2-3 視察(ドワさん・ホビさんの蒸留酒づくり②)

「それじゃ、試しに蒸留酒を作ってみましょうか。」

「おう!」


出来上がった鍋に葡萄酒を目いっぱい居れて火をかける。


「良いですか?最初に蒸気が出てきたモノだけを集めます。

 温度が大切ですので、その温度を覚えてくださいね。」


葡萄酒がだんだんと良い香りを立てながら温まっていく。

そして、一瞬、この温度だ、というところで蒸気が出る。


「ここです。この温度です。」

「分かった!」


ドワさん、いきなり鍋に手を付けてるよ…。それにホビットさんは葡萄酒の中に手を入れ、温度を感じてる。


「よし、分かったぞ。」

「この温度で蒸気になったものが鍋蓋に集まり、そこにある管を通って、こちらの瓶に集まって来てますよね。」

「おう。」

「これが蒸留酒です。簡単でしょ。」

「この温度さえ分かればできるってもんか…。のうホビットの、この温度を一目瞭然で分かるものはできないかの?」

「であれば、水銀柱を入れると良いでしょうな。んで、この温度はここと。ここに来れば酒が美味くなると。」


おぉ!もう修正しているよ。

それに水銀柱があるんだ。であれば、体温計とかもできるじゃん。


「これを、そうですね。10台くらい作れませんか?」

「これだけ単純な構造であれば、すぐに出来るのぉ。」


よし、これで完成っと。


「それじゃ、試飲してみますか?」

「待ってましたぁ~!」


瓶に集まった酒はまだ少量だが、10人であれば一口くらいはあるだろう。

皆に配り終え、飲んでもらう。


「うぉ!こりゃ、美味いな。」

「きくー!」


「どうじゃ?蒸留酒の美味さが分かったかの?」

「へ、へい、魔王様。このような素晴らしいモノを私供が造らしてもらってもいいんですかい?」

「そのために主らに頼むのじゃ。精進せよ。」

「ははぁ~。」


再度、水〇のご老公様か…。


「ところで魔王様」

「なんじゃ?ジュークよ。」

「この酒を寝かすこともお勧めします。」

「なんじゃ、その寝かすというのは?」

「寝かすというのは、一定期間樽の中に置いておくという意味です。」

「ほう、葡萄酒と同じことをするのじゃな。」

「そうです。期間は3年というところでしょうか。」

「3年も寝かすのか?皆飲んでしまうぞ。」

「いえ、飲まずに放置しておくのですよ。ま、熟成とも言いますね。」

「あ、それであれば錬金の魔法で何とかなるぞ。

 これ、ドワーフの中に錬金が得意で熟成を使えるものはおらぬか?」

「あ、あっしが使えますが。」

「では、その瓶にある酒に熟成を3年かけてみるが良い。」

「3年もですか?酸っぱくなりませんか?」

「モノは試しじゃ、やってみい。」

「へい。では、・・・熟成! って、色が濁りましたが…。」

「その濁ったものを濾過して、飲んでみてください。」

「分かりました。では、っと。ん?なんじゃこりゃ~!美味すぎるぞ!」


「皆、分かったであろう。ジュークのいう事を聞けば、美味い酒がもっと美味くなるという事じゃ。」

「魔王様、ジューク様、おみそれいたしました。」


ふと思い立って尋ねてみる。


「みなさん、お願いがあるのですが。こういった道具を作ってくれませんか?」

 

紙に描いて見せる。


「ん?何じゃ、これは?」

「この部分を鋼で作ってもらい、この部分に棒を刺してください。長さはこれくらいで。

 そうですね、これとこれを各100本作って欲しいんですが。」

「これとこれで100ってことは200作ればいいんじゃな。

 であれば明日の朝までには作れるぞ。」

「ありがとうございます。では明朝取りに来ますね。」

「おう!待っとるぞ!」


まどかさんと俺は、ドワさんとホビさんの長にお礼を言い、籠に乗って城まで戻ることにした。長は今夜は宴を準備していたようで残念がったが、美味い酒を皆で飲んでほしいと伝えると、ニターと笑っていた。

よっぽど美味しかったんだろうな…。


城に帰る途中、まどかさんが尋ねてくる。


「シメさん、あれは何?」

「あれ?あぁ、ドワさんに作ってもらっているもの?

 あれはね、鍬と鍬だよ。両方とも畑仕事で使うモノだよ。」

「あ、聞いた事ある~。で、あれはどう使うの?」

「ん~説明するのが難しいから明日実演するね。」

「うん。楽しみ~!

 ふふ、なんかすごく楽しいよ。シメさんのおかげだよ。」

「ありがとね。でも良いの?レインさん居るよ。」

「レインちゃんなら大丈夫だよ。ね、レインちゃん。」

「はい、魔王様。口は堅いです。」


ホントかよ…。あなたが魔王様はなかなか人とお会いにならないって言ったんだよね?


「あ、そう言えば、200本も持って移動すると大変だよな…。

 リヤカーとか、カーゴとか必要かな?」

「あ、それならルナがとびっきりの魔法を持ってるよ。」

「魔法で持っていくの?」

「んと、収納魔法ね。空間と時間を操れるんだよ。ラノベだとマジックボックスとか言うかな?」

「何と?そんな魔法があるんだ…。って事は各部族に持たせれば、市の時身軽に来れるね。」

「あ、そうだね。流石ダーリ…、シメさん。目の付け所が違うね。

 それじゃ、ルナに頼んでそれ用の鞄を一杯作ってもらおうよ。」


そんな話をしながら城に到着する。


「お帰りなさいませ。どうでしたか?」


迎えに来たルナさんに結果とマジックボックスの事を伝える。


「それは良いアイディアです。早速作ります。」


ルナさんも張り切ってるね。

皆生き生きとしている。


「さて、ダ…シメさん、少し時間ができたから、何しようか?」

「そう言えば、料理だけど、料理人のヒトがいるの?」

「いるよ。美味しいでしょ?」

「美味しいけど、日本食とかも食べたくならない?」

「そりゃ、食べたいけど…。」

「じゃ、俺が作ってあげようか?」

「え!良いの!やったー!で、何作ってくれるの?」

「材料見ないと分かんないけど…。」

「それじゃ、厨房に行こう!」


まどかさんが俺の手を取って歩き始める。


「なんかデートみたいだね。」

「それを言うなら、若い女性に手を引かれて横断歩道を渡る老人ってところかな。」

「ははは。シメさんって自虐ネタ好きだね~。

 って、ここが厨房だよ。おばちゃん居る~?」

「はいはい。こりゃ、マドゥーカ様じゃないかい。どうしたんだい?こんな早くに。

 さては、お腹が減っておやつ貰いに来たんだね。」

「いや、今日はそんなことないよ。

 今晩の料理だけど、ダーリンが作ってくれるんだよ。」

「ダーリン?おや、昨日のおいちゃんじゃないかい?

 ってダーリンって、マドゥーカ様の旦那様って事かい?」

「そうだよ。昨日結婚したんだよ。」

「そりゃ、おめでとうだね。よかったね~。」


このおばちゃん、多分、これまでのまどかさんの愚痴の聞き役だったんだろう…。

そうでなければ、まどかさんがこれほどまでにため口にならない。


「料理人さん、シメと申します。

 この度は縁あって、まどかさんと結婚することとなりました。

 以後、よろしくお願いします。」

「堅い話は抜きにして、で、シメさんは何を作ってくれるんだい?」

「材料拝見させてもらっても良いですか?」

「あぁ、好きに使ってくれて良いよ。」


材料を見ていく。

これは鶏肉というかフォウルの肉、卵もある。野菜は生姜、ニンニク、玉葱、キャベツ…。いっぱいあるね。

小麦粉もあるのか…。米は無いんだろうか…。


「料理人さん、大麦はあるんだけど、米ってある?」

「米って何だい?」

「こんな形で大きさはこれくらいなんだけど。」

「もしかして、家畜の餌かい?」

「へ?そんなの家畜が食べてるの?って、家畜っているの?」

「少ないけど居る事は居るよ。卵が欲しいから、城でも飼ってるけど…。

 餌、見に行くかい?」

「えぇ。それじゃ、お言葉に甘えて。」


料理人さんに連れられて、城の裏庭にあるフォウルの小屋まで行く。


「これがフォウルの餌だよ。」


ズタ袋の中を見せてくれる…。

あるじゃんか!それに大麦まであるよ。

こんな高価な餌食ってるんだ。


「これ、少しもらってもいいかな?」

「あんた、これ食う気かい?

 よしとくれよ。こんなの食べたらお腹壊すよ。」

「まぁ、モノは試しだよ。」


 その穀物を5合くらいもらい厨房に戻っていく。

何故か鼻歌を歌っていた。

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