第49話 軍大学での履修
◇
今日の講義は何かな。構内に貼り付けてある内容を確かめると、各級司令部と命令系統について、というお題だった。そうだな、これから私達はより上位の司令部とのやりとりが増えてくるわけだ、こういう話にも触れておく必要があるだろう。
また十数人の参加者が思い思いの席に着くと、体格も素晴らしいどこかの大佐がやって来て、アレコレと講義を行った。理解出来る部分が殆どだったが、やはり形式とか伝統で残されている邪魔な箇所がきになってしまったな。
図書館で命令系統に関する資料を集めてきて机に載せる。流石にこれは今日だけでは読み終えることは出来んだろうな、だが目を通すとしよう。それから三日かけて全ての論文も読み進め、誰も提唱していなかったのでまとめることにした。
「大体、全てのレベルの司令部をわざわざ設置しようというのが間違いなんだ。そりゃポストがあれば埋めるために人事局は喜ぶだろうが、現場では屋上屋を重ねるなど無駄オヴ無駄で有害でしかない」
そうなれば誰が責任者かもぼやけてしまうぞ。ということは反面で、どこに実行権限があるかがわからなくなり、現場の動きが鈍重になり時機を逸する。それでも失敗すれば現場の責任は問われるわけだから下らん制度だと断言できる。
この時代の軍制では方面軍の下に軍があり、軍団、師団が置かれて、旅団、連隊と下っていくわけだ。これが既にいかんというんだ! 方面軍は頂点として必要だとしよう、山のような師団を統制するのは戦略の過ちを犯しかねんから、軍或いは軍団が統括をすべきだ、両方はいらんぞ。
それと同様に、師団か旅団が連隊以下をぶら下げることで組織のスリム化を図る。方面軍、軍、師団、連隊これで指揮ラインを貫通させる。軍団と旅団は無くしてしまって構わない。逆に方面軍、旅団、大隊で編制するのも良いが、帝国の軍人数は多いのを鑑みれば先の編制の方がやりやすいだろう。
そもそも司令部を段階的に分けている意味は何だと考えれば自ずと知れて来る。仮に自分が軍司令官だとしてだ、四万の兵力を持っていたとしよう。四方に一万ずつ配備していたら、四人の下級司令官が居れば指揮しやすいだろう。
それがいなければだ、四十人の連隊やら独立部隊を個別に指揮することになり、取り違えが起きてしまったりもある。そこまで把握しろと言われても、戦闘中は無理な話だ。平時なら出来たとしても、戦時に無理では話にならん。
師団司令官ならば、千人から三千人単位の部隊指揮官に命令を出してやるのがやりやすかろう。まさか五十人からいる中隊長を個別に扱うなど出来るはずがない。二人の中級司令官を挟んで、四人の下級司令官、十二人の上級指揮官、四十八人の中級指揮官とやり取りするのは意図が曲がる可能性がある。
その上で、陸軍と海軍の別があるのは軋轢の元になる。そこでだ、陸海の上級司令部同士から抽出して設置する、統合司令部というのがあれば、陸海同時に指揮出来て大変スムースに活用できる。どちらが上官、つまりは統合司令官を出すかで揉めそうな部分はあるが、事前に揉めるのと土壇場でそうされるとでは安定感が違う。
同じ階級の司令官が並列するから問題になる、設置時点でどちらかが上官ならば陸海所属が違っても敵愾心は生まれない、はずだ。階級の差は絶対、それを自ら守るからこそ他者にも守らせるわけだからな。
二本の論文を作成して提出しておく。良い仕事をしたな、一杯やって帰るか……とはならないのがこの身体の寂しいところだ。酒場に入ろうとしても止められてしまうし、よしんば入っても酒を飲むことはできない。
「時間が解決してくれるだろう」
軽い溜息をついて軍大学を出ると、門のところでラーケンを見付ける。最近は遠目の後ろ姿でも判別できるようになってしまったな。
「ご苦労、異常はないかね」
「ええ、ございません。どうぞ中尉殿」
肩にかけていたライフルを返してもらい、目の前で軽く点検をしてから背負う。やはり手元に来た時に調べんと、イザというときに信用ならん。
「む、これは別にラーケン衛兵司令を信用していないわけではないぞ、クセのようなものだ」
こんなことをして機嫌を損ねられても面白くない、怒りだすようなものだっているだろう。通りの先でこっそり点検すれば済むだけの事だからな。
「いえ、常在戦場の心がけ、誠に立派です。全ての軍人が心掛けるべき意志ではありますが、続けるのは至難の業でしょう」
「気を使って貰って悪いな。帝国の勝利と繁栄を望んでいるが、一切の犠牲無くしてなしえるほど甘い世の中ではないと知っている。せめて身の周りの者だけでも、自らを律して生きて欲しいと願っているよ。では失礼する」
とても幼女の台詞とは思えないことを、ラーケンは大まじめに聞いてくれているが、隣の軍曹は白けた顔をしているな。いいさ、私はそれでも公平に扱う。ちょっとばかり不都合が重なって残念なことになる時もあるかも知れんがな!
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