1-9 魔国を編成しなおします

 料理が出てくる。

貴族が食べるような食べ物ばかりだ。

…俺には合わないな。


俺としてはラーメンとか蕎麦とかズズ―と食べたい。

何日この世界にいるのかは分からないが、既に日本食が恋しくなっていた。


「まどかさんは毎日こんな食事をとっているの?」

「毎日じゃないよ。今日は特別!」

「こう言っちゃなんだけど、日本食を食べたいとは思わない?」

「なんか数十年過ぎちゃうと、味を忘れちゃったんだよね…。

 でも、たまにお茶漬けとか無性に食べたくなるなぁ…。」


 まどかさんがお茶漬け…、可愛いな。


「この国の食生活ってどうなっているんですか?」

「普通だね。でも日本食は無いよ。」

「ラーメンとか蕎麦とか?」

「うん。無い。」


 落ち込んだ…。


「お米はあるの?」

「ない。」

「醤油、みそは?」

「ない。」

「酒は?」

「あ、それならあるよ。」


 よかった…。


「この国で何を栽培しているの?」

「栽培はしていないかな?狩猟と採集だね。」


 心細くなって小さい声で聞いてみた。


「調味料は何があるの?」

「うんと、塩でしょ、砂糖でしょ、胡椒でしょ、ハーブでしょ、後はマヨネーズでしょ、

 お酢もあるし…何でもあるかな?」


 良かった…。生き返った。


「パンもあるってことは小麦もあると…。野菜はどんなのが採れるの?」

「うんと…、キャベツでしょ、ニンジンでしょ、ピーマンでしょ、茄子でしょ、・・・」


 なんでもあるようだ。


「でも、栽培はしていないと…。」

「うん。森に生えているモノを採って食べるって感じだね。」

「そうか…。」


完全に国として、領地として成り立っていないね…。


「それじゃ、農業からスタートすべきかな。

 あ、マヨネーズがあるって事は卵もあるんだよね。」

「うん。でも量は少ないよ。だって、卵ってなかなか採れないんだもん。」

「えと、家畜化していないって事かな?」

「そうだね。みんなあるモノを採ったりして毎日を生活しているって感じ。」


「んで、週に一度市が立って、そこでモノの売買が行われると。」

「そうだね。でも売買って言うより物々交換かな。」


 うん、それも良いと思うよ。

でも、それ以上にならなければ勇者がいじめにやって来ちゃうね…。


「んじゃ、先ずは農業から進めないといけないね。

 その次は産業と進めて、国か領地として成り立つまでに育ててみようか。」

「うん。お願いね!

 でさぁ、さっき話してた下着なんだけど、レースとか可愛いのとかできないかな?」


 飲んでたお茶を噴き出してしまった…。


「まどかさん、何言ってるの?」

「だって、あの下着可愛くないもん。やっぱ女の子なら可愛い下着履きたいでしょ。

 それに彼氏にも見せたいじゃんね。」

「まどかさん、彼氏いるんだ。」

「あはは、居たらだよ。シメさん、乙女心が分かんないかなぁ~。」

「自分、おっさんですからね…。」

「奥さんとか娘さんとか居たんでしょ?」

「あ、結婚はしましたが子どもはいませんよ。それに既に離婚されました。」

「ごめん…、変なこと聞いちゃったね。」

「いや、良いんですよ。それが自分ですからね。」

「それじゃぁ、あたしが奥さんになってあげる!」

「へ?ちょ、何言ってん…」

「あはは、シメさん揶揄うのって面白―い!」


 完全に遊ばれている…。

ま、まどかさんが明るくなってくれるだけで、この城の中も明るくなるからいいか。


 食事を終え、三将ズも戻り、まどかさんの執務室で会議を行う。

種族と人数、出来る事、兵士経験、病気などについてブリーフィングを受けた。


「カズさん、少し休憩しますか?」

「ターニャさん、ありがとね。

 しかし、何も動いていないという事が分かっただけでも一歩前進ですね。」

「そうだよ、シメさん、あたしなんてこの地の種族の数を聞いたの初めてだもん。」


 まどかさん…、あなた賢者ですよ…。

違う意味の賢者モードに入っていませんか…。


「んじゃ、まどかさん、アルルさん、ルナリアさん、ターニャさん、真剣なお話しをさせていただきます!」

「あ!その前にジュークさん、私から一つお願いがあります!

 アルルメイヤだけアルルさんって可愛く呼ぶのは不公平なので、私もルナさんと呼んでいただけませんか?」

「あ、ズルい!私もそれ言おうとしてた!ターニャじゃなくて、タ―さんで!」


 ガールズトークなんだが…。

でもターさんはNGだ。聞く人が聞けば“ターザン”に聞こえるぞ…。


「で、シメさん…どうするん?」


まどかさんがニヤニヤ笑ってるよ。


「分かりました。

 ではアルルさん、ルナさんで。ターニャさんは流石にターさんではいけないと感じますので、さんを取らせていただき、ターニャと呼んでもよいでしょうか?」


「むーーー、ターニャだけ呼び捨てかぁ…ま、シメさんを助けたのはターニャだから、仕方ないか。んじゃ、それで決定ね。」


 何故にまどかさんが絡んでくるんだ?

アルルさん、ルナさんはうんうんと頷いているが、ターニャさんだけはクネクネとして、違う世界に行こうとしている。

は!いかん、早く引き戻さないと…。


「コホン…。ではまじめな話に入りますね。

 先ず、この地をもっと豊かにしていきたいと思います。

 第一にすることは農業です。」

「農業((農業))?」

「はい。聞くところによれば食べ物は基本狩猟と採取だそうですね。

 それだと、多くの民に食べ物が行き届きません。

 ですので、種族の適性に合った食べ物を作ってもらいます。」


 執務室に置いた紙に種族と作物などを書いていく。


「こんな感じでどうでしょう。」

「ジュークさん、エルフとホビットは農耕に向きませんので、ゴブリン族やコボルト族でいけると思います。」

「うん。分かった。んじゃ、エルフさんには家畜を育ててもらおう。」

「家畜…ですか?」

「そう。エルフさんには森の中で基本生活しているから、フォウルを小屋で飼ってもらい卵と肉を作ってもらいましょう。

 あと、オークさんにはオーロックを、ケンタウロスさんかミノタウロスさんにワイルドボアを飼育してもらうという事でどうでしょうかね。」

「シメさん、なんでオークが牛で、ミノタウロスが豚なの?」

「えと、同属となる可能性もあるでしょ?“共食い”って言われないようにするために…。」

「魔獣は魔獣なんだけど、シメさんがそう考えるならいっか。」


変な気遣いをしてしまった…。


「取り合えず、これで食料問題は解決…かな?」

「食料は大丈夫ですが、今挙げられなかった種族は如何様にしましょうか。」

「リザードマンや竜人さん、オークさん、ミノタウロスさんは兵士にできるかな?アルルさん、部隊を作ることはできる?」

「カズ殿、問題は無いが、これだけだと歩兵ばかり集まるが、他の部隊はどうする?」

「そうだね…。適材適所もあるので、部族の中から選抜して弓や魔法といった部隊や、騎馬や飛行部隊なども作ると良いよね。」

「それでは、そのように触れを出すことにしよう。」

「それ以外の部族さんは、鍛冶や細工、裁縫などの技術を駆使できればいろんなものができると思うけど…。」


「シメさん…、すごい!シメさんが魔王になったらいいよ。

 ね、魔王になってよ。」


 イヤですよ…。何のスキルも無い者がなっても仕方ありません!


「お断りします。自分はまどかさんの補佐ができれば、それだけでいいんですよ。」

「うん…ん?それって私へのプロポーズって捉えていい?」

「あの…、まどかさん…、こんなおっさんにプロポーズされて嬉しいですか?」

「嬉しいよ! だって、初めてだもんね!」


 勘違いも甚だしいが、まどかさんが喜ぶ顔を見ているだけでおっさんは嬉しいよ。

その傍らで三将ズさんが『魔王様に春が来た!』だの『ようやく私たちにも…』なんてはしゃいでいるが、もう放置しておこう…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る