第15話 雪山行軍演習!

 積雪地帯を歩くと言うのはそれだけで重労働だ。普段は除雪された道しか歩いていないので、想像を間違えると大変なことが起こるぞ。そもそも山に道などあるはずがない、そこからの話だ。


「あたしさぁ、ガッコ入ってまず驚いたんだよね、何で子供がいるのかって」


 エミーが突然そんなことを喋り出した。ニュアンスというか、雰囲気からしたら別に私達に喧嘩を売っているようではなさそうだな。


「なに、こちらも驚きだったさ。軍に入れと言われてからこのほど、想定内で済んだ試しは数えるほどしかないがな」


 ソリの後をついて歩く、前を見てはいるが後ろへの警戒も忘れないように、定期的に振り返るようにしているぞ。野生動物の危険は常にある、小銃もいつでも発砲できるように肩にかけている。


「ははっ、言えてる。あたしらの村って辺鄙な場所でさ、芋畑以外は殆ど何も無い場所だったんだ。農家の子供は農家になって、近所の人と結婚して子供を産んで、そしてその地で果てていく。別にそれが嫌だってわけじゃなかったんだけど、何か別の世界を見てみたいって思って街に出て魔力検査を受けたら、見事適性ありだったんだ。ね、アイナ」


「そうね、まさかで始まったけど、こうやって士官学校に在籍するようになったら、それが運命だったのかもって思えてるわ」


 運命? 運命だと! そんな下らんものは捨ててしまえ! 未来なんてのは自らの手で切り拓くものだ……などと今の私が力説したところで何も響かんだろうな。


「隊長とアリアスも同郷だったりするの?」


 ついアリアスと目を合わせてしまうと、ニッコリと微笑まれてしまった。くそっ、可愛いな。そういえばどこの出身かとか、全然聞いたことが無かったな。研究に関係していたというの以外は、殆ど何もわかっていないとはな。


「いえ、違いますよ。私は帝都で暮らしていました、故合って両親は遠くで働いてる感じですけど」


 居ないわけではないか。だからとほぼ一年中不在では、死んだも同然ではないか! 

 ここで文句を言ってもどうにもならんが、会話をしながらの方が苦労も薄まると言うならば、付き合ってやるのも役目だな。


「私は物心ついた時から孤児院暮らしだ。閉院する際についでに適性を調べる話が出てな、その時に偶然強い反応を示したからここに居る。軍に入ったことが良いか悪いかは、もう数年後に嫌でもわかるだろう」


 魔導師適性が無かったら、きっと今頃スラムでゴミを漁っていただろうことは想像出来ている。或いはどこかの好事家のオモチャにされているか、良くて奴隷のような扱いを強いられているかだな。全く、クソッタレな世界だ。


「そうなんだ。で、隊長っていつから軍に? 三号生ってことはまさか、えーと七歳からとか?」


 一年で昇級するので、単純にそう考えれば七歳にはなるな。何故年齢を知られているのか、という疑問はどうとでも考えられるので無視しておくとしよう。


「半年前だ。三か月ごとの昇級試験で二度飛び級している。次の昇級試験もパスすれば即卒業だな」


「マジで! 隊長ってばパないんですけど!」


「あはは、エミー言葉が変になってるわよ。入校して直ぐに昇級試験通るだなんて、優秀を絵に描いたかのような話ですね」


 実際どうなんだと思ったことはあるぞ。何せ飛び級に成功するのは上から十人だけだからな、しかも一定以上の成績が無ければ足切りされてしまうから、十人が最大で一人もいないことだってある。


 魔力に関しては人より優れていたが、使い方は歴年者には全く及ばん。差がついたのは筆記試験の方だ、学術のレベルが中学生程度のものが多かったからな、ずっと満点だったさ。こんなナリでも頭は大人だ。


「座学なんてのは慣れだ。身に着け方さえ慣れれば誰だって出来る、あの程度で難しいと言うような奴は努力が足りていないのだ」


「うーん、努力します。それにしても視界が悪いですね、こっちで方向あってるのかしら?」


 乱雑に生えている木々が邪魔をしている、晴れているうちは遠くを見て山の位置で居場所を把握できるが、雪が降れば方向を見失うな!


「方位磁石を持ってきたんですけど、西へ向かえば大きくは外れないと思います」


「おー、アリアスったらナイス! 地図では途中河があるから、それを越えるのが結構な障害かも」


 一時間歩いたので十分の休憩を挟むことにする。地図を確かめると、順調にいけば二日目の午後あたりに河を目にすることになるな。橋があれば良いが、どうしてそんなところに橋があるのかと言われたら答えに詰まる。


 飛んで渡れば簡単だが、宝珠の使用は禁じられている。黙って使っても使用記録が残るので絶対にチェックされてしまうぞ。細い河なら良いが、幅があるようならばどうする。凍結している可能性もあるにはあるが、流れが急だとそれも望み薄になる。


「行ってみなければ状況がはっきりとせんな」


「流石に水没は避けたいわ。凍えちゃうもの」


 みながそれには同意すると言わんばかりに大きく頷いた。自然の障害をどうやって切り抜けるか、なるほど演習は役に立つなと思ったよ。

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