第7話 それって未来の啓示か
「……もしかして、言わないとダメな感じだったりします?」
笑ってごまかすのもこのあたりが限界だぞ。いいよいいよと言ってやりたいが、そうもいかんのだ。
「無理に暴露しろという意味ではない。一人で抱えるのが大変ならというだけだ」
床に視線を落としてから、チラッとこちらを見て、膝の上に手をやってぎゅっと握る。待つさ、いくらでもな。
「私が幼年学校から転籍してきたって聞いていますか?」
「ああ、規定外の異常だが、そう聞いているな」
「ですよね、それ、嘘ですから」
ほ、ほほう。私のように直接入校したということでもいいのに、わざわざ嘘を織り込むとはどういうことだ? そうしなければならない理由か。
「……すでに別の軍関係機関に所属していた?」
「すごい、なんでわかるんですか!」
「汚い大人のやりかたは、色々と知っているものでな」
本当に隠したいことの為に嘘で塗り固める、時代も国も違っても、そういうところは同じなんだな。
「実はずっと帝国開発部のエレニウム工廠に居たんです」
「開発部の工廠にだと?」
技術開発部は研究部門だ、そこに子供が居たとなれば怪しげな実験しか思いつかんぞ。そのうえでエレニウム工廠ならば魔導関連、とするとアリアスの違和感はそれか。
宝珠は大量生産品で私のと同じ普通の支給品だ、ならば運用が違うことになる。自分自身が強化されるならばこんな回りくどいことをせずに、テストだと兵士に装備させればよいだけだ。ということは。
「そこのシューゲル主任技師ってば、随分と奇抜な性格の人なんですよ。ふふ。実験が成功したらとても喜んでくれるんです」
「きっとロクな奴じゃないぞそいつは。これは私の勘だ、きっと当たっている」
なぜだ、妙に猜疑心が活発になったのは。
「どうでしょう。ここに転籍してきたのは、実験の一環なんです」
「……指揮能力の向上実験か?」
「えっ! どうして知ってるんですか? ターニャお姉さまも、もしかして同じ実験を?」
そこまでベラベラ喋っても大丈夫なのか? 私が他言しないように心がけておくべきだな。
「全然。そう感じただけだ。どうせ厄介な条件があって、実戦では使えないものなのだろう。でなきゃアリアスがこんな風にする必要が無いからな」
「ははは、実はですね、私より強い人しか指揮出来ないんですよ。これ、すごい矛盾した能力だと思いませんか?」
最弱の指揮官であれということか、どこにそんな需要があるのだ。馬鹿げている、信じられん。ちなみに逆だとしたら、世界中が欲することになるんだろうな。
「さながら乙女の祈りか。使いどころ次第では、出番はそれなりにありそうなものだ」
「乙女の祈りですか、何だかロマンチックな響きですね!」
「それは忘れろ。こちらから振っておいてアレだが、機密はしゃべるものではないぞ。今の事は誰にも明かさないので安心してくれ」
危うく黒歴史を刻むところだった。しかし、代理で指揮をするなどの状況になったり、名目上の指揮官になるならば有益ではある。適用される範囲や許容される影響力がどこか、というデータ収集でもしているのかも知れないな。
「じゃあ口止め料をお支払いしますね!」
ベッドから降りてこちらにやって来るが、その瞳はじっこちらを見詰めている。無遠慮に距離を詰めて来ると、そのまま抱き着いて来る。
「ちょ、何をするか」
「口止め料ですよ、身体で払おうかなって」
「なっ、馬鹿な真似はよせ!」
な、なぜ私が女児相手に気おされなければならぬのだ! そ、そういうことをするのは良くないぞ。ぐっと両肩を押さえて引き離す。
「むぅ、ターニャお姉さまは潔癖なんですね」
「そういうのではなくだな、なんだ、その、落ち付け!」
「私は落ち着いていますけど?」
その通りだな! 落ち付け自分! いいか、本当にこれは色々とアウトだ。ヨクナイことが起こりかねん。
「うん、これは私とアリアスの誓約だ。私がアリアスを信頼し、アリアスが私を信頼する限り、秘密は永遠に守られるだろう」
「わぁ、なんだかプロポーズみたいですねそれ」
本当だ、間違ったか? 大分動揺しているな。
「とにかく! 代償など不要だ、私は決して秘密を漏らしたりはしない」
絶対にだぞ。何せ本気でロクなことが起きない未来しか見えてこない。というか何故不満そうな顔をしているんだアリアス。
「ぶぅ、じゃあそれでいいです」
口を尖らせてそっぽを向く、何だか愛らしいなとは思うぞ。だが今それを口にしてはいけない気がしてならない。
「大まかにでも能力を知ったんだ、それをどう活用できるかを考えてみることにしよう」
よし、まとまった! 実際問題として、使えるようなものかを検証する必要はある。私がどうこうではなく、アリアスの将来の為にだ。こんな子供を実験台にするようなのは、正気とは思えんぞ。シューゲルとかいったな、もし会うことがあればしこたま文句を言ってやろう。
とまあこの時は他人ごとだと思っていたのだが、これからそう遠くない未来に、自分のことで日々文句を言うことになるとは、まったく想像すらしていなかった。
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