第46話 軍大学入校!


 神よクタバレ、と願っていたのだが、危うく私がそうなるところだった。九五式エレニウムの技術最高到達点に触れ、敵の魔導中隊と単独で交戦して見事に負傷。それでも戦闘結果を鑑みて、航空突撃章を授与された、正直しんどい。


 そんな勲章持ちの研究所帰りの私は、帝国軍第205強襲魔導中隊に部隊配属されることになった。そこの小隊長だ、シュワルコフ中尉が中隊長で、人の好いおじさんといった印象の人物だったな。


 だが間違ってはいけない、二級従軍章をぶらさげた将校がただのおじさんなわけがないというところに注意だ。軍歴がモノを言う従軍章、常に戦いの渦中に身を投じていた証だぞ。


「少尉、セレブリャコーフ伍長です、以後宜しくお願い致します!」


 部隊配属時に同時に所属が決まった伍長は、私より七つ上の十七歳、花のセブンティーンだな。というのも先日私は誕生日を迎えて十歳になったばかりだ、秋も深まる時期になってから気づいたよ。


 でだ、どこにいるかというと、帝国の西部でライン戦線だ。共和国との戦いは始まったばかりで、既に多くの兵が命を散らしている。そんな香ばしい戦場へお呼ばれしたからには、相応の結果を出したいと考えているところだ。


 戦場にやって来て何をするかといえば、戦いだ。そんなものは真面目に語っても仕方ないので割愛する。一つ面白いものを見ることは出来た、それは思考魔導と事象の体現が異なる結果を示す事例があるという証左だった。


 何かというと、律儀に直立不動の敬礼をしながら飛行をする古参兵だ。分隊長のショーンズ軍曹は、ここライン戦線の最古参先任軍曹らしく、九七式の使い方があまりにも滑らか過ぎて笑ってしまうほど。


 あのような利用方法があたっとはな、私では思いつかん。今度こっそり練習してみようなどと思わせるほどの手練れだ。戦闘中でも心の余裕があり、見事な指揮を見せていたのが印象的だったさ。


 バディのセレブリャコーフ伍長も気が利くもので、常に私を心配しながら飛び回っていた。少々戦闘能力に難ありと言わざるを得なかったが、そんなものは生き残りさえすれば後からついてくるものだからな。


 あっという間に時間が流れると、軍大学へ入ることが出来ると聞かされた。それこそまさにエリートコースの登竜門、ここを経ずして後方の高級参謀にはなれない。心では喜んで、表情は前線を離れるのが悔しいと作り、冬の盛りに首都へと異動することになった。


 ライン戦線までの撃墜数は六十二、これをもってエースオヴエースと呼ばれ、中尉に昇進を果たした。正気かと思うが軍歴だけを見れば適正なんだろうな、ご存知だろうが十歳の子供だぞ。


 軍大学、軍人が一定の軍勤務を行い、素行や功績など良好であり、更には所属長の推薦があった場合のみ入校が許される場所。私は今そこへやってきている。市街地に一部屋だけとは言えフラットが宛がわれ、そこで一人暮らし。まさに自由な生活を保証された最高の環境だ!


「ほう、ここが軍大学か。素晴らしいものだ」


 微笑して校舎を見上げる、威風堂々とした建築物には帝国の国旗や軍旗が並べて立てられている。本当に良いものだなこういう時間は。しんみりと味わっていると、門衛が近づいてきた。軍服の上にコートを着込んで軍帽を被った巨人、なんだ地獄の門番か?


「ここは帝国軍大学ですが、ご用でしょうか」


 おや、意外と丁寧な扱いをしてくるな、感心なことだ。肩のは見えないが、襟にある記章を確認する。准尉か、明らかに士官学校の実地研修者ではない、ならば現場のたたき上げだ。


「デグレチャフ中尉だ、今日から軍大学で世話になる。貴官は」


「これは失礼いたしました中尉殿。自分はラーケン衛兵司令です、全ての人物の出入りを担当しておりますので、どうぞお見知りおきを」


「私のような不審者相手にも丁寧で、なおかつ隙のない目配りをするとは、さすが現場を生き残って来ただけのことはある。私は歴年の下士官を尊敬する」


 今は准士官か。世界はこういう人物によって円滑に活動を保証されているんだ。階級がどうとかではなく、人物を見るべきだぞ。その点このラーケン衛兵司令は充分すぎるほどに優秀だ!


「そのお言葉に感謝の意を示させて頂きます。職務故失礼しますが、軍大学内は銃器の持ち込みを禁止しておりますので、中尉殿のライフルをお預かりしても宜しいでしょうか?」


「うん? そういえば抱えていたな。首都の大学に通うと言うのに物騒なものを持ってきてしまった、クセでな。ライン戦線での日常が抜けきっていないらしい」


 抱えていたライフルのスリングを肩から外すと一瞥してラーケンに手渡す。


「随分と使い込まれたようですね。それに銀翼突撃章と航空突撃章ですか。もしや白銀と呼ばれているのは?」


「そう呼んでくれと頼んだことは一度もないがね」


 肩をすくめて肯定する。ほんとだぞ、なんでそんな中二病丸出しのアダナなぞつけられなければならんのだ。


「そうでしたか! いやはや、数々の武勲を聞き及んでおります。何かご用がありましたら、いつでも自分へお申し付けください中尉殿」


「そうか。早速で悪いが、校長室へ案内を頼みたいが構わんかね?」


 妙に物分かりが良い男だとは思ったが、戦場で死に目を見た奴ほど真贋を見分ける嗅覚が強くなるらしい。これを皮切りに、ラーケンと挨拶を交わすのが一日の始まりになった。部下を持つならばこういう奴が最高なんだがな!

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