1-13 Will you marry me?
「あたしってさ、中学生の頃にここに来たわけだよね…。
それから、魔王を倒して、ここに残って数十年…、何やってたのかなぁ…。」
まどかさんが涙ぐんでいる。
完全に泣き上戸だ…。でも、確か一口だけしか飲んでないと思うが…。
「まどかさん…、酔ってます?」
「ん?酔ってなんかないよ。
自己嫌悪に陥ってるだけ…。
だってさ、ここに来て数十年だよ。その間、書物とかで知識はあってもそれを実践することなんてしなかったし、それにこの世界と前の世界とでは価値観も考え方も違うし…。
頭が混乱したことも何度もあって、全部投げ出したかった事もあったんだよ。」
「でも、投げ出さなかった…。その理由は?」
「アルルやルナやターニャが居てくれた…。
彼女たちが生き生きと生活している姿を見たかった。それだけかな。」
「それで十分じゃないですか?」
「でもさ…、シメさんが来てくれて、今日一日ですごく変わったのは確かだよ。」
「それを言うなら、まどかさんがここに残ってくれて数十年平和だったという事の方が大きいですよ。」
「え、そうなの?」
「生活の変化なんて、きっかけさえあれば誰にでも出来るんですよ。
でも、長い期間平和であり続ける事の方が、何万倍も大変な事なんです。
平和ボケしている日本じゃ、考えられないことですが、世界では戦争や紛争がたくさんあるじゃないですか?それが無いという事は、素晴らしい事なんですよ。
それに…」
「それに?」
「…まどかさんがこの国を守ってくれるからこそ、俺はお手伝いをしている訳で…。」
「え?もう一回言って!」
「だから…、まどかさんが居なかったら、この国を助けることはしていなかったと思います。」
「ありがとね…。シメさん…。
それに、シメさんの一人称が“自分”から“俺”に変わったって事は心の変化があったって事だよね。
って事は、あたしに惚れたって事でいいのかな?かな?」
キラキラした眼を俺に向ける。
やはり、まどかさんはまどかさんだ…。
「はいはい。そう言う事にしておきましょうね。」
「え~、ちゃんと言ってよ~。ね、ね、あたしに惚れた?」
ホント困ったちゃんだ。
でも、中学生の時にこの世界に来て、それから数年後に立った一人で守って来たんだ。
彼女は強い子なんだよな。
「はい。惚れましたよ。それに、まどかさんの生き方、考え方に尊敬してますよ。」
「やったー!これで独り者って言われないぞ!
じゃ、シメさん、すぐに結婚しよ!」
うぉい!いきなり何すっ飛んでんだ?
「まどかさん、いいですか。まず考えてみましょうね。
俺は53歳、まどかさんはどう見ても20代、このギャップをどうしますか?」
「はぁ?シメさん、何言ってるの?
シメさんは53歳だけど、あたしそれよりも上だよ。」
あ、そうだった…。
「じゃぁ、見た目で。」
「そんなの関係なーい!あたしナイスミドルな叔父様大好きだもん。」
「スキル…」
「無だよね。」
論破できない…。
でも、まどかさんと今日一日居て、彼女の笑顔を見て生きていきたいと思っている。
「はぁ、まどかさん…、俺はどうもまどかさんの事が好きになっているようです。
でも、結婚はもう少し先にしましょうよ。」
「具体的には?」
「うんと…、具体的な案は持っていません…。」
「んじゃ、却下~という事で、明日結婚ね。」
なんだか、まどかさんの術中にハマった感じだが、悪い気がしない。
妥協もしていない。真剣にまどかさんを笑顔にさせたいと感じている。
「分かりました。いいですよ。」
「うぉ!シメさんが納得してくれた?
これは何かあるのかな?かな?」
「何もないですよ。それに…、これからもまどかさんが笑顔でいられるよう、いろいろとしますよ。」
「うん。ありがとね。シメさん…。
実を言うとね…、シメさんを見た時から、何というか…ここに温かいものが流れ込んでくるんだよね。」
まどかさんは自分の胸を押さえる。
「同属だとか、転移者同士だからってシンパシーだと思ってたけど、でもシメさんと話していると、自分を出せるんだよ。それに、シメさんと一緒にこれから一緒に生きていきたいって思うよ。」
うぉ!いきなり男が告白する時の言葉を言ってしまったぞ…。
そうしたら男は何も言えなくなるじゃないか…。
「はは。俺が言うべき事、全部言われちゃったね。」
「うふふ、言ったもん勝ちだよね。」
「それじゃ、まどかさん、明日は早いから休んでくださいね。」
「へ?シメさん、何言ってるの?一緒に寝るんだよ。」
「は?いきなり結婚って…、あ、夫婦だからか?」
「そうだよ~。夜はあんな事やこんな事もするんだよ~。」
おっさん、ドン引き…。
「おっさんだから、体力無いよ…。」
「いいよ~ん。あたしだって初めてだし…。
ね、やさしくし・て・ね!ダーリン!」
顔からマグマが溢れたよ…。
そして、年甲斐も無く鼻血まで…。
・
・
・
久しぶりなので、何が正解なのかは分からないが、まどかさんが痛くないようにしたつもりだけど…。
当のまどかさんは俺の左胸で寝息を立てている。
魔王になって数十年、彼女も心細かったんだろう…。
でも、それは単なるシンパシーではなく、まどかさんへの愛だと感じる。
ここだけの話、彼女と会い一目見て、俺も電気が走ったもんな…。
まどかさんの頭を撫でる。
眠そうな目を開け、恥ずかしそうに笑う。
「シメさん、ありがとね。」
「こちらこそ。痛くなかった?」
「痛いと思ったのは最初だけだったよ。その後は、なんだか温かかった。」
「はは。なんだか照れるね。」
「あたしね、ここで何も無くて一人で死ぬのかな~って思ってた…。
でも、シメさんが来てくれた。もう離さないからね!」
「また、男が言うセリフを先に言うんだね。」
「あ、そか。こういう時は男性が女性をエスケープするところなんだよね。」
「エスケープ? あ、エスコートね。」
「そそ。それとね、シメさん。あたしに一杯いろんな事教えてね。」
「いいよ。俺が知っていることであればね。」
「じゃ、知らないことは?」
「一緒に考えて行こう。」
「うん!それじゃ、も一回いっとく?」
「へ?俺にそんな体力あると思う?」
「大丈夫だよ~。今度はあたしが…ね?」
確か初めてだと思うが…、何故にそんなに元気なんだ?
・
・
・
もう真っ白です…。
まどかさん…元気印…。53歳踏ん張ったけど無理です…。
まどかさんはと言うと、にへら~と笑いながら寝ている。
うん!可愛い!
俺も少し寝よう…。
翌朝、城中が浮足立った…。
何せ数十年シングルで過ごしてきた魔王様にいきなり旦那さんができたという事で魔国中にお触れを出そうという流れになっている。
そんな事したら、勇者を召喚したリルクアが黙っていないだろう、という事で内輪だけが知ることとなる。
当面、俺は魔王様の相談役兼内政担当という事で皆に知らせることとなった。
「なんだ、面白くない~。皆の前でシメさんをダーリンって呼びたかったのに~。」
「それは勇者が居なくなってからで。」
「むー、仕方がないね。でも、相談役なんだから、いつも一緒にいてね。」
「おっさんなので、トイレは頻繁に行きますが…。」
「んじゃ、トイレの時は我慢する…。」
アルルさん、ルナさん、ターニャさんが微笑んでいる。
「魔王様、おめでとうございます。
これで魔国も安泰ですね。」
「うん!ありがとね!みんなも良い人見つけてね!」
ターニャさんが少し顔を曇らせる。
そして、意を決したかのように口を開いた。
「魔王様、私もカズさんの事が…。」
「うん。知ってるよ。」
「でも、カズさんは魔王様の旦那様であり…」
「ターニャはカズさんの事が好きなんでしょ?
それじゃ、ターニャは第二夫人だね。」
へ?まどかさん、一体何を言い出してるんだ?
「だって、ターニャはシメさんの命を救ってくれたからね。
だからターニャには感謝しているんだ。
一緒にシメさんを愛していこうね!」
「は、はい!魔王様、ありがとうございます!」
「ま、魔王様、それはズルいです…。カズ殿を2人で…。」
「私もです!断じて許しません!」
「んーー、んじゃ、シメさんさえ良ければアルルとルナとターニャの3人まとめて奥さんにしてもらおうか?」
「へ?まどかさん、今なんて?」
「だから、4人まとめて奥さんにしてね!って事。」
思考回路が止まった…。
「一夫多妻制ですか?」
「そそ。この世界では当たり前の事ね。」
そうなんだ…。
「俺、おっさんですよ?」
「あ、それなら問題なーし!アルルもルナもターニャも私よりも齢いってるからね。
という事でお願いね!ダーリン!」
何故か分からんが、一日で4人の妻ができた。
これは嬉しいことなのだろうか…。
それとも茨の道を素っ裸で走っていけ!という暗示なのだろうか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます