気味になり、歩くスピードも遅くなっている。
しかし、森はところどころに陽が差しており、ピクニックと言い換えれば、少し気が楽になるな、なんて考えていると、前方から人が騒ぐ声が聞こえてくる。
確か、みずほちゃんが言ってたテンプレであれば、どこかの王女様とか商家の娘さんとかが暴漢や盗賊に襲われており、それを主人公が格好良く助けるという場面だろう。
早足で進み、ようやく声がする場所を見ることができた。
あ、あの高校生たちを乗せた馬車じゃないか…。
確か2台あったはずだが、1台だけ取り残されているのか…。
誰が乗っていたかは知らないが、取り敢えず見えるところまで行かないとと思い、木立に隠れながら喧騒の場を確認する。
4名ほどの護衛が汚らしい輩と闘っている。
馬車の脇にはブレザーを着た男子が3名倒れている。
その後ろに女の子が一人馬乗りされてジタバタしている。
「soisfiueunc9e0ure90u90!」
「oiriruueewuj!」
何言ってるか分からないが、おそらく手籠めってやつか…。
しかし、おっさん何もできないし、会話もできない…。
どうしようかと悩んでいると、はっきり日本語が聞こえる!
「助けて!」
あ、この声はみずほちゃんじゃないか…。
って事は、あの襲われているのはみずほちゃんなのか…?
完全に思考回路が止まり、身体が勝手に動いた。
その辺に倒れていた輩の剣のようなものを持って全速力でみずほちゃんを襲っている男のところまで近づく…。
おっさん、昔は剣道と居合をやっていたんだが、この剣は切るというよりも刺すというもののようだと勝手に思い込み、馬乗りになっている男の背中に剣を刺す。
「fhdifhudsfuify!」
手に残る感触がやけにリアルだ…。
それに、刺された奴が叫んでいるが、何言ってるか分からないため、そいつをどかし馬乗りを解いて、女の子を逃がそうとする。
「早く逃げろ!」
「おじさん…あ!」
刹那、背中に冷たい感覚がよぎった後、腹に痛みが走る。
腹を見ると槍のような棒のようなモノが刺さっていた…。
あ、終わったパターンだ…。
ただ、みずほちゃんだけは助けたい…。
そう思い、みずほちゃんの方を見やると、彼女も首に剣を突かれて目を見開いている…。
ごめんな…。
おっさん、あんたを助けることができなかったよ…。
それに、なんて事だ。
ラノベだったら、ここは無双でしょ…。
人生なんて、上手くいかないモノだな…。
そんな無情な感情のまま高校生4人が死んでいる姿を瞼に残し、俺の異世界召喚の話が終わった…。
Fin?
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