第6話 違和感が走り抜ける

 周辺に敵影無し、ならば突っ込むか! 遊兵を置いているのは得策ではない、攻撃は最大の防御とはこれのことか? 不安定な戦い方なのは承知の上で、こいつは攻勢戦の推進だと解釈するぞ。


 視界を出来るだけ広く持って、戦闘空域へと突入する。敵味方の識別だ!


「……劣勢か、来てよかったよ。中隊長より各位、一斉に上昇しろ!」


 命令に即座に反応出来たのはわずかだったが、隙を見てそれぞれが上昇する。これで敵味方が分離できた、劣勢から同等の状況になっただけでヨシとしよう。


「各隊長は攻撃に専念、残りは支援に特化しろ!」


 命令は簡単な方が良い。下手な攻撃は同士討ちを誘うことすらある、ならば手数を減らしてでも確実性を採るべきだ。敵の中隊長は何処にいる? 探している間に斜め後ろから攻撃をされてしまう、だがそこに誰かが割り込んできた。


「先輩、背中は私が守ります!」


「アルヴィン生徒か、期待しているぞ」


 撃墜されてはいなかったようでなによりだ。さて乱戦から組織戦へと変わったわけだが……そうほう十人ということはフラッグはお互い無視しての殴り合いなわけか、後で小言を貰いそうだな。


「行くぞ!」


 攻撃を仕掛けてはみたものの、どうにもすっきりと戦えない。味方がバラバラに動きすぎていて、支援が上手く行っていない。隊長を戦闘にまわしているからだな、戦いながら指揮をとれるほどの手練れはここには居ないか。


 そういえば支援や指揮ならば上手く出来るのかもという感じだったな。これは訓練だ、ならば任せてみるのも良かろう。


「中隊長より兵各位に通達。私がフリーで行動出来るように支援を行え、行動指揮をアルヴィン生徒に任せる」


「わ、私ですか! 了解です!」


 一号生だけならば、中隊長付になっている今ならば統括したっていいだろ? 完全に背中どころか防御を任せてしまい、小隊長らを目で追う。これを支援して撃墜させるぞ!


 回避する範囲を狭め、時折横やりを入れ、相手の支援を阻害する。動きたいときに動ける状況はアリアスが確保してくれているからな。撃墜数が一つ、あた一つと増えていく。


 やりやすい! なんだこれは、アリアスの指揮はそんなこまめではないのに妙に滑らかに行き渡っているぞ。チラッと兵らの顔を見ると、自身でも驚いているようなのが混ざっているな。


「突入する!」


 小隊長の動きを傍目にして、自分で戦果を挙げようと相手の一号生を狙う。慌てて急上昇して逃げようとするので、頭を押さえる意味でやや上に狙いをつけて射撃を行う。同時に二発似たような場所へ阻害射撃が加わった。


 良いぞ!


 上昇を諦めて後退に切り替える、それをめがけて私が一気に前進した。すると両脇に一人ずつついて左右の壁になってくれるではないか。距離を詰めたら全力で射撃を行うと、被弾した一号生は制御を失い墜落して行った。


「総員戦闘を停止! 中隊ごとに集まり帰投せよ」


 なんだ終わりか、さっきので六人撃墜だったんだな。まあいい、こちらの優勢か勝利だろう。


「中隊各位、これより帰投する。小隊は被撃墜者を回収の後、合流せよ」


 私のところは一人やられているな、この先の低木林地で座ってる。抱いて戻るように命じると傍に残っているアリアスに「上出来だな」軽口をたたく。


「ターニャお姉さまの活躍の賜物ですね!」


「支援のお陰でとても戦いやすかった、これぞ隊の勝利だろう。にしても、アリアスの指揮は妙に上手くはまったな」


 言う通り部隊戦では役にたったわけだが、随分と効果が上がっているのが気にはなる。別に嫉妬でも何でもない、理解出来ない行動結果を追求しているだけだ。


「それは……ありがとう御座います」


 笑ってそう返事をされてしまった。まずは帰投するか。全員集まったのを見て、学校の傍の空き地まで飛んでいった。


 模擬戦では撃墜六、被撃墜四、フラッグ一奪取……っていつのまに奪っていたんだこれは? というまずまずの差での勝利判定を頂いた。次の模擬戦までの面目は保たれたわけだな。


 私室に戻ってじっとアリアスを見詰める。それを何か勘違いしているのか、落ち付かなそうに顔を少し赤くしてアセアセとしている。ち、違うぞ、断じて違う!


「あの、ターニャお姉さま?」


「その、なんだ。前にアリアスは部隊戦なら役に立てるといっていたが、今日はまさにその通りだったな」


 話題をこうしておけば変な空気にならずにすむぞ。私にも色々と事情があるのだ、ほら、色々とな。わかるだろ?


「えーと、そ、そうですか?」


 おや、なんだこの違和感は。こいつ、何か隠しているな。二人だけだ、迂遠な言い回しはしなくてもいいだろう。


「私は校長にペア生徒して指導を任されている。その為には互いのことを良く知るべきだとは思わんか?」


「うーん……それは、そうかも知れませんね」


 両手の指を交差させて、何故か上目遣いでこちらを見ている。多分、そういう知るべきとは違うぞ。九歳児同士が何をしようと……まったくけしからん! もうひとつ自分にもけしからん!


「異常に関しては他人のことを言えたものではないからな。気兼ねなくとまでは言わぬが、他の誰かに言えぬことでも私ならば受け止めることも出来るかも知れんぞ」


 そういう意味での境遇は、私も大概だからな。どこまで突っ込めばよいかは解らんが、当たり障りなく終わりともいかんだろう。校長は私に何を求めているのやら。

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