第29話 ターニャの教え

 こちらは棒立ち、一方で周りは険しい顔をして小銃を構えている。それには銃剣も装備されているが、いずれにしても宝珠の受動防御機能は自動で発生しているので刺さることはない。黙って受けていると、次第に魔力が圧迫されて気絶してしまうだろうがな。


「どうしたウジムシ共、いくらでもかかってこい。これは訓練だ、間違って私を倒してしまったとしても何ら罪には問われんぞ。憎たらしい上官を鼻歌混じりで叩きのめす機会を失するのも面白くなかろう? それとも私が怖いか、くくく」


 安い挑発をしてやると、囲んでいる奴らがついに進み出て来る。「うおー!」声を出して銃剣を突き出して突進、三方向から同時にだ。魔導師であたっとしても、幼女相手にそうやって迫るのは感心出来んぞ。


 ふわりと浮き上がると、床すれすれを飛んで軍靴の底で男の腹を蹴り飛ばしてやる。体重はそこまでなくとも、速度が乗っていたのでふらついて後ろへ転がって行った。その反動で上方へと飛び上がると、天井を蹴って頭上めがけて銃床から衝突。


「ぐわぁ!」


 頭を押さえて転がるのをしり目に、残る一人に真っ正面からぶつかる。そいつは小銃を振り回して、私の顔を狙って来るではないか。まったく、訓練であれど子供相手にどこまでやるつもりなのだ、けしからん!


 真っ向勝負を挑むはずもなく、囮の残像を見事に殴りつけてしまい、手ごたえが無かったせいでふらつく。その側面を、思い切り蹴りつけてやった。


「私が怪我をするところだったではないか、貴様等とは価値が違うのだ、丁重に扱わんとならんぞ?」


 魔導攻撃をしたわけではない、それなのにこうも簡単にあしらわれてしまい、少しばかり身を後ろに引く奴らが見て取れた。弱気、なんたる弱気なのだ! この程度の交戦で士気を下げてしまうようでは先が思いやられる!


「私の忠告が難しかったようだな、これについては謝罪しよう。貴様等に考える力があると判断したのが私の誤りだった。無価値のゴミクズ共、さっさと退学届けを書いて速やかにここを去れ。意気を上げて向かうことすら出来んウジムシになど、これ以上関わるのは時間の無駄というものだ。そう思うだろう?」


 つまらん、心底つまらん。そんな表情でため息をついてやる。するとどうだろうか、あの超不満顔をしていた男が怒りを爆発させた。


「黙って聞いてりゃいい気になりやがって、ふざけるなよこのガキが! 三号生だからって何様のつもりだ!」


 銃口を向けるとこちらに向けて発砲した、練習弾であっても直撃すれば怪我をするし、目や喉にあたれば死んだりすることだってある。それをだ、躊躇なく私の顔めがけて撃ってきた、それも至近距離でだぞ。


 バチン! 透明の壁に弾かれた弾が壁にめり込む。電撃術式。何かが発光したかと思うと、その瞬間男が「ぎゃああ!」悲鳴を上げて床に転がる。


「おっと、少々威力を上げ過ぎたか? 上官を侮辱したのを許す程、私は優しくはないぞ。とはいえ良くぞ一撃を狙ってきた、まだ見込みがあるウジムシだという証明をした。だが一匹だけ特別扱いなどせん、喜べ貴様等全員連帯責任だ!」


 室内に光が迸った、すると全員が電撃術式によるマヒを起こす。小銃を取り落として床に転がり呻きを漏らす。


「なんだ侮辱への反省が見えんな、ほれ何か言ってみろ。うん、しびれて声も出ないのか? まあ謝罪を述べるだけの脳みそがあるかも疑わしい、頭には一体何が詰まっているんだ。まさかバーベキューソースでも入っているのではなかろうな、ははははは!」


「……そ、が……」


「うーん、何だよく聞こえんな。はっきりと喋れクズ」


 近づくと襟を掴んで引っ張ってやる、何と素晴らしい悪役だろうか! そうだ、憎め、怒れ!


「くそっ、この狂人め! 人格破綻者が!」


 ようやくしびれが収まってきて声を上げたか、何とも香ばしいものだな。もう少しピエロの真似事を続けてやるとしよう。そいつを魔力で思い切り跳ね飛ばしてやった、窓のある側の壁もろともだ。


 煉瓦が弾け飛ぶ音と共に、多目的ルームに大きな風穴があいてしまう。後で修理させるとしよう。二階にあるその風穴から下を見ると、転落した男子生徒がこちらを睨んでいる。それに、生徒らが注目しているな。良いぞ、ここで一気に私にヘイトを集める。


 ふわりと飛んで目の前に着地すると、銃剣をそいつの顔先に向けてやる。腰をついてしまって居るので、目線はこちらが上だ。


「どうやら貴様は、過ちを犯しても謝罪をするという結論には至らないようだな。いかん、いかんぞ、それでは軍の秩序が保てん。矯正が困難であるならば、速やかな処分が必要だろう。腐ったリンゴは早めに取り除かねば周りが迷惑を被る」


 左足をみぞおちあたりに乗せると体重をかけて制圧する。銃剣の切っ先はそいつの喉元を狙っていた。ああ、こうやって折角の兵力を処分するのはもったいないものだ。


「デグレチャフ三号生、何をしている!」


 ベルクシュタイン教官が鋭い声を刺し込んで来る、まあ見ていると思いましたよ。

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