2-14 真砂土舗装とジレ

「まどかさん、執務室で魔王様に謁見する場合もあると思うのですが?」

「ん?もう無いよ。

 だって、ダーリンが最初で最後だもん。だから、この部屋はあたしとダーリンだけで仕事ができる部屋なんだよ。」

「ま、その方が効率的ではありますね。」

「でしょ~。

 で、ダーリンがここに来たってことは、寝室を見に来たの?」


まだ昨日のお花畑状態が残っているのか…。


「いえ、先ほど各種族の方がお見えになられ、レインさんが種族の集落の位置を地図に落としてくれましたので…。」

「うわ、凄いね。

 あたしが面倒臭くなってやってなかった事をやってくれたんだね。

 ダーリン、愛してる!チュッ。」

「まどかさん、ありがとね。

 でね、これが今日来た種族と前に行った種族との位置関係ね。」

「ふぅーん。みんなバラバラなところに住んでるんだね。」

「それに森の中、山の中、まちまちですね。」

「で、ダーリンはこれを見て何を考えているのかな?かな?」


 ごめん。何も考えてなかった…。


「うん…、正直これだけ離れていると、どう対処してよいか分からないんだよね。」

「そだね。そう言えばダーリンが言ってた街を作るってのはどの辺に作るの?」


 そうだった…。

街作って、そこを勇者の防衛拠点にするんだった…。


「勇者の国が南だから、移動はこの道を通って来るんだよね。」

「飛んでは来ないと思うから、多分そうだよ。」

「それだと、この位置とこの位置に街があれば、少しは防衛拠点になるんじゃない?

 それに、この位置だとこの周辺の種族が集まってくれるし、こっちはこの種族たちかな?

 まぁ、住む場所は自由だから、どこでも良いんだけどね。」

「うん。じゃぁそうしよう!

 あ、城に来てもらったヒト達の最初の仕事として、種族に通知を出してみようか。」

「でも、結構離れている種族も居るけど、移動に時間がかからない?」

「大丈夫だよ。そんな時はハーピーを使うといいよ。

 彼らは飛ぶのが速いから、すぐ種族の集落まで着いちゃうよ。」

「そうなんだ…。じゃ、あとは街の建設と道路の舗装だね。

 土の舗装だと雨が降ったらグチャグチャになってしまうからね。」

「ん?舗装って、アスファルトとか?」

「まどかさん、アスファルトってよく知ってるね。」

「うん。昔、交通安全教室で道路の構造を教えてもらったから。」


どんな授業だったんだ?

何故に交通安全教室で道路舗装の構造を?


「あ、車にぶつかった後、アスファルトに転がるでしょ。んで、アスファルトがどれくらい固いかって教えてもらったんだよ。」


 なんか凄い交通安全教室だ。

俺も教えてもらいたいよ。


「流石にアスファルトはできないね。多分石油が使われていると思うから。」

「石油かぁ…、そうだよね。あれがあるといろんなモノできるもんね。」

「だから、アスファルトに変わるもので舗装できないかと思ってね。」

「ダーリン、何か案はあるの?」

「うん。まだ案だけど、モルタルとかはセメントに砂混ぜるでしょ?

 もし、セメントに土混ぜたらどうなるのかな、って思ってね。」

「あ、土が固くなるって感じだね。

 それ、いいねぇ~。早速テストしてみよっか?」


 棟を下り、モルタルの出来栄えを確認しつつアルルさんの所まで行く。


「ダーリン、モルタルって完璧じゃん。すごく良いよ!

 これだと、土を混ぜたらすごく固い道が出来るんじゃない?」

「そのテストを城の中の通路でやってみようね。

 あ、アルルさーん!」


アルルさんと合流し、屈強な歩兵を集めようとしたが、鍛錬の一環だということで、歩兵全員が集まった。


「皆、これは鍛錬である。土を掘り、この粉と混ぜ合わせ水を加える。

 混ぜる時には腕力が必要だし、これを移動させるには力も必要である。

 さて、誰がこの鍛錬をクリアできるかな?」


 アルルさんに煽られて、歩兵全員が鍛錬?を始める。

最初は平気な顔をしているが、水が混ざると途端に重くなる。

皆汗だくで鍛錬を始めた。


 出来上がったものを城の通路にはっていく。

ホビット族の大工さんの仕事だ。

もちろん左官用の鏝(こて)を使って綺麗にしてる。

さすが玄人、巧の域だね。


 そこにターニャさんが現れたので、砲台部隊の魔法職をここに呼び、ホビさんがはった部分に風と火魔法を使った乾燥と焼きを入れていく。


「これは凄いね。」

「どんどん完成していきますね。」

「これで雨の日もぐちゃぐちゃにならないよね。」


 いや、多少はなると思うが…。


「ダーリ…、コホン、ジュークよ。

 この素材を使って、魔国の道路を整備してもらえぬだろうか。」

「は、ただちにかかります。

 が、一点問題がございます。」

「なんじゃ?」

「道路占用に種族を呼ぶ時間がございません。」

「何、案ずるな。の、アルルよ。」

「はい。こんな鍛錬ができる仕事なんてありません。

 この仕事は我ら兵士がやらせていただきます。

 のう、指揮官。これは筋力が付くのではないか?」

「仰るとおりです。槍を持つ者であれば、腰に力を入れる事で威力が増しますね。」

「そうか、では道の整備は我ら兵士がやろう。

 それに城の中ではないので、ホビット族にすべてやってもらう必要もないしな。」


「アルル将軍、では頼むぞ。

 場所については、追って連絡する。」

「は!」


思い出したので伝えておく。


「皆さん、城の改修が明日か明後日にできます。

 その日はパーティーを行いますので、皆さん参加してくださいね。」

「なんと?我々のような兵士までパーティーに参加しても良いのか?」

「もちろんですよ。婚活…、そのためのパーティーですからね。

 あ、着る服は如何しますか?」


「そうじゃの。では明日までに兵士と分かる上着、事務官と分かる上着を準備するとしようかの。」


ん?どんな上着なんだ?

まどかさんは何をイメージしているのだろうか?


 兵士さんが城の中の通路を直していくのを横目に、まどかさん、ターニャさんと一緒に本館の執務室に向かう。

 その道すがら、まどかさんが独り言ちしている。


「どうしよ…、どうしよ…。」

「ん?まどかさん、どうしました?」

「ダーリン、助けて~。さっきみんなに上着をって言っちゃったけど、何百名もいるんだよ。そんなの作るの無理だよ~。」


 ま、そうだよね…。

俺もそう思うよ…。でも、魔王様に泥を塗ることはできないよね。

なら、いろいろ考える必要があるよね。


「それじゃ、まどかさんあと2日でできるモノを考えましょうよ。」

「やっぱり、あたしのダーリンだぁ~。愛してる~!」


って、ヒトのいるところで抱き着いちゃマズいでしょ。


「何か無いかな…。」


これまでの知識と記憶を総動員する。

簡単に数百枚が作れてカッコいいもの…。

ヒトが集まった時目立つモノ…。

お遊戯会、運動会、音楽会、入学式、卒業式…といろいろと場面を思い浮かべていく。

体操服、鼓笛隊の服、学ラン、セーラー服、ブレザー…。

あ、袖のいらないベストなら簡単か?その丈を長くすればコートみたいにも見える。


「まどかさん、ベストの丈が長いのって何て言ったっけ?」

「ん?ロングベスト?」

「そうとも言うけど、なんだったかなぁ…。コートみたいに長いやつなんだけど…。」


 単語が出てこないよ…。

齢取るといかん…。

それに”あれ”だよ“あれ”で通じちゃうんだけど。


「ジレの事?」

「うん。そんな名前だったと思う。

 それなら、前身頃と後身頃の3枚を縫い合わせるだけだから、簡単じゃない?」


 ジレって言うんだ…。俺シラナカッタヨ。


「あ、ダーリン、さっすがぁ~!

 やっぱり、あたしのダーリンだね。今晩サービスしちゃう!」


 それは…ちょっと嬉しい…。


「その件は置いといて、早速工房に行って、事務官用200、兵士用300を作ってもらいましょう!」

「はーい!」


 なんだか、まどかさん…ウキウキ状態だね。

まぁ、良い方向に進んだからいいか。

それに良い服を着なくても、その服を羽織るだけで問題はないよね。

取り合えず、型紙を作っておいた。


「これは魔王様、このような工房にお越しいただき…」

「能書きは良い。

 ぬしたちとアラクネたちにこういったモノを作って欲しいんじゃが。」

「これは?」

「ジレじゃ!」

「このような服を着るのですか?」

「そうじゃ、この服を魔国の統一服とするのじゃ!

 その為にも、先ずは城で働く者に渡したいのじゃ。」


げ!いつの間にそんなデカい話になっていったんだ?

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