第52話 突撃機動型宝珠
結局市街地に戻って、マクドナドールというコーヒバーガー店に足を運んだ。大衆店だけに速さと安さメニューの入れ替わりで真新しさ、そしてそれなりの品質が売りのショップだ。ちなみにジャンクフードは嫌いじゃないぞ。
「よーしアリアス、好きなものを好きなだけ注文していいぞ。今日は私のおごりだ」
「わーい、ありがとうございまっす!」
どれだけお腹いっぱい食べたところで、紙幣の一枚を使いきることも出来ない位の値段だからな。私はクリームたっぷりのコーヒーと、チーズバーガーのセットにした。サイドメニューを一緒に注文しても、やはりさほども金額が行かない。
席についてテーブルに広がる幸せを二人で味わう、平和だな。騒然としていて隣の席の会話も聞こえてこない、誰もそんなうるさいのを気にしても居ないが。
「仕事は上手くいっているか」
およそ子供同士が話をするのにこれほど不向きな話題はない、聞こえたとしてもごっと遊びかと笑われるだろうな。証拠をだして説明しても信じない大人が大半なんだろう。
「私のほうのはまだまだですけど、お姉さまのは上手く行ったみたいですよ」
「ん、どういう意味だ?」
クリームをかき混ぜてから一口飲む、アツイ。元々冷えないように蓋をする意味で載せていたらしいから当然か。
「ほら、九五式のデータを吸い上げてフィードバックさせたやつですよ。九七式先行量産型エレニウムに替わる代物ですね」
そういえばそんな話をしていたような気もする。この九五式はあの腐れ存在Xのせいで私専用、二つと出来ないユニーク品だ。軍というのは尖った一つの何かよりも、物量を求めるものだ。
「驚きだな、あれからまだ三か月ほどしか経過していないんだぞ」
「そこがシューゲル主任の凄いところなんですよね。ゴールから逆算してるかのような発想だって、誰かが言ってました」
あのMADめ、人格は破綻しているくせに、その能力は天才的だからな。確か突然全てが一本で繋がってしまうような答えが浮かぶ、そんな表現があったな。
「さしずめ灰色の脳細胞か、いやまだ世には出ていないか?」
首を傾げて意味がわからないと言った感じのアリアスだ。まあいい、そこは重要なところではないからな。
「それで、出来栄えはどうなんだ」
「九七式突撃機動型エレニウム、二核同調の高出力、反応も伝導率も大幅に上がってかなりの性能向上になっていますね。いずれ帝国の制式装備として更新が予定されると思います」
完全に軍事機密の漏洩だな、バレたら射殺ものだぞ。自分で聞いておいてアレだが、こいつは何をこんなところで話しているんだ。まったく。
「そうだとしても、簡単には数を揃えることが出来ない。違うか?」
「まあそうなりますよねー。だって半年かけても五十個用意出来るかどうかのものって話みたいですよ」
チキンナゲットを平らげると、いよいよパフェとの勝負に乗り出すアリアス。半年で五十個では消耗に耐えんな、一部のエースに配布するのが関の山か。或いはエース部隊でも作るなら、そうだな一個大隊ならば増強部隊でも運用できるな。そんなのを率いる奴の苦労が目に見えるよ。
「アリアスの方は全然なのか」
「未だ理論構築を完成させるピースが足りないらしいですね。でももし出来上がったら、九七式指揮統率型エレニウムとかってなりそうです」
指揮特化型だとしてだな、指揮官だけが底上げなしの能力は厳しい。専属護衛をつけることで運用は出来そうだが、上官をスケープゴートにするかのような仕様は軍としてどうなんだ?
「私の想像でしかないんだが、それは仕上がったとしても利用が難しそうだな。民兵団を指揮するような、補充兵の底上げ効果が求められるなら使いどころがあるかも知れんが……」
統率を危うくして戦闘力を底上げする、安定度を求めるのが常なのだ、すんなりとはいかないぞ。それをいかにして解決するか、難しかろう。
パフェにスプーンを突っ込んでぐりぐりとしながら、うーん、と唸っているアリアスが「性能を特化させることで、効率が良くなったり、出来ないことが出来るようになるわけですよね?」宝珠の基礎についての確認をしてくる。
消費魔力は基本的に、威力と用途の乗算になっている。宝珠を通して事象を展開するので、宝珠次第で同じことをしても魔力消費が大きかったり、そもそもその回路が開いていないなどということもあるわけだ。
「そうだな、特殊なスキルを開けば全体が弱くなる。決められた中で割り振るんだから仕方ない」
百ある能力をどこにどう使うか、回路を開け閉めしてみたり、流す魔力を速めてみたり、全てに消費は伴う。かといってその選択肢の自由が無ければ宝珠の使い道がない。
「八九式とかのお古の回路を閉鎖で固定して、防御だけ展開出来るような改造をして、宝珠二個持ちしたら使い分け出来て弱点は補えそうですけどねー」
ついつい手を止めてアリアスをじーっと見詰めてしまった。二つ持ちをしているのは自分も同じだというのに、そこに気づけなかった。いや、コストはかかるが……だが旧式を改造ならば……ふーむ。
「今日はとても有意義な時間を過ごせているな」
「私もそう思います!」
きっと違うことを考えているんだろうが、結果はそういうことだ。移動や防御専用に乗り物に宝珠を仕込んだりはどうだ? 色々と考えさせられる一言だな!
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