第25話 味方との合流
この人は……きっと本気でそういっている。この大雨だ、二人ならば気づかれても闇に紛れて逃げることも可能だろう。だが十人ともなればそうはいかん、気づかれていない状態で離脱をせねば。
「よいか准尉、貴官は貴官の正義を貫け。私はここに残る、これは命令だ、部隊を連れて撤退を行え!」
ここに全員残れと言うよりもどれだけ辛い命令だろうか。
「……了解しました。隊長代行デグレチャフ准尉、これより基地への撤退を指揮します」
「うむ、頼んだぞ准尉。基地で再会しよう」
互いに敬礼を交わす、これが最期などではないと強く信じて。こんなのが軍の日常だと言うのか、私はなんと無力なのだ!
「隊長代行、進路を南東にとりハイベルク方面から渡河をしますが宜しいでしょうか」
ハイベルクというと基地があったところの南側だったな。帰着は明日の昼頃になるだろうが、それはさして重要ではない。
「そうするぞ、曹長が先頭を行け。伍長は最後尾だ、分隊進め」
迷いを見せてはいかん、私が動揺をすれば部下も不安を感じ取る。雨中の行軍をすること二時間程、無線が突如受信した。
「こちら第六偵察部隊、ハイベルク西一キロ地点で敵に包囲を受けている。至急増援を願う! 頼む、誰か助けてくれ!」
ふと皆がこちらを見た、どうするつもりなのかと。
「第六偵察部隊は最南端の担当だったな。ハイベルク西一キロならば近い。曹長どうだ」
「それならば河のこちら岸でしょう。林が生い茂っている場所に居ると思われます」
行き先に敵が集まってきているわけか、これ以上の迂回は事実上困難だな。それにこの悪天候だ、綺麗に連携もとれまい。敵味方の把握が困難ならば、離脱側に有利と言えるぞ。
「中尉ならば味方を見捨てて逃げたりはすまい、そうは思わんか」
「救援に向かうおつもりですか」
こちらをじっと見つめて、あたかも正気かを問うようにだ。どちらをとっても不満が残るならば、私は先人の勇気に敬意を持ち味方を擁護する! 何よりこれで味方を救出でもしようものなら、恐らくは査定は最高になる。苦労の程を鑑みれば、生き残りは一人でも構わんが、数が多ければ戦力にもなるからどちらでもよかろう。
「無論だ、味方の窮地を知らぬふりをして通り過ぎるような者に、誰が付き従うものか! 分隊戦闘準備!」
「隊長代行、あんた狂ってるぜ。多少銃の腕が良い位で何とかなると本気で思ってんのか?」
ほう伍長はどうやら正気のようだな、結構なことだ。こういった声が上がる方が、部隊は生き残れる確率が上がるものだ。
「冷静だな伍長。私とてそれで全てが上手く行くなどと考えてはいない。出会う者ことごとくが敵、ならばこそ活路を見いだせるものと信じている」
妙に確信じみた台詞を堂々と公言すると、伍長は顔をしかめる。
「これだからガキは嫌いなんだよ。俺は大人だ、だから上官の指揮には従うが、あんたのことは大嫌いだってことをよーく覚えておけ! お前達、銃弾の確認をして着剣しろ、出会い頭の白兵戦になるぞ!」
ふん、命令にさえ従うならばそれでいい。私だってお前は好きではないが大切な人的資源だ、無駄遣いをするつもりはない。
「将校などというものは疎まれてなんぼだ、褒められたと受け取っておこう。喜べ分隊諸君、貴官らは絶望の淵にある友軍を救った英雄になる、またとない機会を得た。これより先は止まりはせんぞ、いざ我等が帝国の為に進め!」
ごつごつとした岩場を木々に隠れながら森林地帯を目指す。散発的な銃声が耳に入って来た。いよいよ指呼の点だ、もうコソコソ隠れることもあるまい。
「曹長、無線封鎖解除。友軍に通達、信号弾を撃ち上げろと送れ!」
「了解。こちら第四偵察部隊、これより第六偵察部隊の救援に向かう。信号弾を撃ち上げ現地点を報せろ」
恐らくは、いや確実にこちらの通信は筒抜けになる。だが既に包囲を受けている第六の位置が敵に漏れたからと不利益はない、我々の存在を知られるのは仕方あるまい。他の小隊と同規模とでも誤認してくれるのを祈っておくとしよう。
「隊長代行、信号弾を発見しました!」
指さす先に煙が舞っている、近いな! 目測八百メートル、どれだけ敵が居るかは知らんがやることは決まっている。
「よし、合流するぞ。続け!」
敵味方混在ならば砲兵からの攻撃はない、上空を見ても魔導師は上がっていない、ならば私が負ける可能性は極めて低い。勇気を示したとの評価を受けられるならば安いものだ!
「隊長代行、お一人で突出するのは危険です!」
「曹長、私の被弾面積は貴官らに比べ小さい。ならば先行するのが効率的だろう?」
走りながら信号弾の煙を確認する、風で流されてはいるが近づいている。銃声もまた大きくなってきた、敵は何処にいるか! 後方から発砲音が聞こえる。チラッと見ると伍長が撃っていた。
「二時の方向、共和国兵確認、減一」
「一番やりは伍長に取られてしまったな、まあ良い、その位譲ってやらねば欲張りだと言われてしまうからな。曹長、通信だ」
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