1-12 ついでのついでに…
「ふ~ん…。シメさん…、良い事あったんだ…。」
まどかさんがジト目で見てくる。
「いい事なんてありませんよ…。
風呂でぶっ倒れて、助けられて…、おまけに…ゴニョゴニョ…。」
「でもチューされたんだもんね。
それだけ、私たちも待ち望んでいた事なんだよ。
それに見てよ!この髪!サラッサラだよ。
キューティクルが光ってるんだ!
こんなの数十年ぶりだよ!」
まどかさんのテンションが高い。
夕食は2人ではなく、三将ズも一緒に座ってもらう。
一応、食事の間はお茶でも飲んでもらっているのだが、なかなか気が休まらないんだよ。
4人の美女に囲まれて食事なんて羨ましい…、と思うかもしれないが、免疫のないおっさんには精神的に来るんだよね…。
「で、シメさん、明日からだけど、いろんな種族が来るからびっくりしないでね。」
「今日ほどびっくりはしませんよ…。」
「あはは、そうかもね。あ…、そう言えば気難しい種族もいるからなぁ…。」
気難しいとは何ぞや?
まどかさんにそんな事してくる輩が居るのだろうか…。
少し怪訝そうな顔をしているのを見て、まどかさんが言う。
「わたしにね、早く婿養子をって言って来る種族がいるんだよね。」
「へぇ、そりゃ凄いですね。」
「でも、興味ないもん。」
「因みにどんな種族なんですか?」
「んと、竜人族とオーク、ドワーフにエルフ…、あ、みんなか?あはは。」
こりゃ前途多難だわ。
「あ、いい事思いついた!
シメさんがあたしの旦那様になってくれればいいんだよ。」
「へ?何言ってるんですか?」
「そうすれば、婿養子にって言って来なくなるよね。」
「でも、その種族からは『魔王の伴侶たる者、強くなければならぬ!』とか言って決闘とかは嫌ですよ。第一、そんな戦闘力なんて持ってませんからね。」
「そこはシメさんの力を。」
「だから力なんて無いんですって。」
「じゃぁ、あいつらを手なずければ良いんじゃない?」
「餌でもあげるんですか?」
「あ、それ良い案。なんかいいモノあるかな~。」
まどかさん…、天然だわ。
しかし、種族ごとに勝てるものなんて持ってない。
何事もほどほどでしか生きてきてないから、何も無いんだよ。
グラスに入った飲み物を一口飲んで、口を潤す。
「ん?これワインですか?」
「そそ。こちらじゃ葡萄酒とか果実酒って言ってるけどね。」
「甘くて飲みやすいですね。」
「そうなんだよね~。私たちは好きなんだけど、ドワーフとかは『甘い酒が飲めるか!』なんて言って、エールばっかり飲んでるよね。」
「エールって?」
「うんと…、気の抜けたビールって感じかな?
でも、私ビールって飲んだこと無いから分からないけどね。」
葡萄酒がある、エールもある…か。
それじゃ、蒸留すればもっとアルコール度の高い酒が出来るわけじゃん。
「まどかさん、餌ができたかもしれません。
先ほどの研究室をお借りしてもいいですか?それと葡萄酒とエールをいただきたいんですが…。」
「ん?別に良いよ。それじゃターニャに任せればいいかな?
出来上がったら教えてね。今度は最初から私が試すからね!」
釘を刺されたよ…。
食事も早々に葡萄酒とエールをしこまた持って、ターニャさんと研究室に行く。
「カズさん、こんなに大量のお酒をもって何をお作りになるんですか?」
「えと、蒸留酒。」
「それは何でしょうか?」
「簡単に言えば、ここにあるお酒を温めて、アルコール分だけを取り出してお酒にするって事だよ。」
「そんな事できるんですか?」
「そのために、ターニャがいるんだよ!」
「へ?は、はい!精一杯頑張ります!」
「あ、頑張らなくていいからね。踏ん張って!」
鍋とかガラス器具とか一通りの研究器材はあるな。
んじゃ、鍋に葡萄酒を入れてっと。
「ターニャ、よく見ててね。アルコールと水って沸騰する温度が違うんだ。
この鍋に入ったお酒はダメにしちゃうけど、一度見ててね。」
「はい!」
鍋に入れた葡萄酒を火にかけると、次第に温まり、そのうち最初の湯気が出る。
「これがアルコールが沸騰した温度だよ。」
その後、いったん落ち着きぐつぐつと沸騰する。
「で、これが水が沸騰した温度ね。
先に湯気が出た時の湯気、あ、蒸気ね。これを集めて再度液体に戻すとアルコールの高い水分となるって事だけど…理解できた?」
「いいえ。全然。」
「だよね…。ま、物は試しだからもう一度作ってみようか。」
新しい葡萄酒を鍋に入れて、もう一度温める。
蒸気が出始める。これを鍋の上にガラスの皿のようなものを斜めにおいて蒸気を集めて隣の瓶に集める。
もっと効率的なものを作れば大量にできるのだが、それは今後の課題だ。
「カズさん、あれだけあったお酒がこれだけになるんですか?」
「そうなんだよね。蒸留酒を作る時は10分の1くらいになるって覚悟しておかないと、がっかりするんだよね。
でも、これをなめてみれば分かるよ。」
蒸気を冷やして液体となったモノを少しだけターニャさんに渡す。
「これをなめれば良いのですか?」
「うん。試作だからね。
早く舐めないと、まどかさんが来ちゃうよ~。」
「それはいけません。では…、うわ!何ですか、これは?」
「アルコール度の高い飲み物ね。
余りのみ過ぎると、ハングオーバーするから気を付けてね。」
「ハングオーバーとは何ですか?」
「二日酔いって分かる?」
「いいえ。」
「翌日までお酒が残って、頭が痛くなったりすることだよ。
そこまで飲んじゃうと大変だから、ほどほどにね。」
何度も何度も作る。
そして、葡萄酒十本分を蒸留し1本弱のお酒と、エール1樽分を蒸留し5本弱のお酒を造り終えた。
「まぁ、こんなもんかな。
これを効率的に蒸留できる器材を作ってくれる種族となると…。」
「ドワーフとホビットですね。」
「んじゃ、明日、そのヒト達に飲んでもらって器材を作ってもらおうよ。」
「はい!」
ターニャさんがニコニコ笑っている。
うん。可愛いね。
「シメさ~ん、出来た?」
「あ、まどかさん、今できたところですよ。」
「それじゃ、早速試してみましょうか?」
「あまり、飲み過ぎると二日酔いになりますから、今日はショットグラス一杯にしてくださいね。」
「大丈夫だよ~。これでも成人は越えてるからね。」
・
・
・
「シメさ~ん…、もう一杯だけ、ね!」
「ダメです!」
「カズ殿は魔王様に厳しすぎます!そんなんじゃ魔王様に嫌われてしまいますぞ。」
「ジュークさん…、とっても気持ちいいんれすけど…」
「あはは、カズさん見て!みんな飛んでる~」
絡み酒に説教、酒乱…。ヤバいモノを作ってしまったと後悔した…。
「もう、皆さん、今日は店じまいです。
自分の部屋に戻って、寝てください!」
「ひゃーい。」
三将ズは皆、千鳥足で戻っていく。
たった一杯だぞ?どれくらいのアルコール度なんだ?もしくは毒か?
ため息をつきながら、椅子に腰かける…。
が、視線を感じる…。
振り返ると、まどかさんが頬杖をつきながら俺を見つめている。
「うぉ!まどかさん、まだいらしてたんですか?」
「居るよ~、居ちゃマズい?」
「マズくは無いですが、皆部屋に戻りましたよ。」
「うん…。」
まどかさん、どうした?
「シメさんって、凄いんだね。」
「何が凄いんですか?」
「だって、下着は作っちゃうし、お風呂は使えるようにしてくれるし、石鹸もシャンプーもリンスも作っちゃうでしょ、それにお酒もすぐにアップグレードしちゃうし…。
もしかして、シメさんのようなヒトを賢者って呼ぶのかなって思ってね。」
「まどかさん、何言ってるんですか?
賢者はまどかさんであり、魔王であり…。あ、そう言えば賢者って何ですか?」
「よく分かんないんだよね。
あたしってさ、賢者って言われてもピンと来ないし…。そんなに知識も無いし。
あ、魔法は放てるよ。でも、それだけだもん…。
それよりも、今日一日見てて、シメさんの方が賢者らしいって思ってね。」
自己嫌悪か…。
「まぁ、“亀の甲より年の功”ですよ。」
「何?それ?」
「齢食ってる人は、それだけ知識があるって事です。」
「そうなんだ…。」
まどかさんが目を伏せた…。
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